35.果実のような甘い香りとか


GW2日目、見事に快晴だなー。


待ち合わせ時間は朝の8時だから一応30分前に待ち合わせ場所の駅前に行くと、黒いパフスリーブの長袖オフショルニットに白のホットパンツ、黒いショートブーツのギャルがこっちに気付いて手を振っている。


まあ、サキなわけだが。


かく言う俺も黒いVネックカットソーに白い長袖シャツを羽織って、下は白に近いデニムのダメージスキニーに黒のスリッポン。

サキと服の系統も色合いも同じだな。


「おはよう。それ新しく買った服か?見た事ないけど」


「おっはよ。うん、どうかな?」


左手を腰のあたりに添えてサキがファッション雑誌のモデルのようなポーズをとった。

今日は装飾品とかも少ないし、色合いも落ち着いてていつもよりちょっと大人っぽいな。


「よく似合ってるぞ。あとそれ、着けてくれてありがとな」


と言って、俺は自分の耳たぶを人差し指で触った。

サキは俺がプレゼントしたクローバーのイヤリングを着けていて、今日のモノトーンなコーディネートの中のワンポイントになってよく似合っている。


「えへへ、すっごい気に入ってるよ。あっ、ツキもカッコいいよ!」


「あんがと。今日はナンパされてなくて残念だったな」


「そうだね、次はカッコよく助けてくれるんだもんねー?」


「どうだろうなー。つーか、結構待ったか?」


「ううん、ツキなら30分前くらいに来るかなーって思って、30分プラス5分前に来てみました」


「なんで前なんだよ。男に待たせとけよそこは」



そんな話をしていると真山が来た。

ボーイッシュ寄りなストリートな服装だな。

黒いキャップに上は青いオーバーサイズのジャージ、下は黒のガウチョパンツにスニーカーと。


「おはよっ!いやー並んでるとお似合いだね、お二人さん」


と言いながらしれっとスマホで写真を撮ってくる。


「まあ服の系統が一緒だから、違和感はねぇだろーな」


「あっ、真帆おはよー」



合流した真山とサキの、この前テレビで〜とか、どこのスイーツが〜とかのガールズトークを聞くこと10分程、猿川が来た。


「悪い、待たせた」


猿川は水色のジップアップパーカーに黒のチノパンでスニーカーを履いたカジュアルスタイル。

本人曰く、俺は普通オブ普通だ。顔も悪く言えば特徴が無い、よく言えば塩顔だし服装も普通だ。と自称していただけあって、確かに普通だった。

ちなみに猿川は長めの黒髪で黒縁眼鏡をかけている。


「おっす、まだ待ち合わせ時間前だから大丈夫だぞ」


「猿川君おはよー」


「ぁ‥‥えっと、来てくれてありがと」


「ああ‥まぁ別に今日暇だったし」


「それでも、うん、何か喋るの久しぶりだね」


「そう‥‥だな」


おー、真山がしおらしい。猿川を誘ってほしいと言ってきた時もそうだがこんなにキャラが変わるとは、恋する乙女すげーな。


猿川はどうなんだろうか。俺から下手に勘ぐると色々とバレてややこしくなりかねないとサキに言われて探りは入れていないが、真山が来ると知った上で来てるって事は‥‥


「どう見る?」


サキに小声で話しかける


「やっぱり壁は感じるけど、そんなに厚くはないと思う」


というか事情を聞いた上でだと、モジモジ真山に猿川が戸惑ってるように見える。


「仲直りできるといいね」


「だなー」






そんなこんなで、移動する事1時間。

やってきましたフレゥールパーク。

花の妖精をモチーフにしたキャラクターがマスコットの大型アミューズメントパークだ。


宿泊施設や結婚式場までパークの外側にあり、結婚式ではスターチスの妖精がお祝いに来てくれるらしい。

スターチスは色によって花言葉は変わるが、どの色も悪い意味はなく一般的には変わらぬ心だな。




「あの入り口にいるのは何の妖精かな?」


小さい子供に囲まれた、長い髪の毛に見立てているところにたくさんの紫の花を咲かせている妖精を見てサキが言う。


「藤じゃねーか?花言葉は歓迎だし」


「葉月君ってほんと物知りだよね」


「趣味は読書と言ったろーが」


「「あれ、最初ギャグかと思った」」


猿川と真山の声がシンクロした。


「お前ら仲いいな」


「えっ!?」

「なっ!?」


ここから作戦開始と受け取ったサキがすかさず俺の隣に来て


「さすがGW混んでるねー。はぐれないように手繋ごっか」


と、猿川と真山にも聞こえるが不自然ではないくらいの絶妙な声の大きさで言ったので、


「そうだなー」


と返事をするとサキが俺の手を握った。



思い返すと桜乃以外と手を繋ぐのって初めてかもしれん。つーてもそれも小学生の時だが。


サキとは一緒に勉強したりする時とかに、結構近い距離だったと思うが‥‥昨日少し考えた事もあってか変に意識しちまう。


柔らかい手の感触とか。

うっすらと香る果実のような甘い香りとか。




要は


何だこれ、照れ臭い。




後ろで


「私達も‥繋ぐ?」


「‥別に‥いいけど」


と聞こえるが、計画通りとほくそ笑む余裕はあまり無い。



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