37.この恋に気づいて


妖精の着ぐる‥‥いや、中の人なんていないな。

妖精に向かって走っていってしまったばっかりに、父母と逸れちまったフィアちゃん(11歳)を迷子センターに送って終了と思いきや、



「すみません、アナウンスやって下さい。お願いします!」



迷子センターの職員に泣きつかれた。



最初に、「すみません、迷子です」と迷子センターに入って、フィアちゃんを見た職員が引き攣った顔をした時から微妙に嫌な予感はした。


なんでも、英語が喋れる職員は今こことは反対にあるもう一つの迷子センターにいるらしい。

一応連絡してもらったが、対応中で手が離せない。


対応マニュアルもあるにはあるが、今いる職員に喋ってもらうと発音が酷過ぎてギリ通じる‥か?程度のものだったし、日常会話も出来ないのでフィアちゃんを退屈させてしまうと。


「なあ、サキ。フィアちゃんの父親と母親が来るまで、ここで待ちになるけどいいか?」


「うん。むしろ、ここで去ろうとしてたら私からツキにお願いしてたよ。まっ、ツキは優しいからそんな事しないと思うけどね」


サキが嬉しそうに笑っている。

その笑顔から目を逸らすように


「別に優しかねーよ」


と、言った。

何か今日は調子が狂う。いつもなら、おう俺は優しいからな。とか軽口で返せてたはずなんだが。




結局、俺がアナウンスでフィアちゃんから聞き出した父親と母親の名前を呼び出し、待つ事15分程。


『フィアっ!』


息を切らした金髪碧眼のナイスミドルとブロンド美女が迷子センターに駆け込んできた。


『パパ!ママ!』


フィアちゃんが2人へと駆け寄って抱き合う。


「何か洋画のワンシーンみたいだな」


「あっ、分かるかも」



サキと親子の再会を眺めていると、フィアちゃんと何か話していた父親が俺の方に来て、


『ありがとうっ!』


と、熱烈なハグを受けた。


お、おう。とりあえず汗拭いてからにしてほしかったわ。

しかし、今日はサキと‥‥何つーか距離感が近くて落ち着かなかったから、オッサンのハグでだいぶ冷静になれた。


サキはハグを警戒してか、フィアちゃんの方に行った。


フィアちゃんの父親はハグから離すと笑顔で話しかけてきた。


『食事はまだかい?』


『はい、これからです』


『お礼にご馳走させてくれないか?僕達も娘を探し回っていてまだなんだ』


別に構わないが‥‥多分サキがあまり会話に参加できないよな。

気を遣ってもらってゆっくり喋ってもらうのも、サキの方が気にしちまいそうだし。


『今フィアちゃんと喋ってるの、連れなんですよ。2人で食べたいので、せっかくですが遠慮させてもらいます』


『おっと、それは気が付かなくて悪かったね。デートかい?』


『まあ‥‥そんなとこです』


『ふふん、それは邪魔できないね』


フィアちゃんの父親がニヤっと笑う。



サキの方を見ると、結構仲良くなったのかフィアちゃんに内緒話をされている。

何かモジモジしてるが、またフィアちゃんがマセガキモードになって何か恋バナでもしてるのかもしれない。

フィアちゃんには、サキならゆっくり喋ればある程度は通じるはずだと言ってあるし。




フィアちゃん達との別れ際に、


『本当にありがとう』


とフィアちゃんの母親にハグされたのだが、サキの方から感じる視線に背中がゾクッとする。



もしかしたら‥‥俺は、女性からの身体的接触に弱いのかもしれない‥‥






遅い食事をしているとサキのスマホに連絡があった。

ちなみにレストランは食事するには遅く、おやつタイムみたいな時間には早かったからすんなり入れた。


「真帆からメッセージ。夜のパレードの前に合流しようだって」


「あと4時間くらいかー。真山は順調なのかねー」


「今までごめんなさいってまだ言えてないけど、頑張るって。あっ、食後のデザート何にする?」


「んー‥甘さ控えめって書いてあるし、ハチミツのロールケーキにすっかな」

‥‥ハチミツなのに甘さ控えめとはこれ如何に


「それじゃあ私はラベンダーのショートケーキにしようかな。違うのにしないと、あ、あーんする意味‥無くなるし‥」


「‥‥マジか。マジでやるのか。猿川と真山いないからやる意味無くねーか?」


「ツキ、私は有言実行の女なのだよ。やると言ったからにはやるったらやる!」




注文して程なくケーキと飲み物が届いた。


どれどれ‥‥!甘くないのに確かに感じるハチミツの風味。そういえば市販の加工されたハチミツではなく、余計な糖分や添加物を加えない天然のハチミツは甘くないと聞いた事があるな。

今度買ってみよう。

とか考えながら食べ進めていたのだが、


「はい‥‥ツキ、あーん‥」


現実逃避はここまでか。くっそ恥ずかしいんだが。サキも目が潤んでるじゃねーか。


とりあえず口には入れた。味はよく分からんかったが。

あーんされるのがどれだけ恥ずかしいかサキにも味わってもらわねば。


「ほれっ、サキあーん‥って、これやる方も恥ずかしいじゃねーか!」

思い出せッ、おっさんずハグを‥‥‥‥冷静になってきた。


目が泳ぎまくっていたが、あーんが終わると俯いて顔を上げないサキにとりあえず感想を聞いてみる。


「美味いか?」


「‥味、分かんない」





食後は体験型のアトラクションを3つ程楽しんで、だいぶ日も落ちてきた。

合流時間を考えるとあと1つだな。


「ねえ、ツキ。最後に乗りたいのがあるんだけど‥いい?」


「おー、どれだ?」


パンフレットを広げると


「これ」


サキが指差したのは観覧車。

締めには定番かもしれないが、この観覧車‥‥リナリアの妖精がモチーフの観覧車なんだよな。


リナリアの花言葉




この恋に気づいて




故に、ここの観覧車は意中の相手を誘ったり、告白のメッカになっていたりする。

サキは知ってて誘っているのか?


今日、度々思った事がある。


サキは俺の事が‥‥好きなのかもしれない

恋愛対象として。


「あぁ、分かった。いいぞ」



‥‥告白‥‥されんのか?



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