57. あいつは‥‥まあまあいい奴だったよ。
弁当を食べ終わって午後の部が始まった。
午後一発目は食後という事もあってか、運動というよりは娯楽に近い応援合戦から始まる。
まぁ‥‥仮装合戦に近いかもしれんが。
『桜色のキス』では応援合戦はほとんど割愛されていて、スチル何かも無い。
ただ、アニメやゲームのキャラクターに扮した格好としか表現されていなかったが‥‥まさかこんなカオスなものだとは思わなかった。
応援合戦に目を向ける。
赤チームの男子は長ランにドカンや、短ランにボンタンと昭和のヤンキースタイルだ。
猫の被り物して日章の鉢巻はちょっとニッチすぎるだろ。
女子はロンスカで聖子ちゃんヘアだ。顔じゃなくてボディをやられそうだな。
指出し手袋はめてヨーヨー持ってる女子もいる。
応援はもちろん『行ってきます』から始まるあの歌だ。
青チームはどこぞで名を馳せた英雄の霊のようだ。コ◯ケに行った方がいい。一部の女子の露出がやべー事になってるが、よくこれで通ったな。審査あるのか知らねーけど。
黄チームは全員ゾンビメイクでまさかと思ったが応援内容がス◯ラーだった。ダンスがキレッキレなあたりダンス部とかが多いのかもしれん。
緑チームは流行りに便乗したのか呼吸で身体能力上がったり技を出したりしそうな剣士だ。
殺陣は見るに堪えなかった。水とか火とか実際出ねーもんな。
結果は黄チームの勝ち。
俺も青チームだが黄チームに票を入れた。赤チームも捨て難かったが。
そんな応援合戦を生暖かい目で見届けて、通常の競技が始まった。
100メートル走で一着になった桜乃がこっちを向いてぴょんぴょんと跳ねながら笑顔でピースをしたので、サムズアップで返す。
何かどよめいている気がするが、耳を澄ませてみると桜乃が笑顔だかららしい。
「ツキ、そろそろ準備しないとじゃない?」
隣にいるサキにそう言われて気付いた。
そうだ、この後が色別対抗リレーだ。
「そうだな。そろそろ行くかー」
「頑張ってね!応援してるから」
そう笑顔で言うサキの頭をポンポンと撫でる。
「まっ、程々に頑張るわ」
ちなみに、さっきまでは俺の隣には柊木がいたが今はいない。
いや、今はっつーか‥‥もう体育祭には戻ってこないかもしれない。
突然だが、言ってはいけない言葉っつーのがあると思う。
天空の城でのバ◯ス然り、
東方◯助に対して変な髪型然り、
それを‥‥あいつは言っちまったんだ。
あれは5分程前の事だ。
100メートル走の1年女子第一走者に柚川がいたんだ。スタートと同時にぐんぐんと他を突き離す柚川。ちょっと意味分からんくらい速かった。
そして俺達の前を通過する際に柊木が言った‥
『いけー!貧乳!』
と。
悠々と一着でゴールテープを切った柚川はスピードを落とす事なくUターンして真っ直ぐにこっちに向かって走ってきた。
それはもう猛禽類を思わせる獰猛な笑みを浮かべて。あれは女子がしていい顔じゃねえ。
『やべぇ!』と言って柊木は逃げだした。
サッカー部だけあって柊木は俊足だったが、どう考えても逃げ切るのは無理だった。
ぐんぐんと差が縮まりつつ、校舎の横を曲がって見えなくなり‥‥
数秒後、ドパァァァァンというサンドバッグに渾身の蹴りが入った時のような音がした後に
『アッーーーーーーー!!!!』
と言う声が聞こえてから柊木が戻って来ない。
もう柊木の事は忘れよう。
あいつは‥‥まあまあいい奴だったよ。
色別対抗リレーのメンバーが集まる場で、念のため競技の説明がおこなわれた。
走る順番は、3年女子→2年女子→1年女子→1年男子→2年男子→3年男子。といった順番になっていて、走る距離は女子が200メートル、男子が300メートルだ。
行っても無駄だから放課後の合同練習には初回以降出ていないが、公園に桜乃がちょくちょく顔を出してくれたおかげでバトンの受け渡しはそれなりにスムーズにできるはず。
足首をほぐしていると、青い鉢巻きを巻いた無駄にキラキラした奴が喋りかけてくる。
「やあ、葉月君。練習に来ないような不真面目な君は、本番にも来ないんじゃないかと冷や冷やしたよ。いや、代わりの人が来てくれた方が良かったかな?」
そう、星崎だ。
いやらしい笑みを浮かべているが、相手にするだけ無駄なので無視する事にする。
すると星崎は笑みを深めて
「くれぐれも、順位落としたりしないようにね」
そう言って離れて行った。
ちなみに、今青チームは総合2位にいる。
この種目で1位になれば、多分1位に躍り出る。
午前の部の終了間際は3位だったが、最後の騎馬戦で結構な点数が稼げたので2位となり、今はそのまま2位を維持している。
女子100メートル走が終わり、色別対抗リレーの3年女子がスタート位置につく。
『位置について‥‥よーい』
パーンッ!!
進行の体育祭実行委員が片耳を塞ぎながらスターターピストルを鳴らし、色別対抗リレーが始まった。
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