防衛圏にて刃を振るう 1

 クルスは一直線に獣と女性の間に向かって急降下した。

 そして、その勢いで抜いた。クルスの得物である鎌を。

 女性を追っていた獣はクルスの鎌の刃に真っ二つになった。

「っしゃ!」

 クルスは笑みを浮かべた。

「大丈夫か?!」

 クルスは戦闘時における高揚状態に陥ってはいたが、振り返って女性を気遣った。

「え、あ、はい・・・」

 女性は唖然として言った。

「その・・・ありがとうございます」

 女性は頭を下げた。女性は修道女のようだった。

「援護する。何とか逃げ切るんだ!」

「は、はい!」

 女性はクルスに気圧されたかの様に素っ頓狂な声で返事をした。

 そして、女性は慌てたようにぺこぺこして、走って逃げ出した。

 しかし、クルスはそれに応対する暇もなかった。

 背後に更なる獣の気配を感じたからだ。

 振り向きざまに思い切り鎌を横ぶりに振るう。

 しかし、狙いも定めず振るった鎌は、柄で獣の足を打つだけだった。

「刃を通せなかったか!」

 相手の足にもそれなりのダメージを加えたはずだ。

 だが、その反動で喰らった衝撃は想像以上に大きかった。

 クルスは手がビリビリするのを感じた。

 そして、クルスはその理由を、姿を見て理解した。

 その獣は巨躯の熊だった。

 熊がゆっくりと上体を起こす。

「嘘だろ?!」

 熊は3メートルほどもある巨体でクルスを見下ろすと、そのまま腕を振り下ろした。

 クルスはなんとか熊の掌を鎌の柄で受け止めた。

「グググゥ・・・ッグ!!」

 クルスはは歯を食いしばって推し負けない様に全身に力を込めた。

 しかし、熊の巨躯の体重と力に圧され、次第に脚が曲がりはじめてきた。

 一瞬、熊の力が緩む。

 クルスはその瞬間を逃さず、鎌を離して転がる様に後に転がった。

 熊は地に足を着け、クルスの鎌を踏みつけた。

「あんな熊とサシでやろうなんて正気じゃないっスよ!!」

 クルスの傍らに、赤いジャケットを着た少年が並んで言った。

「俺たちが隙を作らなきゃ、死んでたッスからね!」

 熊の後脚の膝裏が燃え上がっていた。その中央には、ナイフで突き刺した紙が光を放っていた。

 どうやら、この少年が魔術書のページで火をつけてくれたおかげで隙ができたらしい。

 熊は体を勢いよく振るって火を消そうとしていた。

「まぁ、あんたのおかげで毛皮を避けながら、後ろ足にナイフなんか刺せたんスけどね!」

 赤いジャケットの少年はそういって、剣をと盾を構え直した。

「ともかく、ここは俺たちが引き受けるッス。あんたは、いったん退くべきっス」

「なんでだ!?」

 クルスは赤いジャケットの少年に向かって抗議しようとした。

「冷静じゃないからッスよ。言ったでしょ。あのレベルの巨熊とサシでやるなんて正気じゃないって」

 この少年は見かけによらず状況の判断が効くらしい。年の割にそれなりの経験を積んできていると見受けられた。

 だが、相手は強敵だ。それは見ればすぐにわかる。

「だが、お前だけに任せてはおけないな」

「俺たちって言ったッスよね!?話聞かないんすか!!」

 クルスは後ろを振り返った。紫のゴーグルをつけた青い少年が後方でクロスボウを構えている。

 その瞬間、熊が突進してきた。

「二度もやられてたまるかよ!!」

「クッソ!おい!援護に入るぞ!」

 赤いジャケットの少年は背後の少年に呼びかけた。

「これ以上、後退はできない!援軍を呼ぶべきだ!」

 青い少年は苦言を呈したが、赤ジャケットの少年は聞かずに前に出た。

「クッソ、死ぬんじゃないぞ」

 青い少年は吠えるように言った。

 クルスは熊の真正面に向かって突っ走った。

 まずは、鎌を回収しなければどうにもならない。

 クルスと言えど、あんな怪物と素手でやりあうほど無謀ではない。

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