33.なるほど、だいたいキャラはつかめた
コンビニでバイト情報誌を入手して、店を出たところで久しぶりな人に会った。
「あれ?葉月君‥‥だよね?」
小学校の頃に通っていたピアノ教室の先生である西園寺清香さん(37歳)だ。
「はい、葉月です。お久しぶりです」
「ずいぶん変わったわねー」
視線が頭に固定されている。
「まあ、若気が至ってるだけですよ」
「ふふ、何それ。今は高校1年生かな?買い物帰り?」
「1年ですよ。ちょっとバイトでもしようかとバイトの情報誌をコンビニで貰ってきました」
そう答えると清香さんは少し考えるような仕草で喋り出す。
「ふーん‥‥ねぇ葉月君。ピアノはまだ弾いてる?」
「あー‥‥中学までは弾いてましたけど、高校入ってからは弾いてないですね」
「ふむ、ブランク1ヶ月くらいか。葉月君‥バイトしてみない?」
「え?何のバイトですか?」
「ピアノを弾くだけよ。まぁ、面接で聴かせてみて合格できればだけど」
「何かツテがあるんですか?」
「ええ、友達の夫婦がやってるレストランで奏者を探しててね、見た目が良ければ追加の紹介りょ‥ゲフンゴホッ」
ばっちり聞こえてるが一先ず流そう。
「18時から22時までで日給6000円。週に2,3くらい出れればOK。交代でやってるから待機という名の休憩時間もあって、実労働は2時間弱での6000円。どう?」
「乗った!紹介お願いします」
その後、面接と演奏はOKだったのだが、俺の雇用条件に黒いカツラを被る事が追加された。
そして、バイト初日がやってきた。
お勤め先は『fraise』という創作フレンチのレストラン。
外観は洋風な佇まいで、店内は一段だけ上がったところにピアノがあり、テーブルが8脚程ある。
レトロな雰囲気が個人的には好ましい。
「お疲れ様でーす」
裏口から入り、専用の衣装も貸し出されるので更衣室に向かっていると同じクラスの真山と遭遇した。
サキとよく一緒にいるうちの1人で、黒髪のショートだが前髪がめっちゃ短い。赤フレームの眼鏡が目立つ。
「あれ?葉月君?えっ?何で?」
「うす、真山。俺はバイトだけど‥‥真山もか?」
「私はバイトというか手伝いというか、このお店うちのお父さんがオーナーシェフなのよ」
‥そういや、面接で真山と名乗られたな。
「バイトはホール?キッチン?」
「奏者」
「ん?あっ、そういえば自己紹介で特技ピアノって言ってたもんね」
「おう、とりあえず着替えてくるわ」
更衣室で黒のスラックスと革靴に白いシャツに着替えて最後に黒いカツラを被る
まだ時間があるので休憩室に行くと真山がいた。
「あっ着替え‥‥おおお??何その髪?」
と言いながらスマホで写真を自然に撮られた。
さすが新聞部。
「俺がバイトをするための条件。似合わんか?」
「ううん、嫌味なくらいイケメンね」
「ありがとさん」
「あっ、期待しないでね?私イケメン苦手だから。落ち着かないのよ」
「面と向かって言われると清々しいな」
「えっ?何?葉月君ドM?記事にしていい?」
「なるほど、だいたいキャラはつかめた」
物怖じしない感じがいいと思うぞ。
バイトを始めて3回目の出勤であるGW前日
休憩室で休憩していると真山が入ってきた。
「葉月君!いや、葉月様」
「お、おう。何だ?」
「ここに遊園地のチケットがあります。日にちはGW2日目。お母さんから貰ったんだけど」
真山が指で挟んだチケットをピシッと見せてくる。
「ああ、あるな」
「それでね‥‥えっと‥ひこ‥猿川を‥‥誘ってほしい」
結構言いたい事をズバッと言うやつなのに珍しく言い淀んでいると思ったら‥‥ははーん、つまり
「そういう事?」
「うん」
コクリと真山は頷いた。
いいねいいね青春だな。
「いいぞ、3人で行くのか?」
んで俺が途中で適当に抜ける感じか?
「ううん、4人。それで‥‥葉月君は、協力者は誰がやりやすい?わかにゃんとユズなら私がその‥‥猿川が‥って知ってるけど」
わかにゃんってサキだよな?んでユズが柚川。
「サキだなー」
「だよね!そうだよね!ふふふ。あっ、葉月君からわかにゃんに連絡してあげて!」
「おう、いいぞー」
予定あるかもしれんし、連絡するなら早い方がいいよな?
早速メッセージを送ってみる。
葉月蓮華:なあサキ、GW2日目暇か?
すぐに返事がきた。
三崎若菜:え?大丈夫だけど、何?
葉月蓮華:遊園地行かないか?
三崎若菜:え!?ほんとに?2人で?
葉月蓮華:いや、真山と猿川と
返事が止まった。
この間に猿川誘っとくか。
いつもの4人で飯食いながらGWなのに何も予定が無いって言ってたから多分大丈夫だと思うが。
柊木と犬山はちょこちょこ部活あるみたいだけど。
葉月蓮華:おーっす、GW2日目暇だよな?
猿川彦根:おー暇だぞー。どっか行く?
真山とバイト先が同じで、真山がチケット貰ったからとか説明したらすんなりOKだった。
「猿川確保できたぞー」
まだ休憩室にいる真山に声をかけるとスマホをいじっていた真山が顔を上げた。
「良かったぁ‥‥わかにゃんも行くって」
そっちに連絡行ってたのか。
と思ったらちょうどサキから返事がきた。
三崎若菜:行く!それでさ、当日のプランというか作戦考えない?
サキも真山が猿川をって知ってるからこその協力者だしな。
葉月蓮華:だな!
人の色恋沙汰って謎にテンション上がる。
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