61. 手紙じゃなくて直接来たか
それは週が明けてすぐの事だ。
放課後、今日は手紙が入ってなかったから気を抜いていたんだが‥‥
「葉月君、話があるんだけど少し時間いいかしら?」
手紙じゃなくて直接来たか。
というか、まさかこいつが来るとはな。
「あれ?赤風先輩だ!」
「ああ‥美しい」
「わあ、綺麗な人」
「赤風先輩が葉月に用事!?まさかっ」
「また葉月かよ、ちくしょー」
クラス内がざわついている。
放課後になってすぐだったから、まだ誰も教室からは出てないからな。
黒く見えるが、陽の光があたると赤く輝くロングヘアを揺らしながら花の咲く様な笑顔で俺の方へと歩いてくる。
俺には毒々しいラフレシアが背景に見えるが。
ったく。この女が俺の事が好きで告白するとか冗談にもなんねーよ。
だってこの女、星崎ルートに出てくるライバルキャラだからな。
狂信者集団のトップ、赤風信子
ライバルキャラだけあって、ルックスだけなら桜乃とタメを張れる。
だが、『桜色のキス』は全年齢向けのゲームであったが、星崎と物理的に繋がったような事を匂わせる発言をしたり、トゥルーエンドに向かった場合の嫌がらせが陰湿だったり、最終的には直接的な明言はないが自分の身体を使ってたらし込んだ男を使って櫻井桜乃を襲わせたりするような不人気腐れビッチキャラだ。
そこで生まれて初めて『女の子を守りたい』と思った星崎綺羅が助ける事により真実の愛が‥って、これはどうでもいいか。
余談だが、『桜色のキス』では女性キャラと葉月蓮華にだけ名前に意味を持たされている。
櫻井桜乃は桜
花言葉は、『精神美』『優美な女性』『純潔』
これら全てがコンセプトになっている。
赤風信子は赤いヒヤシンス
花言葉は、『嫉妬』
星崎ルート終盤の嫉妬に狂った笑顔のスチルはトラウマものだった。
井戸から這い出てくるあれより怖かった。
後は、夕日桃は桃の花で
花言葉は、『気立ての良さ』
とか
葉月蓮華は少し特殊で、蓮の華と蓮華の2つの意味を持たされている。
まずは蓮の華
花言葉は、『離れゆく愛』
これは櫻井桜乃の初恋の相手である葉月蓮華が中学で離れ離れになってしまう事を表している。
次に蓮華
花言葉は、『心が和らぐ』
葉月蓮華ルートに入った際に傷ついた葉月蓮華の心を櫻井桜乃が癒し安らぎを与えて、心が和らいでいったり、と。
まあ、話は逸れたがようするにこの目の前で微笑む奴には警戒する必要があるって事だ。
「ここでは話せない内容ですか?」
まだ何かされた訳ではないし、一応丁寧に接する。
「ええ、ここではちょっと‥‥」
そう言って照れたような表情で手を口元に持ってゆく仕草は‥‥なるほど。今までの刺客(?)よりは演技は幾分マシらしい。
たまに顔を出す探るような目がこえーけど。
「分かりました。帰り支度してたところなので、少し廊下で待ってて下さい」
「ありがとう、葉月君。待ってるわね」
笑顔でそう言って教室を出てゆく赤風信子の背を見送りながら溜め息を吐く。
面倒臭ぇ。
教室の後ろのロッカーへ鞄を戻すべく立ち上がると桜乃とサキが駆け寄ってきた。
「蓮華君、大丈夫?」
桜乃が心配そうな顔で聞いてくる。
桜乃はサキから話を聞いたらしく、朝から私のせいだと気に病んでいた。気にすんなって言ってるんだが。
「大丈夫だよ、桜乃ちゃん」
そう言って頭を撫でてやると、ふにゃっとした顔になった。
桜乃は昔からこう言って頭を撫でてやると安心した表情になる。
小学校の時の水族館みたいに泣くまでいかれると、なかなかこの表情まで持っていくのは苦労するが。
「私もこっそりついて行こうか?」
サキは何か‥‥スパイガール化してる気がする。
真山に協力を仰いで2日の間に俺に告白した子の情報を調べあげて、ファンクラブに辿りつき、連中の会合の場所を特定して、内容まで確認したと。
そこでの会話の録音データを渡されている。
会合の場に怒鳴り込もうとしたのは真山が止めてくれたらしいが。
確かに今問題にしても、俺に告白した子が教師からちょっと注意を受けるくらいで黒幕は痛くも痒くもないだろうしな。
「ま、大丈夫だろ。ついて来るなよ?」
今まで直接呼び出されたりしなかったから不安なのかもしれんが、もしサキがついて来た事に気付かれて、サキにも何かされたりしたら嫌だからな。
赤風について行ったら星崎本人が鉄パイプでも持って襲いかかってきてくれたら逆に楽なんだが。
俺の用意したカードは後手中の後手だ。
星崎本人が動かない限りトラップカードとして発動しない。
「んじゃ、行ってくるわ」
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