防衛圏を知る

 町の中は思っていたより活気があった。というよりも、半ば喧騒という状態だった。

 先ほどの話では、城壁が破壊され、都市の半分ほどが戦場となっている。

 もっと悲壮感が漂っているかと思っていたが、街はとにかく活気があった。

 町に入ってすぐのところに、大きな建物が2つある。一つは見た目からして領主館と思われた。その隣の建物も、見た目からすぐ、聖堂なのだろうと思った。

「よくわからずに来ちゃったからな・・・。どうすればいいんだ」

 クルスはとにかく情報を集めるためにも町の奥に歩き出した。

 活気があると言ったが、それは、商売をしている活気ではなかった。明るいうちにとにかくできるだけのことをしなければ、街を守り切れない、そう言った焦りから、誰もかれもが動き回っていたからだ。

 多くの人々は破壊された壁や家屋を修復する建材を運ぶか、加工しているかだった。

 しかし、クルスは建設音のほかに、戦闘音が混じっていることに気が付いた。

 しかも、音の距離は、壁の内側からだ。

 クルスは思わず足を早めてそちらに向かった。

 先ほどの話から分かっていたことだったが、壁は突破され都市の一部が戦場と化しているのだ。

 クルスはかすかであっても戦闘音が聞こえると気が急いてしまって走り出してしまった。

 かなりの勢いで走っても都市の西側の方ににたどり着くまでに、数十分かかった。

 そして、クルスは、知覚に会った廃墟の上に飛び乗ってあたりを見まわした。


 街の半分が戦場と化しているというのは本当だった。 

 西側の大壁が突破されてしまっている。西側半分は廃墟だらけで、壁のすぐ近くまで行くと、家は土台だけ残して廃墟すら残っていなかった。

 壁の向こう側は荒野で、2筋の塹壕が掘ってある。


 塹壕は一定の成果を果たしている。それは事実だった。堀があればこそ獣たちはそれを飛び越えたりよじ登ったりするのに体力を使い、跳びきれない者、登り切れない者たちはただ雪崩れていく壁面を掻くことしかできなかった。

 壁も一定の役割を果たしていた。それも事実だった。突破された箇所がいくつかあるとはいえ、壁があるからこそ、防衛する箇所は線でなく点となっている。そして、壁を突破しようと巨体を壁に激突させている獣たちも、砲撃で徐々にその力を削がれていた。


 そんな中で、十数人の人々が銘々武器を振るっている。

 しかし、戦力が十分とは思えない。いや、圧倒的に不足している。

 押し寄せる獣は大小様々で、こんなものが都市の西側の荒野から湧き出て来るはずがないと一瞬でわかるような物までいる。

 象、サイ、トラ、狼、熊。いずれもわき目も振らずに街めがけて突進してきている。

 さらに、都市の南西側は奇形の岩石が林の様にそそり立っており、そこに壁は無い。

 そちら側からも侵入を試みる獣たちもおり、対応が追いついているとは言い難い。


 クルスはその光景を目の当たりにして唇を噛んだ。

 自分はこんな戦場で何ができるというのだろうか。このまま物量に押しつぶされてじり貧で負けてしまうのではないのだろうか。

 自分一人がここで自らの技を振るったところで、一体何になるというのだろうか。果たして自分がここにいる人々の役に一体どれだけ立てるというのだろう。

 

 しかし、その次の瞬間、クルスは荷物を屋根の上に置いたまま鎌だけを持って屋根から飛び出した。

 逃げまどう一人の女性に獣が近づいている。

「間にあえええええええええええ!!!!」

 クルスは必死で加速しながら吠えた。

 その必死な叫び声は、都市と戦場中にこだました。


 その叫びは期せずしてこの防衛圏に新たな人物が加わったことをあらゆる人々に知らせるものとなった。

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