49.勉強会①/三人称
「「「「「「「「「お邪魔します」」」」」」」」」
夕日家の玄関に、総勢9人もの声が響いた。
この日、一度学校で待ち合わせをした9人は櫻井桜乃の先導で夕日家を訪れた。
「いらっしゃい。それじゃあ着いてきてー」
10人もの人数での勉強会の会場を立候補するだけあり、夕日家は豪邸と言って差し支えがない佇まいであり、会場として用意されたリビングもかなり広い。
10人で囲んで座り勉強道具を広げても余りある大きなテーブルと、高級感漂うグランドピアノがその存在感を示している。
飲み物等は道中で各々が用意しており
「さってと、じゃあ始めようか」
夕日桃の掛け声により勉強会は始まった。
櫻井桜乃は、さも当たり前かのように葉月蓮華の左隣に座る。
そもそも、夕日家に到着してから葉月蓮華の左隣を片時も離れていない。
タイミングもあってか、葉月蓮華の右隣には大前日向がちゃっかり座っており、三崎若菜は正面に座る事となった。
長円形のテーブルを囲んで座り、各々教科書やノートを取り出していく。
流石に大人数のため教科を統一はせずに自身の苦手教科の教材、復習を行っておきたい教材と、持ち出す教科は様々である。
さて、準備も終わりいざ勉強開始といったところで、この時の各々はというと‥‥
まずは三崎若菜
(どうしよう‥‥ツキに可愛く教えてなんて言ったりしたいけど‥‥解らないところが無い)
彼女は頑張りすぎたのである。
中学時代の恋する乙女パワー(?)を勉学に全振りした結果ともいえる。
最早、彼女の学力は都内でもトップクラスであり、全国模試を受ければ二桁入りを狙える。そういうところまで来てしまっている。
故に、少なくとも現段階では教えてもらうところがない。
それに、基礎部分を解らないと言ってしまうと葉月蓮華の学力ブーストキャンプが始まるのであれば耐性があるので構わないが、もし失望されてしまっては本末転倒である。
(誰かに教えてって言われるのを待とう‥)
三崎若菜は下手に動けず、静かに教科書を眺め始めた。
次に櫻井桜乃はというと
(蓮華君とお勉強〜♪蓮華君とお勉強〜♪)
彼女は大好きな葉月蓮華が隣にいるだけで満足していた。
ご機嫌に葉月蓮華に肩を寄せて勉強を始める。
これは、櫻井桜乃は中学時代に黙々と一人で勉強をしており、勉強=一人でやるもの。という認識が根付いてしまっているという悲しい背景もあるのだが。
ちなみに、櫻井桜乃が単独で編み出した勉強法は映像記憶である。
教科書を文字列ではなく映像として記憶する。
ただ、彼女は天才というわけでもないので当然忘れてしまう事もある。
よって、櫻井桜乃は難しいから解らないといったところは無い。
知っているか、知らないか。0か1か。誰かに教わる事など無い。覚えるだけである。
櫻井桜乃も静かに教科書を眺め始めた。
動かない三崎若菜と櫻井桜乃を見て、大前日向は考える。
(葉月君に解らないところを聞きたいけど‥‥いいんですかね?櫻井さんも三崎さんも動かないけど‥‥言っちゃうよ?私が言っちゃいますよ?勉強会って気になる人に教えてっていうのを口実にアピールする場ですよね?)
少女漫画脳である大前日向にとって、勉強会は勉強する場という認識が無かった。
(それで‥‥
『葉月君、ここが解りません』
『ん?どこだ?』
『えっと、ここが‥‥‥ぁ』
ふいに触れてしまう指と指。
気づけば至近距離にある顔。
お互いの瞳に映る自分の顔を見た二人は指を絡ませ、吸い込まれるように‥‥
でへ、でへへ)
彼女は夢の世界へ旅立った。
その大前日向を見ていた白井由莉奈は
(ヒナちゃん、頑張ってくださいっ!今です!ここで葉月君に教えてって‥‥あ、トリップしましたね‥‥はぁ‥‥)
そう、彼女は大前日向の小さな恋心に気付いている。
幼馴染は伊達じゃない。
しかし、彼女の幼馴染みは残念な子であった。
腐ってもいる。
その頃、真山真帆は
(彦根に教えてって言っても大丈夫だよね?でも1番最初に動くのは恥ずかしい‥‥何かみんな喋らないし‥‥)
一人、乙女の恥じらいを見せていた。
尚、一度櫻井桜乃の隣に座った夕日桃は自分の分の飲み物を用意するため席を外している。
対して男子サイド。
葉月蓮華は
(おー!アップライトじゃなくてグランドピアノがある。そういや夕日って特技ピアノって言ってたよな、確か)
ピアノに夢中になっていた。
ちなみに、夕日家にあるグランドピアノは900万円程する上質なものである。
柊木遊星は
(夕日に教えてもらいたいところだけど‥‥夕日って確か学力評価そんなに高くなかったよな‥‥しかし、なんだこのよく分からない空気は。誰も喋り出さない)
真山真帆と同様に様子見組である。
犬山海斗は
(やっぱり櫻井が好きなのは葉月なんだよな‥‥はぁ‥‥僕も早く新しい恋を探そう)
葉月蓮華の隣でご機嫌な櫻井桜乃を見て、彼は過去を振り返りつつも、未来へ向けて歩き出したのである。
勉強はしていない。
最後に猿川彦根はというと
(小学校の頃は真帆が勉強教えてって言ってくれたりしたけど‥‥やっぱり昔のままってわけにはいかないよな)
見当違いの一抹の寂しさを感じていた。
誰も動かず、誰も喋らない。
そんな出だしの勉強会だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます