事後処理班の日々
朝食
結局、クルスは泣きながらも荷物をまとめて宿舎の自分の部屋に入った。
シンプルだけが取り柄のような殺風景な部屋だったが、クルスにとってはこちらの方が気楽だった。
クルスは荷物を置くとさっさとベッドで寝てしまった。
ベッドは堅さにムラがあったが屋根と壁とベッドがあるだけありがたいと思えるクルスはあっという間に入眠した。
翌朝。クルスはコートのまま寝たことを後悔しながら起床した。
「え~っと、飯は食堂で食えるんだったか」
クルスは昨日みっちり受けた講義の内容をしっかりと実践する気構えだ。
急ごしらえの食堂は、平屋でだだっ広い事と宿舎の隣にあることだけが取り柄だった。
しかし、そこで提供される飯は素材も調理もかなりまともな食事だった。
クルスが食堂に入った頃にはまだ2人しか食堂に人がいなかったが、クルスが飯のうまさに感動している間に、次々と人々が起きてきて、食堂に入ってきた。
そして、クルスを見た数人は、クスクスと小ばかにしたような笑みを浮かべるのだった。
クルスは気まずかった。
昨日、宿舎の前であれだけ大泣きしたのだ。バカにされるのも無理はないだろう。しかも、英雄気取りで無鉄砲に跳び込んでいって、処罰を受ける身だ。なおのことバカにされても仕方ない。
だから、人が増えて来てからは、出来るだけ小さくなって食事をするようにした。
「何を小さくなって食事をしているのだ?」
そこへ現れたのはエースだった。
クルスは思わず露骨に嫌な顔をしてしまった。
「そう嫌な顔をするな。君への非礼は昨日詫びただろう」
クルスとしては殴られたことよりも別のことが気がかりなのだが、それを直接言うのもはばかられ、つい口をつぐんでしまった。
「なんでも、キーリッシュに絡んでいたようだが、彼女とは何か因縁が?」
「いや、大したことじゃない」
クルスは努めて冷静に答えた。
「ならいい。彼女はああ見えて冷酷な人間でね。私としてもあまり関わることを勧めるものではないよ」
エースは得意げに、かつ、親切そうに言った。この金髪男は本心からの親切心でそう言ったのだろう。
しかし、だからと言って幼馴染を悪く言われていい気分はしない。
本当にそうだろうか。
自分を忘れてしまうような、一方的に幼馴染だと思っていただけの相手の肩を持つ必要があるのだろうか。
クルスは首を振った。
「どうした?」
「いや、あまり他人の陰口をいう物じゃない、と思ってな」
クルスは一般論ではぐらかすことにした。
「それもそうだがな。君があれだけ泣かされているのを見て、私は彼女への警戒心を強めたよ」
「警戒心?」
「ああ・・・いや、何でもない」
「もったいつけるな」
クルスは苛立ったように言った。
エースは少しだけ考え込んでからクルスに向かって尋ねた。
「君は、彼女を古くから知っているようだが、彼女は昔からあそこまで腕が立つ人物だったのかい?」
クルスは質問の意図を把握しかねた。
「どういうことだ?」
「いや、分からないのならいい」
クルスは顔をしかめたが、エースは近寄ってきた他のハンターに挨拶を振りまいていた。
「お先に失礼するよ」
クルスはなんとなく納得いかない気持ちを抱えつつ、エースから離れるのだった。
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