53.「ツキ、大好き」


高校に入って最初のテスト週間が終わった。

週明けの今日は、テストの返却はまだだが昼に先行して上位30人のみ結果が張り出される。


見落としは多分無かったと思う。

一応昨日復習がてら自己採点してみたけど間違えは無かったはずだ。


「蓮華君、自信ある?」


「おう、あるぞ。桜乃ちゃんは?」


「数1で2問、時間が足りなくて埋められなかったけど‥‥それ以外は自信あるよ」


桜乃が笑顔でこたえる。

なるほど、映像記憶なら計算問題とかも問題の傾向から使う公式間違えたりはしないと思っていたが、応用と計算自体に時間がかかったわけか。


つーか、2問落としただけとか見落としあったら俺負けるんじゃねーかな?


「HR始めるぞー」


担任が入ってきて、桜乃が自分の席に戻ってゆく。


いつも通りの日常。

そう、いつも通りの日常のはずなんだが‥‥サキが思い詰めたような顔をしてんのが気になる。

いつもなら元気に朝の挨拶をしてくるんだが、今日は来なかったし。

テスト期間中は来なかったのも勉強してたっぽいから気にならなかったが‥‥どうしたんだ?




昼休みがやってきて、勉強会メンバーで張り出された結果を見に行く事になった。

勝負してるのは3人だが、何だかんだ気になるみたいだ。


張り紙があるところまで歩いていると、逆にそっちから戻ってきた知らん女子と目が合って


「葉月君、流石ですね」


と、声をかけられた。

いや、誰だよ。最近微妙に知らん女子に声をかけられるのが増えた気がする。

俺の浮かべた疑問にこたえたのは犬山だった。


「あれ?木之下さん」


「こんにちは、犬山君」


犬山に、誰?と視線を送る。


「こちら、女子バスケ部で一年の木之下さん」


「あっ、申し遅れました。木之下鈴です」


一瞬慌てたように顔を赤くしたが、そう言って挨拶すると柔らかく微笑んだ。

犬山といい、バスケ部はほわほわした雰囲気が多いのか?


「どうも。んで、流石って?」


「中間試験、1位でしたよ。それも凄い点数で」


木之下は手のひらを胸の前で合わせた。

そのまま手を前に出して『3FREEZE』って言ってみてくんねーかな。

いや、そうじゃない。ネタバレされた‥‥別にいいけどさ。


「俺等、その結果見に行くから。そんじゃ」


まあ、まだ何か話あるんなら犬山が相手すんだろ。




もう少しで着くが、さっきからサキが一言も喋ってない。


「なあ、サキ」


「‥‥え?何?」


一見普通に笑ってるように見えるが、やっぱり笑顔がぎこちねーんだよな。


「緊張してんのか?」


「‥‥うん」


「ま、どうやら勝負は俺の勝ちだったみたいだけどな」


そう言って笑ったが


「‥‥そうだね」


と、やっぱりサキは力なく笑うだけだった。




そうして、張り紙の前に着いた。

結果は‥‥



1.葉月蓮華 1000/1000

2.櫻井桜乃 990/1000

3.三崎若菜 972/1000

4.———— 957/1000

5.———




「あちゃー‥‥負けちゃったかぁ‥あはは‥‥あっ、私、先に教室戻ってるね」


隣にいたサキがそう言って駆けていく。


「あ?おい!サキ」


サキを呼び止めようとしたが、サキは止まらずにそのまま見えなくなった。


思えば勉強会の後から何か様子がおかしかった。

取り憑かれたように勉強してて‥‥ただのちょっとしたゲームみたいなもんだろ?


なのに、なんであいつ‥‥



泣いてんだよ。






教室に戻ってもいないし、もしかしたらと行ってみると‥‥

サキは校舎裏の噴水のベンチで体育座りをして膝を抱えて顔を伏せていた。

言いたくはないがパンモロだ。

ここ、マジでひとけが無いから助かったが。


俺はサキの隣に座った。



どう声をかけたもんかと考えて無言が続いたが、先に口を開いたのはサキだった。


「ツキ‥‥分からない事があるの」


サキは顔を伏せたまま喋り出す。


「ん?落とした問題か?いいぞ、教えてやる」


「‥‥あるところに男の子と女の子がいました。女の子は男の子の優しいところに惹かれて恋をしました」


テストの問題とかでは無いらしい。

黙って聞く事にする。


「だけど、女の子は失敗をしてしまって、自分から好きなんて言えません。だから、好きになってもらおうとしましたが‥‥知れば知るほどに男の子は何でもできて、女の子は何もできなくて‥‥」


サキが腕に力を入れたのか、さらに縮こまった。


「今のままでは男の子と釣り合ってない。追い抜こうなんて思わない。せめて追いつきたいと女の子は頑張りました。でも、頑張っても、頑張っても、頑張っても男の子には追いつけなくて‥‥」


そこまで言うとサキは顔を上げた。

涙の後から分かるくらいにずっと泣いていたらしい。

今もまだ涙が溢れて流れている。


「ねえ、ツキ‥‥どうすれば、この恋は成立するのかな‥‥教えてよ。もう、分からなくて‥‥苦しいよ‥‥」



まったくこいつは‥‥難しく考え過ぎなんだよ。

そういう頭が固いとこも嫌いじゃねーんだけどな。


「なあ、サキ。恋愛って例えば‥‥そうだな。バスケが上手い男は、バスケが上手い女しか好きになったりしないのか?」


「‥‥え?」


「バスケが上手い男は、その女がバスケが上手いから好きになるのか?ちげーだろ」


「‥‥うん」


「その女の子の好きなやつってのが、全てにおいて自分と対等じゃないと彼女にしないなんてつまんねーやつならやめといた方がいいぞ?つーか、そいつにだって苦手な事くらいあんだろ」


出来ることと、出来ないことで区分けしたら出来ない事の方が圧倒的に多いしな。


「それに‥‥少なくとも俺なら、その女の子が頑張ってる姿に惹かれたりするんじゃねーかな‥‥多分」


サキはボロボロと涙を流しながら


「うぅ‥‥ツキ‥‥‥ツキっ!」


「わっ‥‥っと」


ガバッと抱きついてきたので力を抜いて抱きとめた。


「‥‥ツキ、ごめんね。ちょっと、我慢できないから‥‥‥耳、塞いでて」


「は?まあ‥‥別にいいけど」


サキは俺が耳を塞ぐのを見て、俺の胸に顔を埋めた。




「      」




胸にかかる息遣いで何かを言ったのは分かったが、何て言ったのかは分からない。


これ‥‥いつまで耳塞いでりゃいいんだろう。

流石にここまで密着されるとちょっと‥‥多分心音早くなってるし恥ずかしいんだが。


2,3分くらいだろうか?サキは顔をあげると耳を塞いでる手をつついた。どうやらもういいらしい。


「ありがとね、ツキ。さっぱりした。うん、私頑張るね」


憑き物が落ちたようにサッパリと笑うサキに俺も笑顔になる。

それと、これだけは言っておこう。






「なあサキ、マスカラが落ちて大惨事だ」


サキはトイレへと走って行った。




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