防衛圏にて刃を振るう 2

 クルスと言えど、あんな怪物と素手でやりあうほど無謀ではない。

 だが、武器を取り戻さなくては話にならない。

 クルスは熊の方へ突っ込んでいく。

 熊は突進を続ける。

 クルスは熊と激突する瞬間に急停止すると、熊の頭に手を着いて飛び上がった。

「嘘だろ!?」

 赤ジャケットの少年は素っ頓狂な声を上げてクルスを見上げた。

「バカ!よそ見をするな!」

 青い少年が赤ジャケットの少年に叫んだ。

「やっべ!」

 赤ジャケットの少年はもんどりうって転がってよけた。

 そのうえで、爆竹を熊の顔をめがけて投げつけた。

「後で請求してやるっスよ!」

 青い目の少年のボウガンから矢が放たれる。

 しかし、目を狙った矢は狙いを外れた。それでも運よく、熊の耳に突き刺さった。

「ふぅっ・・・」

 青い少年はため息をついた。

 クルスは鎌のところまで着地し、目と耳を潰された熊の背後から思い切り斬りかかった。

 熊の後脚の腱が抉られた。

「グオオオオオオオ!」 

 熊の叫びがとどろいた。

 しかし、勝負はついていた。

 クルスは体をねじり、鎌を思い切り構えると勢いよく踏み込み、熊の後ろ脚を付け根から斬りおとした。

「すっげぇ・・・」

 赤いジャケットの少年は呆然としながら言った。

「おい!とどめをさせ!」

 青い少年が再び赤ジャケットの少年に向かって怒鳴った。

「ああ、そうだった」

 赤ジャケットの少年は素早く踏み込むと、熊の眉間に剣を突きたてた。

 この時点で、熊は絶命した。

「あ~ぁ・・・、もうこの剣は使えないッスね」

 熊の眉間に打ち込むなどと言う無茶をさせたのだ。それ以前にも大分無茶をさせた。

 赤ジャケットの少年は勿体なさそうに剣を見つめていたが、それを腰の鞘にしまった。 

「悪かったな」

 クルスは少年の勿体なさそうな顔を見て言った。

「本当ッスよ!」

 赤いジャケットの少年は目くじらを立てて言った。  

「あんた!何考えてるっスか!あんな無茶な戦いしても死ぬだけっスよ!」

「まぁ、そうかもしれないな・・・。少し無茶しすぎた」


 しかし、今度は狼の群れが襲ってきた。

「ガキ!逃げろ!」

 クルスは鎌を支点に体を浮かせると、狼を蹴り飛ばした。

「申し訳ないけど、頼むッス!」

 赤ジャケットの少年はそれでも盾を構えながら後退した。

 さらに狼が襲ってくる。

 クルスは鎌を大地から引き抜くと柄頭を狼の口にぶち込んだ。

 そして、別の狼に向かって鎌の刃を振るった。

 柄頭の狼は勢いよく吹き飛ばされ、近くの壁に叩き付けられた。

 刃を向けられた狼は真っ二つになった。

「ふぅっ・・・」

 クルスは周囲を見回した。

 狼はこれで最後だったようだ。

 群れの大半を誰かが潰したことは容易に想像できた。


「このギリギリの状態でよく都市を維持できたな」

 クルスは感嘆の声を漏らした。

 見ると、赤ジャケットの少年は、虫の息の獣たちの首をナイフで引き裂き、確実に絶命させていた。

「それが、ここの流儀なのか?」

「そうっスよ。知らないんスか?」

 クルスはその言い方に少しムッとしたが、即座に鎌を構え直した。

「しかし、今日は本当にきついっスね・・・いつにもまして・・・数が多いっス」

「次のお客か」

 クルスは遠くから猛突進してくサイに似た獣を見て言った。

 クルスは鎌を水平に思い切り振りかぶった。

 サイの厚い皮膚の隙間を狙ったが、クルスの狙いは外れ、鎌はサイの外皮に弾かれた。

 サイはクルスをにらみつけた。

 クルスは反射的に飛びのいた。

「ダメッス!!!」

 赤ジャケットの少年が叫んだ。

 間合いを広げたのが間違いだった事はすぐに理解できた。

 サイはクルスに体当たりを繰り出したからだ。

「うぐぉあっ!!」

 クルスの体がふっ飛ばされて、背後の住宅の壁にめり込む。

 しかし、即座にクルスは前に転がる様に壁から飛び出した。

 そして、サイに向かって蹴りを放つ。

「ありゃぁ」

 クルスは思わず情けない声をあげた。

 蹴りは効く訳もなく、サイの体はピクリとも動かない。

 その時、サイが真っ二つになった。

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