64.恐怖を教えてやるよ※暴力描写有り
※今話は、ソフトタッチな揉み合いや、押しただけで何故か気を失うようなものではなく、一方的な暴力描写があります。苦手な方はご遠慮下さい。
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「くっそッ!!!」
間に合え!!
女子テニス部の部室のドアを開け放って駆ける。
目的地はだだっ広いテニスコートを挟んだ反対側にある男子テニス部の部室。
テニスコートが6個程並んでいて、学校の正面から裏側に行くくらいの距離がある。
赤風に吐かせた内容を思い出して腹の底にドス黒いものが溜まってゆく。
その内容は、桜乃を騙して男子テニス部の部室に連れ込んで星崎が口説くというもの。
本当にそれだけであれば、まだいい。
だが、
邪魔の入らない2人きりであれば間違いなく口説き落とせるはずだけど、万が一言う事を聞かないようであれば無理矢理に言う事を聞かせる。何をしてでも。
これは駄目だろ。
そもそも、自分の好きな男が他の女を口説くのを助力するとか、あのお花畑集団の思考回路がマジで意味分かんねーよ。
洗脳されたファンの思考なんて分かりたくもないが。
退学やら前科がつくとかの言葉を使わないと罪の意識すら無いような連中だからな。
「っ‥はぁ‥はぁ‥あれか!」
男子テニス部の部室が見えてきた。
ドアが閉まっているが、どうせ鍵もかかってるだろう。だったら‥‥
ドアの前でジャンプして飛び前蹴りの要領で思い切りドアノブを蹴りつける。
すると、
ドガァアアアッ!!!
と、デカい音を立ててドアが吹き飛んだ。
鍵が壊れて開きさえすれば良かったが、蝶番ごと壊しちまったらしい。
あ‥‥ドアが吹き飛んだ先に桜乃がいたり‥‥しないよな‥‥?
中を見渡すと、そこに見えたのは壁際で拳を振り上げた星崎と、倒れている桜乃。
「桜乃ちゃん!!」
「蓮華君っ!!」
桜乃の顔を見ると涙目で、頬が痛々しく赤く腫れていた。
桜乃が、泣いている。
誰が泣かせた?
桜乃の頬が腫れている。
誰がやった?
思考が真っ赤に染められていくのをギリギリのところで踏みとどまる。
今は桜乃の無事の確認が先だ。
とりあえず桜乃の前にいるゴミの横腹を蹴り飛ばしてどかせた。
「ぐぇ!」と潰れた蛙みたいな声を出して転がるゴミ。
肋骨あたりが折れた感触があったが肺に刺さりでもしなければ死にはしねーだろ。
「桜乃ちゃん‥‥これ、‥殴られたんだよな‥‥遅くなって‥‥間に合わなくて、ごめん」
俺は桜乃の頬にそっと触れた。
「ううん、遅くないよ。来てくれたから。ありがとう、蓮華君」
桜乃はそう言って微笑みながら頬に触れている俺の手に自分の手を重ねるが、喋っている時に口の端に血が滲んでいるのが見えた。
口の中を切っているんだと思う。
「他に何かされてないか?」
「大丈夫。だけど、殴った後に犯すって言われて‥‥すごく、怖かった」
重ねた桜乃の手が僅かに震えているのに気がついた。倒れている桜乃の上半身を起こして、そのまま抱きしめる。
「もう、大丈夫だから」
背中を優しくポンポンとしていると、暫くして桜乃の震えが止まった。
そろそろ、踏みとどまるのも限界かもしれない。
「桜乃ちゃん。俺はちょっとゴミ掃除してくるから、桜乃ちゃんは保健室に行ってて。俺も後で行くから」
そう言うと、桜乃は首を横に振る。
「私もここにいる」
「いいけど、目を閉じて、耳も塞いでおいた方がいいかもしれねーよ」
「うん、分かった」
桜乃が小さく縮こまって耳を塞いでいるのを見てから、無様に咳き込んで転がっている星崎に近づく。
ここまでブチ切れたのは初めてだ。
念の為に保険かけといて良かった。
このままこいつに何もせずにただの停学やら、転入して別の学校でまたハーレム作ってどうぞなんて、そんなお優しい事は出来そうにない。
もうこいつに会う事は無いと思うが、2度と桜乃に近づかないように、恐怖を教えてやるよ。
「おい、星崎。桜乃ちゃんを殴ったのはこの腕か」
星崎の右腕を引っ張り上げた。
「なっ、なに‥‥を‥」
「そんな腕が自由になってたら危ねーよな?」
何をしようとしているのかを悟ったのか、星崎が顔を青くする。
「や、やめっ」
足に力を入れて、そのまま肘のあたりに蹴りを入れると、
———ゴキィ
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああっ」
簡単に腕が折れた。
しかし、腕の骨って意外と静かに折れるのな。鈍い音が鳴っただけだった。
暴れる星崎の折った方とは逆の腕を掴む。
「ひょっとして殴ったのはこっち側の腕だったか?どっちか分かんねーし、こっち側も折っておくか」
「ひぎっ、お、お願いします、やめ——」
———ゴキィ
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁあああ、いだい、いだい゛。許し‥ごめんなさい、もうしません、許じでぐだざい」
「うるせーなー」
俺は星崎の髪の毛を掴んでしゃがみ込み、目が合う高さまで持ち上げる。
重さに耐えられなかった髪の毛がブチブチと抜けて一度落としちまった。
顔面から落ちた星崎の髪を掴んで、もう一度持ち上げると星崎は恐怖と痛みで歯をガチガチと鳴らしながら怯えた表情をしている。
「おい、涙と鼻水と涎で汚ねーんだけど。3秒以内に顔を拭え。出来なければまた蹴るぞ。3、2、1———」
「でが、でがうごがない」
「0、時間切れだ」
最後に、櫻井桜乃が言っていた言葉をくれてやる。物心がついた時から歪んでいる筈だから、俺の言葉では改心なんてしねーと思うけど。
「ただ女に言う事聞かせたり、ましてや無理やり言う事聞かせようとしているうちは、お前の求める愛なんてものは得られねーぞ」
そう言って、星崎の股間を思い切り踏み潰した。
グシャっと何かが潰れたような妙な感触がして、星崎はそのまま白目をむいて泡を吹いて意識を無くした。
ふぅ‥‥さて、電話するか。
スマホを取り出して、一昨日登録したばかりの番号に電話する。
『はい、飯田です』
電話口から聞こえてくるのは一昨日紹介された渋い男の声。
「もしもし、葉月です。お話した件、強姦の現場だったので力づくで止めました。‥少しやり過ぎましたが。事後処理お願いします」
『分かりました。場所はどこですか?』
「明瞭学園内の男子テニス部の部室です」
『承知しました。15分以内に駆けつけます』
電話を切ってから端の方に星崎を転がして、言われた通りに目を閉じて耳を塞いでいる桜乃の肩を叩く。
「頬、冷やさないとだな。痛むか?」
「うん。だけど、さっき蓮華君が触ってくれた時は痛くなくなったよ?」
「んなわけねーだろ。ちょっと待ってろ」
部室にある冷蔵庫を開けると氷が入っていたので、取り出してハンカチで包んでから桜乃の頬にあてた。
10分くらいして、見知らぬ男3人が入ってくると、星崎を回収して出て行った。
この学園の制服を着てはいるが、恐らくうちの生徒ではない。
「桜乃ちゃん、帰ろうか。送ってく」
桜乃の方を向くと、桜乃は俺の腕にギュッとしがみついた。
「蓮華君のおうち‥‥行きたい」
よほど怖かったんだろうな。
俯いていて表情は分からんが、今は1人になりたくないんだろう。
「ああ、いいぞ。今日は俺が何か美味いもん作ってやるよ」
桜乃の頭を撫でて歩き出した。
この後、
家に着くと今週はまだ北海道にいるはずなのに俺からの電波を受信したと謎な事を言う母さんに玄関先でタックルされたり。
桜乃を見てビクついた母さんが俺の背に隠れて桜乃を覗き見るというおかしな絵面を隣の家のスミレちゃん(13歳)に目撃されたり。
とりあえず家に入れて自己紹介させてテーブルの席に着かせるだけでかなり疲れた。
そこで、まだ絶賛人見知り中だが、恐る恐る母さんが口を開く。
「‥‥桜乃ちゃんは、蓮華ちゃんの彼女なの?」
「はい、そうです」
「いや、ちげーだろ」
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