63.だけど、私は信じてる。side櫻井桜乃
「蓮華君、大丈夫かな?」
委員会の仕事で図書室の本棚の整理をしながら考えるのは、さっきの教室での事。
星崎先輩。最初から鬱陶しい人だったけど、蓮華君からプレゼントしてもらった大切な宝物の髪飾りを貶してからは私の中の絶対に許さないリストに刻まれた。
あれ以降は話しかけられても会釈もせずに無視をしている。
そんな星崎先輩が、私の気を引くために蓮華君に嫌がらせをしているなんて本当に許せない。
でも、今日はすごく綺麗な人が直接来た。
蓮華君‥‥‥大丈夫だよね?
「ねえ、ちょっといい?」
星崎先輩へのイライラを募らせながら考え事をしていると、ふいに声をかけられた。
声の方を向くと、1人の女の子。
リボンの色と上履きの色から見て、多分2年生。
「はい、何でしょうか?」
「図書室で引き取ってもらいたい本があるんだけど」
「はい、分かりました」
特に珍しくもない話だった。
図書室に実際に置かれるかどうかは本の内容と保存状態によるけどね。
天霧先輩に本の引き取りに行くと伝える。
久しぶりに、天霧先輩に対して『そうですか』以外の言葉を喋った気がする。
先輩に連れられて、図書室を出て‥‥校舎も出た。
特に会話も無かったから黙ってついてきたけど、どこまで行くのかな?
そうして着いたのは、どこかの運動部の部室のような小さな建物。
先輩はドアを開くと「入って」と私を先に入るように促す。
少し疑問に思いながらも身体半分が建物に入ったところで、グイっと中から伸びた手に引っ張られて、そのままドアを閉められた。
バタンとドアが閉まる音の後にカチャっという音が聞こえる。
私は振り返り、腕を引っ張った張本人を睨みつけた。
「星崎‥先輩‥‥」
「やあ、桜乃ちゃん」
星崎先輩は軽薄な笑みを浮かべて私を見る。
桜乃ちゃん‥‥汚らわしい。気安く私を桜乃ちゃんと呼ばないでほしい。
これは、男の人だと蓮華君にだけ言ってほしい小学生の時からの特別な呼び方だから。
「どうしても話をしたくてね。だけど、桜乃ちゃんは僕を無視するから」
どうにか逃げる手段は無いかなと探す。
窓は上の方にあって、何かに登らないと届かない。入ってきたドアは少し古いタイプの木製のドアで、ドア側にある金具を閉じた先にある金具に引っ掛けて南京錠までされている。
「あっ、ちなみに人払はしてあるからね。逃げられないし、大声出しても意味ないよ」
私が辺りを探っていると、星崎先輩がニヤっとした気持ちの悪い笑みを浮かべる。
「さっさと僕の事を好きになれば、こんな手荒な事しなかったのになー」
そう言いながらゆっくりと歩いて近づいてくる。
私は距離を取るように後ろに下がっていると、壁に背中が当たった。
「チェックメイト。さて、まずはゆっくりお話しようか。まずは、ね」
本当に気持ち悪い。
蓮華君が言ってた通り、この人を敬う必要なんてない。
「あなたを好きになるなんて、ありえない」
「イライラするなー、今の自分の立場分かってる?」
「無理やり好きだと言わせたら、それであなたは満足なの?」
そう言うと、星崎先輩は酷く顔を歪ませて舌打ちをした。
「チッ‥‥何で僕を見ない!何で僕を好きにならない!?今まで僕に言い寄られて、僕を好きにならない女なんていなかった!!あの、葉月とかいうやつより、僕の方が格好いいだろうっ!」
私の顔の横の壁に手をついて、凄む姿に呆れる。
この人は何も分かっていない。
人を本気で好きになった事がないんだね。
「誰がどうとかじゃないの」
「は?」
「例えば、あなたの顔が誰よりも格好いいとか、あなたが誰よりもお金を持っていたとしても、そんなの‥‥私にとっては、心底どうでもいい」
だって私は、
「私は蓮華君が好き。私の目には蓮華しか映らないし、私の心は蓮華君にしか動かない」
そう言うと、星崎先輩は額に手をあてて、
「ハ、ハ、ハハハハハハハハハハハハッ」
狂ったように笑った。
「だったらお前」
「い゛っ!」
私の視界がブレた。
身体が横に吹き飛んで、背中を机にぶつけながら倒れる。
多分‥‥握りしめた拳の裏で払うように頬を殴られた。
「もう、いらないなー」
星崎先輩は鞄からビデオカメラのような物を取り出した。
「今からボコボコに殴って動かなくなったらめちゃくちゃに犯してあげるよ。あっ、でも、もう顔はやめとこうかな。抱くのに萎えちゃうからね。撮影もするから、この事バラしたら映像が拡散する事になっちゃうからね」
殴られた時に、歯が頬の内側に刺さったのか、口の中に鉄の味が広がってゆく。
「なんだよその目、‥‥その目やめろよ」
私はこんな人には絶対に屈さない。
身体が動く限り全力で抵抗する。
「怯えて縋れって言ってんだよっ!!」
星崎先輩が拳を振り上げる。
怖くないなんて言えば嘘になる。
殴られた頬はじんじんするし、口の中も切れて痛い。倒れてぶつけた背中もズキズキするし、これからされる事を想像すると恐怖で手足だって震える。
———でも、
———でもね、
———人に言えば、
———そんな都合の良い事起こるわけないと
———笑われるかもしれない。
———だけど、私は信じてる。
———私が本当に困っている時は、
———絶対に助けてくれる。
「たすけてぇぇぇええ!!蓮華くーーんっ!!」
私がそう叫んだと同時に、
大きな音を立てて、ドアが吹き飛んだ。
「桜乃ちゃん!!」
「蓮華君っ!!」
———そう、絶対に助けてくれる。
———私の白馬の王子様が。
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