温もり

「……食わないの?」


「食べてるけど……これが最後の晩餐かも知れないと思うと、大事に食べようと思って」


「君のは冗談なのかよくわからないな」


 食事中の彼女はまるで小動物が餌を食んでいる時のような可愛さがあった。だが、終始無表情無感動なので笑えてくる。


「あんたほど美味しくなさそうに飯を食う人は中々居ないと思うよ」


「あら、私は貴方ほど美味しそうにご飯食べる人中々居ないなって思ってたところよ」


 言葉を交わしながらも、俺は肉を焼いては食って、焼いては食ってを繰り返す。食べ放題である以上、時間いっぱいまで食べてやるのがせめてもの俺達の為に捌かれた命への返礼だと思った。

 だが、やはり冷たいと感じる。

 ふと気になって、俺は彼女に問いを投げる。


「……君は、外食好き? 」


「……私は別に外食も家で食べるのも変わらないけど」


 少し悩んで、彼女は答えた。


「まぁ今思ったんだけど、俺は家で食べる飯のが好き。外で食うとどこか無機質な味がするんだよ。美味いんだけど、やっぱ家で作ってもらったのを食べた方が美味しく感じる。なんか暖かいんだよ。心って本当にこもるんだなって思う。まぁ、俺に帰る家無いんだけどね」


 彼女はサラダを口に運ぶ手を止めた。


「帰る家が無いって……、それを聞いて合点がいった気がするわ。貴方……もしかして死にたいの? 」


 予想だにしなかったその問いに、俺は流石に肉を食う手が止まった。


「なんだ急に」


「だって、貴方。見ず知らずの私を身を呈して助けたもの。自分が大事な人はまずやらないわ。それに貴方に正義漢っていうのも似合わないもの。柄でも無いって思っていそうだし。だから、死にたいのかなって」


 彼女はその深い海のような瞳を真っ直ぐに向けた。それは鏡のように俺の姿を写し出す。彼女の瞳に写る自分は満面の笑みを浮かべていた。そしてその表情にはまた怪訝の色が灯る。


「……俺が君を助けたのはね。単純に君の事を知りたいと思ったからなんだよ」


「? そんな理由で? 」


 理解できないものを見た、そんな言葉を目で語る彼女に微笑む。

 確かにそうだ。だが、事実なのだから仕様がない。


「後は普通に一目惚れしたのもあるかもね」


「……貴方の冗談は笑いどころがわからないわ……それともたらしなの? 」


「君の冗談は笑えないけどね。まぁいいや。じゃあ、冗談では無いことを証明しようか」


 俺は箸を置いて今一度彼女の感情が死んだ顔を見つめる。彼女は小首も傾げない。ただ、俺という存在を見計らうように、審判するように、その深い海のような瞳で見つめ返してくるだけだ。


 その生気のない冷たい刃のような美しさに今一度熱を持たせてやる。

 俺は確かな根拠は無いが何故か確証を持っていた。


「君は、人殺してる? 」


 少女の目は大きく見開かれた。

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