43.勉強会でもするか


「行ってきます」


「蓮華ちゃん、行ってらっしゃい。今日はハンバーグ作るから早く帰ってきてねぇ」


俺と同じく切れ長で吊り目がちな母さんの目が笑顔で糸目になる。

ちなみに母さんは、学生時代にこの目が原因で怖がられて浮いてしまい、その結果コミュ障になってしまったらしい。


玄関で母にギュゥゥウウっと抱きしめられてから家を出た。

ふと隣の家を見て考える。これが玄関の外で、隣の家のスミレちゃん(13歳)にでも見られたら、もう挨拶すら返してもらえない気がする。


母さんは見た目20代中盤くらいに若々しいし、滅多に人目に触れないからスミレちゃんが覚えてない可能性があるからな。




登校をしていると、校門前で見覚えのある後ろ姿があった。

桜の装飾がついているヘアゴムで結んだポニーテールがピョコピョコ揺れている。


誰かと話しているみたいだが‥‥



「桜乃ちゃん、今日も君は可愛らしいね。君の美しさで目に入るもの全てが輝いて見えるよ。そんな君の姿を朝から見られるなんて、僕はなんて幸せ者なんだろう」


「‥‥」


「休み中は何してたのかな?僕は桜乃ちゃんの姿が見られずに寂しくて、早く学校が始まらないか、そんな事ばかり考えていたよ」


「‥‥」


「ねえ、今度の休みは僕と遊びに行こうよ。そうだ、桜乃ちゃんに似合いそうな服があるんだ。是非プレゼントさせてくれないか」


「‥‥」



星崎に絡まれてるな。


というか星崎が話しかけて、桜乃がガン無視しているように見える。

話しかけた方が良さそうか?



「それと、そんな安っぽい髪飾りじゃなくて人気ブランドで桜乃ちゃんに似合いそうな髪飾りがあるんだ。それもプレゼントしてあげるよ」


‥‥まぁ、そんなに高いものでは無いが。

だが、結構悩んで買ったものだし少しイラッとはくるな。


と、そこで後ろ姿での判断ではあるがずっと前を向いていたと思う桜乃が立ち止まって星崎を見た。



うおっ、こわっ!すげぇ眼力。



追いついたので声をかける事にした。


「おはよう」


「あっ、蓮華君。おはよう」


桜乃が笑顔でこっちに来る。

星崎は俺を見るとチッっと舌打ちしてから


「またね、桜乃ちゃん」


と、桜乃に笑顔を向けて去って行った。



「よく話しかけられんのか?」


「うん、一応挨拶されたら会釈だけはしてるんだけど‥‥」


「何かされそうだったら言えよ」


「うんっ。ありがとう、蓮華君。教室まで一緒に行こっ」


うーん‥‥心配ではあるが今は桜乃が嬉しそうに笑ってるし、とりあえず星崎に関してはもういいか。




朝のHRで担任から

「連休明けでたるんでると思うが、月末はテストだからな」

という注意喚起があった。

と言ってもテストは2週間ちょい先だし、テスト1週間前は、部活は休みになるが委員会活動はあるとかその辺りの説明を踏まえた話ではあったが。



「もうテストかー‥」


HRが終わり、担任が教室から出ると柊木が項垂れた。


「入学したばっかりだし、テスト範囲とか大した事ねーだろ」


「おーおー、主席様は言う事が違うねぇ。俺はもうすでに数学がヤバイんだよぉー」


「柊木‥お前よくこの高校入れたな‥分からんとこあるなら教えてやろーか?」


「えっ!?マジで!」



そこで、サキが声をかけてきた。


「ツキー、今日は委員会あるから忘れないでねー‥‥って何の話してたの?」


「おう、了解。柊木が数学苦手だっつーから、教えてやろうか?って」




「‥‥え、ツキに教わるの‥‥?」




サキが青い顔をして震えだした。


うん。確かにサキにはちょっとスパルタ気味に教えた自覚はある。

要領良いってわけでは無いんだが、何だかんだ地頭が良くて吸収早いし、さらにやる気もあったからつい熱が入った。

反省はしていない。


「え‥‥?葉月に教わると何かあるのか‥?」


サキの怯えようを見た柊木が聞き返すが、


「あ、あははは‥」


サキが苦笑いで応える。


「まっ、平日は柊木部活だろうし、直前っつーのも微妙だから‥来週の週末にでもどっかで勉強会でもするか。サキはどうする?」


「うん!私も参加する」


「俺も日曜なら大丈夫だ」


とりあえず日にちだけ決まったところで‥‥



「ちょーっと待ったぁー!!」


と誰かがこっちに来た。


「ん?夕日?」


「話は聞かせてもらった!学年主席と次席が開く勉強会があると聞いて」


「ああ、言われてみればそうなるな」


「はいはーいっ!私と桜乃も参加を希望しまーす」


一応、主役(?)の柊木に目を向ける。

それにこいつ夕日に気があるはずだし。


「おっけー!それじゃあ犬山と猿川も呼ぼうぜー」


柊木が了承すると


「あっ、だったら真帆も呼びたい」


すげー、どんどん増えてく。

と、大前と目があったので手招きする。


「な、何でしょう?」


「何かすげー大人数で勉強会する事になったけど、大前も来るか?」


「ふぇ!?私も行ってもいいんですか?」


男が苦手なの克服するのを頑張ってたはずだし、いい機会だろう。



というわけで大前が白井を誘って、真山が柚川を誘ったが部活があるとの事で、総勢10人で勉強会を行う事になった。



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