欲求

「で、どうして住宅街から離れて街のほうに向かってるの? 」


 早足で歩く少女の後ろをついて行きながら、俺は頭に浮かんだ疑問をそのまま吐き出した。少女は少し間を開けた後、「何でもいいでしょ」と抑揚の無い声で答えた。


「家出的なやつ? 」


「……まぁ、そんなんじゃない? 」


 ぶっきらぼうにこたえながらも少女は一瞬、酷く辛そうな、また痛そうな、そんな顔をした。それを俺は見逃さなかった。


「へー。んじゃ今夜はずっとあんたに振り回される訳だ」


「貴方が勝手についてきてるんじゃない」


 少女は鼻で笑った。


「言ったろ、モテる男は夜一人で居る女を一人にはしないと」


「言ってないけど……。それとも何? 貴方も身体目当てなの? ……まぁ助けてもらったし、売ってやるのもやぶさかではないけど」


「あんたのは冗談なのかよくわからないな。声音にも表情にも気配にも出さない。まるで死んでいるみたいだ」


 死、その言葉に敏感に、少女はぴくりと眉を動かした。まるで何かむき出しの傷口を針で軽くつつかれたような反応だった。観察する程に楽しい。彼女への興味はより一層増すばかりだった。


「……ねぇ、どうせだし名前くらいは知りたいんだけど」


 だが、少女は名乗らなかった。

少女はただ前を見据えて、早足で歩いている。だがそれは目的や使命があって前に突き進むのでは無く、その全くの真逆で、宛もなく、まるで何かから、いや、この世の全てから背を向けて己の顔を隠して逃げているように思えた。

 そんな彼女を、俺は解き明かしたいと思った。

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