50.勉強会②/三人称
勉強開始から2時間。
大前日向の頭から煙が噴き出していた。
沈黙と様子見から始まった勉強会、まさかの第一発言者は大前日向であった。
夢の世界から戻ってきた彼女は言った。
言ってしまった。
「葉月君。あの‥解らないところがあるのですが‥‥聞いてもいいですか?」
と。
そこから葉月蓮華の学力ブーストキャンプが始まったのである。
まず、ヒアリングを行なってから葉月蓮華が大前日向の苦手な部分にフォーカスした設問を作り、それを解かせる。
大前日向が解き終わる前に、葉月蓮華は新たな設問を作り上げる。
解き終わると、間違いがあればそこを指摘・解説し、新たなる設問を解かせる。
この無限ループである。
しかも、苦手だと思われる部分を上手く引っ掛ける形で設問を作成しており、ちゃんと理解した上で頭を使わないと解けないよう工夫されている。
常時頭をフル回転、1秒の休憩時間も与えない。何故ならペンが止まるとそこで詰まったのかとすぐに解説が始まる。
ちゃんと解説を聞かないと次の設問が解けなくなる。
これが2時間も続けば煙も噴き出ようというものである。
3日も続けば彼女の目は死んだ魚のような目になる事だろう。
勉強会開始時に抱いた甘い幻想は、男女平等パンチでもくらったかのようにぶち壊れた。
その代わりに学力はゴリゴリと上がっている。
一方、三崎若菜はそれを哀れみと、ほんの僅かな羨望の目で見ながら柊木遊星・夕日桃・白井由莉奈に勉強を教えていた。
ちなみに教科はバラバラだが、まったく苦にしていない。
元々そこまで勉強が得意ではなかった三崎若菜は『何となくここで躓いているんだろうな』というポイントが分かるので、的確なアドバイスを下手をすると教師よりも分かりやすく解説していく。
尚、一度葉月蓮華が3人も受け持っている三崎若菜を気にかけて誰か1人受け持とうかと提案したが、3人は静かに首を横に振った。
残りの4人について、
櫻井桜乃はただ黙々と繰り返し映像記憶を進めている。
変化があるとすれば、肩を寄せるような体勢から葉月蓮華と背中合わせになるように自身の背中を預けて座っているくらいだろうか。
そう、彼女はテーブルを使っていない。
彼女の学習法では黒板の文字をノートに書く事はあっても、自己学習でペンの出番は無いため、テーブルを使う必要が無いからだ。
最初こそ大前日向との会話が気になっていたが、勉強の会話しか聞こえてこないので自己学習に集中している。
犬山海斗は自主練のメニューを考えていた。
だだのバスケ馬鹿である。
赤点さえ取らなければいいというスタンスにつき、最初の1時間で集中力が切れた。
集中力強化のために始めたジグソーパズルは功を成していないのかもしれない。
最後に猿川彦根と真山真帆は
「えっと、ここ解らないんだけど」
「あー‥俺もそこ解らないんだよな‥」
「ちょっと2人で考えてみよっか」
「ああ。まずはこの公式を‥」
ただイチャついているだけである。
学力が中の中であるである猿川彦根と、下の上あたりである真山真帆の勉強の進捗自体は思わしくないが、2人はそれで満足していた。
ここで、大前日向にとっては天の声がかかる。
「そろそろ、休憩にしませんか?」
幼馴染である白井由莉奈が限界を察知して発言し、周りも賛成の声をあげて休憩に入る事となった。
各々が学習道具を片付けて、おやつなどをテーブルに置いていく。
大前日向はテーブルに突っ伏した。
そこで、ピアノを眺めている葉月蓮華を見た三崎若菜は思う。
(弾きたいのかな?‥‥というか、私も久しぶりにツキのピアノ聴きたい)
というわけで夕日桃に声をかける。
「ねっ、夕日さん。あのピアノって弾いて良かったりする?」
「ん?乱暴に扱わなければ別にいいよー。三崎さん弾けるの?」
「んーん。私じゃなくって、ね、ツキ弾いてよ」
「あ?別にいいけど‥いいか?夕日」
やる気のない素振りで応じながらも表情は嬉しげであるのを三崎若菜は見逃さなかった。
「うん。そういえば特技ピアノって言ってたもんねー」
「あ!蓮華君のピアノ聴きたい!」
周りも賛成ムードであるため
「よっし。じゃあ休憩中のBGMにでもして、雑談しててくれ」
そう言って葉月蓮華はピアノへと向かった。
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