56.おい!お前等味方だよな!?


「ツキー!いっけーっ!!」


「蓮華君っ!がんばれーっ!」


「「「「「葉月君、頑張ってー!」」」」」



体育祭の日がやって来た。


今は1年男子の共通種目である騎馬戦が始まったところだ。

体育祭は、赤・青・黄・緑の4色にチーム分けされていて、うちのクラスは青。


チームを判断するのは巻かれている鉢巻の色で、各自腕に巻いたり首に巻いたり、スタンダードに頭に巻いたりと様々だが、騎馬戦中の騎手は頭に巻いてそれを奪っていくというルールになっている。


騎馬戦としてのルールは各色四隅からスタートして最後まで残っていた色が勝ち。残っている人数が多い程加点される。


ちなみに、共通種目は別として個別の種目に最低でも一種目は出なければいけないが、俺は色別対抗リレーでそれを満たしているので、この騎馬戦が終わったらリレーまで出番は無い。




妙に応援に盛り上がっている女子の方にとりあえず片手を上げて応えた。



「なあ、落としていいか?」


柊木がそう言って不貞腐れている。

そもそも練習の時は運動神経も良くて小回りが利きそうな柊木が騎手だった。

だが、地味に高いところが苦手らしく萎縮して動きが悪かったので騎馬側になったわけだ。

騎手やりたいなら、3メートルくらいの高さ我慢しろよ。


「そうだね、落とそうか」


犬山はタッパもあってガタイがいい‥‥つまりは重いので問答無用で騎馬側になった。


「馬鹿言ってないでそろそろ動くぞー」


猿川は目立ちたくないと騎手を辞退。



「で、逃げ回る?それともガン攻めといくか?」


それで、俺が騎手になったわけだ。



「「「ガン攻めだっ!」」」


そう言って敵陣に突っ込んで行く騎馬。



「女子が見ている前で、無様に鉢巻を取られるがいい!」

「お尻から落ちたりしたら格好悪そうだね」

「その瞬間の写真を誰か撮ってたら、俺が学校新聞に載せてやる」


「おい!お前等味方だよな!?」


私怨が酷い。こういうのは騎手に応援が集まるのは仕方ねーだろ。



無情にも騎馬は各色入り乱れる中央の乱戦地帯へ向けて走り出す。


「うおー!葉月だー!鉢巻を奪えーっ!」

「美代ちゃんが、お前を格好いいって‥クソ!」

「俺‥葉月を討ち取れたら告白するんだ‥」

「由紀ちゃんの前で恥をかかせてやる!」

「俺の失恋の恨み思い知れーっ!」


いつの間にか、他のクラスでも結構な知名度だったみたいだ。すげー勢いで敵チームが群がってくる。

つーか美代ちゃんとか由紀ちゃんって誰だよ。知らねーよ。



俺は、スウェーとかウィービングの要領でひたすらに鉢巻に伸びる手を躱しながら、ジャブの要領で敵の鉢巻を奪っていく。


「なっ!?躱された!?」

「ぐっ、ちくしょー取られた!」

「誰だよ?頭いいから運動はできないはずって言ったやつ!」


そんな事をしていたらいつの間にか



『騎馬戦、青チームの勝利です!』



最後まで残っていた。

ほぼ単騎駆けだった気がする。






「蓮華君、おめでとうっ」


「ツキ、格好良かったよー」


騎馬戦が終わってクラスの集まりの方に戻る。

騎馬戦の後は、


「おう、あんがと。さて、じゃあ飯食うか。作ってきてくれたんだよな?」


「「うんっ」」


飯の時間だ。

桜乃とサキが嬉しそうに頷いた。


俺は今日飯を持ってきていないし、買いに行くつもりもない。

そう、テストの罰ゲームをここで使った。

体育祭の時に弁当を作ってきてくれと。


そうしたら、言ってくれれば普通に作ってくるから罰ゲームは別にしてくれとか言い出して困ったが、とりあえず罰ゲームで押し通した。


おかしい。桜乃がサキにした罰ゲームは喫茶店で飲み物奢っただけだったはずだし、ちゃんと罰ゲームになってるよな?




3人で裏庭の噴水のところまで来て弁当を食べ始める。


「じゃーん」


桜乃が弁当の箱を開けた。

桜乃の弁当は俺が和食好きなのを知っているからか、煮物と焼き魚が入っている。


「はい、召し上がれ」


サキの方は肉料理が中心で、こっちも美味そうだ。


「いただきます」




うん、どっちの弁当もめちゃくちゃ美味い。

自分でも料理をするようになったからか、手のこみようが伝わった。

すげー丁寧に作られている。


食べ始めて暫くすると、桜乃とサキが目を見合わせて頷いた。

何だ?


「「どっちのお弁当が美味しい?」」


綺麗にハモってそんな質問がとんできた。


「いや、どっちと言われても弁当のジャンルが全然ちげーからなー。‥‥かぶってんの唐揚げと卵焼きくらいか。そうだな、唐揚げはサキので、卵焼きは桜乃ちゃんのが美味いな」


一応解説をするなら、


「サキの唐揚げは下味に山椒使ってるだろ?弁当箱に入れて衣のサクサク感が無くなるのはしょうがないが、そのかわりに噛んだ時の肉の味で楽しめた。臭みも山椒で消えてて、分量もちょうどピリッとくる感じで好きな味だ」


そう言うとサキは頬をほんのり染めて喜んだ。


「桜乃ちゃんの卵焼き‥‥つーかだし巻きか。この間のより味が深いから、ただ市販の白だしを使っただけじゃなくて、色々とアレンジして味をみながら作っただろ?すげー俺好みだよ」


桜乃も「やったね」と言ってニコニコとする。


「つーか、食ってみたら分かるぞ」


そう言うと、桜乃とサキはお互いの作った料理に箸を伸ばした。


「‥‥ぁ、唐揚げ美味しい」


「え!?何この卵焼き。めっちゃ美味しい」


「だろ?」


桜乃もサキも口元を手で押さえながら目を見開いて驚いている。


「引き分け‥だね」


「うん、そうだね」


「ね、この唐揚げどうやって作ったの?」


「それはね、まずは———」


そこから、桜乃とサキが料理話に花を咲かせた。



これで友達ではないって言うんだから不思議だ



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