65.事後処理
星崎綺羅
こいつは親の愛をまるで感じる事なく育った。
特に母親の愛など記憶に無い。
そして女性に愛を求めるようになる。
気になる全ての女性に対して。
父親は政治家で、母親は政略に近い見合い婚だった。2人の間に愛なんてものはほとんど存在せず、母親は星崎綺羅が1歳の時に不倫をして家を出た。
離婚の際、母親は親権を放棄している。
裁判や慰謝料請求は無く、ある意味では円満離婚だと言える。何故なら父親も当時の自分の秘書と不倫関係にあったからだ。
星崎綺羅が2歳の時に、父親はその秘書と再婚したが、新しい母親は金と男にしか興味が無く父親の後援をしながら私生活は贅沢三昧をするだけ。義理の息子になんて興味はカケラも無く、そして父親はどんどん前妻に似てくる自分の子供を毛嫌いした。
無関心じゃないだけ、どんな感情にしろこの頃はまだ情はあったのかもしれないが。
父親は仕事人間となり、議会での地位を上げてゆく。色よりも仕事に生き甲斐を感じ始めた。
息子は3歳の時に家政婦数人を付けて別邸へと追いやった。会うのは年に1回あるかどうか。
会話も
『問題ないか』
『はい、ありません』
といった事務的な会話のみ。
父親は自分の立場に固執し、立場を守る事にしか興味がなく、最早自分の息子は何か問題を起こせば自分の立場を脅かすかもしれない、そんな厄介者程度の認識に成り下がった。
星崎綺羅はそんな生活を物心がついた頃から続け、自分の言う事なら何でも言う事を聞く言いなりの家政婦に囲まれた生活の中で、どんどんと性格は歪んでゆく。
女は自分の言う事を聞かなければならない。尽くさなければならない。それが愛だと曲解しながら。
小学校高学年になる頃には、少し甘い言葉を囁くだけで実際に女は何でも言う事を聞いた。
その有り様に星崎綺羅は増長してゆく。
ただ、口説く女には共通点があった。
それは、生まれたばかりの自分を抱く母親の写真。
母親に髪型が似ている。目が似ている。口元が似ている。それらの共通点がある女にしか興味は示さない。
歪んではいても、求めるのは母の愛だったのかもしれない。
このあたりが本編で語られたり、公式サイトに載っている情報だ。
つーわけで、俺はこの屑親にアポをとってネゴっておいたってわけだ。
当人しか知り得ない情報を匂わせたら割りとすんなり会う事はできた。
相談内容としては、おたくの息子に嫌がらせを受けている。エスカレートして犯罪を犯してきたら、その時は力づくで止めてもいいか。
事後処理は任せるから、こっちがやり過ぎても適当に揉み消してほしいと。
この話を通しておかないと、こっちが被害を受けるだけ受けて星崎側の罪が揉み消されかねねーからな。
暴力に訴えるのはもちろん星崎が直接的な手段に出てきて、目撃者がいないか極少数の場合の話であったが。
例えの一つに強姦をあげたが、まさかガチで強姦しようとするとは思わんかった。
そして、今回の件だが、
息子が起こしたのは傷害と、未遂で済んだが強制性交等罪の現行犯だったり、他にも脅迫やら教唆やら色んな罪で一杯だ。消そうにも証拠はこちらが持っている。
対する俺は目の前で起こっている犯罪を止めるために行った、行き過ぎた過剰防衛。
さて、世間体が悪いのはどちらでしょう?
それに、あんたの息子がよりによって性犯罪を起こしたと公になれば、あんたの大事なお立場とやらはどうなるかね?
というわけで、この屑親は自己の保身をとったわけだ。
元々は星崎が直接的な手に出た場合に返り討ちにする事で、俺は溜飲を下げられる。
星崎の屑親は俺が表沙汰にしない事によって息子が犯罪を犯しても立場に傷がつかない。
というWin-Winの取り引きであったのだが、被害者が桜乃と言う事で少し話は変わる。
桜乃が訴えるというのであれば、今回の件を表沙汰にして俺も何らかの処罰を受ける覚悟はあった。
しかし、表沙汰にする事で未遂ではあっても強姦にあったというのは桜乃を見る周りの目も変わってしまうだろう。
女の子にとってはデリケートな問題だ。
だから、次の日に部屋に桜乃を呼んでどうしたいか聞いてみたのだが‥‥
コアラのように俺に張り付いた桜乃が
『襲われてから蓮華君が優しいから、星崎先輩はどうでもいい』
と、ふやけた顔をして言うので、当初の予定通りに話を進める事になった。
心の傷を心配して、いつも以上に好きにさせているが案外大丈夫そうなのかもしれない。
そうして、星崎綺羅は精神的におかしくなったという名目でこの学園を去った。
精神的におかしくなったという診断書まで用意したらしい。
あれだけ恐怖を叩き込んだから大丈夫だとは思うが、復讐とかに来られても面倒なので念の為に星崎の行方を聞いてみると、飯田さん曰く
『それは知る必要が無い事です。ただ、二度とお目にかかる事は無いと思いますので、ご安心ください』
との事だった。
そうだな。世の中知らなくていい事ってあるよな。
それと、星崎ガールズも半分近くが学校に来なくなったり自主退学したりしている。
主に俺に告白した奴等とか、桜乃を連れ出した奴とかな。特にこっちからアクションを起こすつもりは無かったんだが、まあ弱み自体は握ってるわけで、粛清の影に怯えるのが耐えきれなくでもなったのかもしれない。
せっかく入れたトップクラスの進学校を自主退学とか人生棒に振る気満々かよ。
相変わらずあの集団の考えは分からんが、どうでもいいか。同情する気もねーし。
事後処理の最後に、桜乃には慰謝料として500万円が支払われた。
強姦は未遂だったが精神的苦痛や、実際に暴力は受けてるわけだから慰謝料が払われるのは分かるが金額が妥当なのかはよく分からん。
桜乃の親には告白を断ったら逆上して殴られたといった説明がされて口外しないといった事に憤っていたが、俺がその現場に現れてボコしたと聞き、おまけに責任をとって学校は辞める旨を伝えると少し溜飲を下げてくれた。
ボコすなんて生易しい表現では済まない事になっているけどな‥‥
最後の一発が原因でもしかしたら女として生きてゆく事になるかもしれんし。
ちにみに俺にも口止め料として、示談金という名目で50万程渡された。
これらは全て飯田さんの立ち合いだが、飯田さんは星崎の父親の裏の右腕的な立場の人物だとか。
表ではなく裏。極道のような裏ではなく、表社会で暗躍する闇の部分。中わけの銀縁眼鏡で一見すると40前後くらいの優男だが、よく見ると分かる顎から首にかけて走る傷跡がマジで怖い。
何か妙に気に入られて、
『何かあれば気軽に連絡下さい。私的なお誘いでもいいですよ』
と微笑まれたが、この人常に銀縁眼鏡の奥から覗く目が笑ってなくて苦笑いしか返せなかった。
次に何かでこの人を頼ると、俺は高校生にして堅気じゃなくなる気がする。
事の顛末はこんなところだな。
つーか、足を買う為にバイトしてたんだが思わぬ臨時収入が入ってしまった。
誕生日がきたら免許発行して原付あたりを買う予定だったが、どうせならビッグスクーターあたりでも買ってみるか。
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