白騎士との邂逅

 クルスは状況が呑み込めないまま身動きが取れずにいた。

 そして、クルスは真っ二つになったサイの体の下敷きになった。

「まったくバカな奴だな・・・」

 そう言って近づいてきたのは、白銀の鎧を身にまとった金髪の男だった。

 金髪の男は持っていた大剣を地に突き刺すと、不抜けた顔でサイの半身の下敷きになっているクルスに手を差し伸べた。

「持ち上げられないほど非力でもないのだろう?」

「ああ、そうだな」

 クルスはそう言ってサイの半身を持ち上げながらはい出した。

 金髪の男はクルスに力をあわせて引っ張り上げ、立たせることに助力してくれた。

「ありがとう」

「なに、君を半身の下敷きにしてしまったから、その詫びだ」

 金髪の男はそう言いながら、さわやかに微笑んだ。

 そして、エースは大剣を儀礼風に掲げながら名乗った。

「私はエース・フォン・グッデンバーだ」

 エースの白銀の鎧には白布の装飾がついている。白布の装飾は汚れつつあるものの、日々洗濯され、汚れが染みつかない様に手入れされているように見えた。よほど良い家に生まれたのだろう。

 得物と思しき大剣もだいぶ変わっている。全体は黒いが、刃の部分は紫色の光沢を帯びている。柄はU字になっていて、どうやら持ち替えて振るうことができるようだった。

 クルスでもそれくらいのことは容易に想像できた。


 エースはクルスの姿をジロジロと見つめた。

「名札も腕章もない・・・。登録外か」

 クルスは首を傾げた。

「この防衛圏は陛下直轄任務対象、簡単に言うと、陛下が直接面倒を見ている。そのため、登録の際には手続きと講習が必要なのだ。それを登録という。その登録を行わずに戦闘を行うと、報酬の支払いがないどころか、罰則の対象ともなりえる」

「なるほど」

 クルスはうなずいた。

「え!?罰則!?」

「鈍い奴だな。頭が遅いのか?」

 エースの言葉にクルスは若干ムッとした。

 

 そのとき、都市の西壁のやぐらの方からゆっくりとした鐘の音が聞こえてきた。

 そのゆっくりとしたリズムから、戦闘が終了したことは、クルスでもなんとなく理解できた。

「幸い、今回の任務は大したことは無かったようだな。さて」

 エースはその瞬間、クルスの鳩尾に甲冑の付いた拳で一撃を入れた。

「ぐぉっ!」

 クルスは膝を負って苦しんだが、意識は断ちきれず、ギリギリのところで耐えていた。

「なめんじゃ・・・ねぇ・・・!」

 クルスはいきなり殴られて何が起きているのかよく理解できなかった。だが、やられた分だけでもやり返してやる。クルスはそう思ってもうろうとし始めた意識の中で、拳を握りしめた。

 そして、クルスの拳がエースの顎覆いに炸裂した。

 エースの体がかすかに浮き上がる。

「まさかっ!」

 エースは体を浮かせるほどの威力のクルスの拳に驚愕の声をあげた。しかし、顎覆いのおかげでダメージはほとんどない。

 エースが鎧の音を立てて着地するのと同時にクルスはそのまま倒れこんでしまった。


「いいんスか?私刑に相当するんじゃないんスか?白騎士様」

 赤ジャケットの少年はエースをにらみつけて言った。

「そもそも、未登録での戦闘行為を禁止する条項は防衛圏規則にはないはずッスよ」

「未登録での戦闘行為を犯すような無法者を放っておくわけにはいかない」

 エースは赤ジャケットの少年を見下ろしていった。

「それとも、君も規則違反に協力した咎で罰則を受けるか?」

「あぁん!?ンダゴフッ!!!!」

 食って掛かろうとした赤ジャケットの少年が今度は背後から本で殴りつけられた。

「痛ってぇ!!」

 本で殴りかかってきたのは青い少年だった。

「食って掛かるのも、喧嘩も、よせ。状況は僕らに不利なんだ。」

 赤ジャケットの少年は承服しかねていたが青い少年はエースの方を向いた。

「あなたはこの件で僕らを罪に問う気はないんでしょう?証人として呼ばれれば、証言はしますよ」

 青い少年はそう言って、赤ジャケットの少年を引っ張った。

「賢明な判断だ」

「あなたに従うわけじゃない。ただ、それが一番自体が丸く収まると言うだけの話だ」

 青い少年は、つぶやくようにそう言って、赤ジャケットの少年を連れ去った。

「さて、私は彼を連れていくか」

 エースはそう言って、クルスを軽々と抱え上げた。

 それから、エースは顎覆いを撫でて改めて驚くことになった。

 金属でできた顎覆いはクルスの拳に穿たれて、若干凹んでいた。

「気絶しかかっていてこの威力か。恐ろしい奴め」

 エースはクルスだけを担いでそのまま、入り口近くの領主館に向かって歩き出した。

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