事後処理準備

 ベンドはクルスを手招きした。クルスはどうすればいいのかよくわからないままにとりあえずついて行った。

 ベンドは領主館を出ていった。

「ほかの皆はついてこないけど、いいのか?」

「ああ、後からついてきて、新しい情報が来たら、その必要物資の準備のために出て来るさ」 

 クルスの問いにベンドは気楽そうに答えた。

「俺らは今のうちから丸太の準備しておこう。時間はいくらあっても足りないからな」

 ベンドはそう言って東門から街を出た。

 東門と言えばかつてクルスがこの町を訪れたときに通った門だ。

 あの時の番兵と同じ格好の別人が門番をしていた。

 そして、門から少し離れたところに壁に立てかけられた無数の丸太がある。その傍らに随分と使い込まれた荷車が置いてある。

「こいつらを荷馬車に移す。ただ、扱いには気を付けてくれよ。バランスを崩すと、全部崩れるからな。滅多にそんなことは無いけど、一応な」

「安全そうなやつはどれなんだ?」

「まずは、こいつかな」

「了解した」

 クルスはベンドの指示した丸太の方へ歩き出した。

「あ~あ~、ちょいまちなって。全然整形してないから、これ使いな。そのまんまじゃ手が無事じゃ済まないよ」

 ベンドはそう言って手袋を渡してくれた。

「貸してやるから、後で買えよ?商店の方で売ってるからさ」

「すまない」

 クルスはそう言って軍手をはめると、丸太を掴んだ。

「重ッ!」

 クルスはそう言いながらも丸太を片腕で担ぎ上げた。

「嘘だろ!!」

 ベンドはギョッとしたような声を挙げた。

「どんな怪力だよ」

「いやいや、これくらい。俺だってやっとだよ」

 そういいながらクルスはもう一本の丸太を担ぎ上げた。

「ひぇ~。そんな細身でよくそんなに持ち上げられるなぁ~」

 ベンドはそういってあきれ顔をした。

「俺は本当は二人で作業しようと思ってきたんだが・・・。仕事が無いな」

「そこで俺に指示だけ出してくれればいい。先輩」

 クルスはそう言って黙々と丸太を運び始めた。


 ゆったりとした鐘の音が響き渡り始めた。

「お、今日は早かったな」

 ベンドは空を仰いでホッとしたようにつぶやく。

「戦いが終わって、一通り敵さんもいなくなったことが分かったって伝える鐘だな」



 そうこうしていると、馬を連れたポットと作業班の残りのメンバーがやってきた。

「今回は運がいいぞ!ベンド!丸太は10本で良い!あとはカタパルトの整備と巻取りだけだ!」

「カタパルト?」

「第一塹壕と第二塹壕の間に造った兵器でね。カタパルトって言ってるけど、巨大な刀を振るう機械みたいなもんさ」

 ベンドはそう言って腕を水平にふるった。

「巻取りを解除すれば、バネの力で刃がすっ飛ぶ。戦闘開始時に一番最初に現場に到着した人はこのカタパルトを解放して、第一陣の足を削ぐんだ」

 ベンドは丁寧に説明してくれた。

「んでそうだ、ポットさん!もう10本は積み切ってる!すぐにでも出発できる!」

「おお、そいつは何よりだ!なんなら少し余裕があるかもしれないな!」

「今回の新人はすごいですぜ。一人でこれだけ動かしてんですから」

 ベンドはクルスに笑顔を向けた。

「い、いや、そんなことを言われるほどのことじゃない」

 クルスはかえってバツが悪そうな態度で言った。


「よーし、今のうちから馬車を動かすぞ!」 

 ポットはそう言って荷馬車の御者席に乗り込んだ。

「おい、新入り!ぼさっとするな!」

「へ?馬車で行くんじゃないんで?」

「馬だけでこれだけの量を運べるわけがねぇだろ!人手でもってお押すんだよ!」

 

 そう言う訳でクルスは丸太を積み上げた荷馬車を後ろから押す仕事に駆り出された。

「う、馬だけで何とかなるもんじゃないんだな・・・」

「ここじゃ馬も不足なんだ。だから、こうして無理やりにでも押していくしかないのさ」

 街中を通っている間は、住人たちが少しずつ押したり引っ張ったりで少しずつ手伝ってくれた。

 しかしある程度まで進むと、住人たちは次々と離れて言った。

「最終安全確認が取れるまで、ここで止まるぞ」

 ポットは御者席で指示を出した。

 そこから先は廃墟区画。壁を超えられ、獣たちの襲撃を受け、都市の一画ではあるものの、廃棄された区画だった。

 ここが最終防衛ラインということになっており、事後作業班はここで安全が確認されるまで待機しなければならなかった。

 しかし、その最終防衛ラインに近づきたがる住人もおらず、だからこそ、手伝いの住人もこのあたりになるともう誰も居なくなっていたのだった。

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