30.手に触れるタイミング


入学から3週間も経つと段々とクラスの中でもグループ的なものが出来上がる。

俺は柊木と犬山と新聞部の猿川と一緒にいる事が多い。

猿川は同じく新聞部の女子の真山に触発されて男子のメッセージグループを作ったが、あまり話題は無い。

まあ、恋話とかを男子オンリーでキャッキャしてても微妙だろうけど。

多分ああいうのは修学旅行の夜とかにするからこそ価値があるのだろう。


そういえば中学の修学旅行って何してたっけ?

‥‥‥自由時間は全部サキと勉強してたな。



女子側はサキと真山と柚川。桜乃は夕日と、大前は白井とよく一緒にいるところを見かける。


と、まあ柊木、犬山、猿川とよく話すわけだが、その中でもとりわけ仲のいい柊木が


「葉月おはよー」


教室に入って席に着くと同時に後ろから抱きついてきた。


ああ!鬱陶しい!


ゴン!と何かをぶつけたような音がしたのでそっちを向くと、大前が机に額を乗せてヒクヒクしている。何してんだあいつ。


とりあえず柊木の話を聞くか


「おはよ、何か用か?」


「今日サッカー部休みで、昨日親父から仕事関係で貰ったって映画のチケットくれたんだよ!見に行こうぜ!」


お?これって桜乃が柊木ルートに入りかけてる時に起こるイベントだったと思うが‥‥何こいつ、俺を攻略でもしてんのか?


「今日は無理だな」


今日は桜乃とスマホ買いに行く約束してるし。


「マジかぁ‥‥‥」


すげぇガッカリしてる。相変わらずメンタル弱いな。

その女みたいな容姿で泣きそうになるのやめろ!微妙に罪悪感湧くだろうが。


「犬山か、猿川か、いっその事女子でも誘ってみたらどうだ?」


女子を誘う場合、こいつは誰を誘うのだろうか?


「え!?女子か‥‥あ、あのさ葉月」


柊木が赤面しながら口に手を添えている。

内緒話か、と柊木に耳を向けるのに顔を逸らすと、手の平で顔を覆いながらも指の隙間からこっちを見ている大前と目が合った。

新しい遊びか?


気にせず柊木の話に耳を傾ける。


「あのさ、葉月って櫻井さんと仲いいよな?」


あー‥‥やっぱり桜乃なのか。


「まぁ、そうだな」


「あのさ、1時間目が終わった休み時間に櫻井さんを呼び出してほしい」


「それで?」


「そしたら、一人になってる夕日さんを‥誘ってみる」


ん?んんん?


「えっ!?柊木ってゆう「こらっ!」」


柊木に口を抑えられた。鼻まで覆われて、息ができない、死ぬっ!


おい、大前!何でスマホをこっちに向けてるのか分からんが、見てるなら助けてくれ!



腕をタップして何とか解放された。


「はぁ‥はぁ‥はぁ‥とりあえず分かった」


しかし、柊木が夕日を、か。




そして1時間目が終わり、窓際の一番後ろの席の夕日が動き出す前に桜乃を呼び出す。


「桜乃ちゃん、ちょっといい?」


「うん、蓮華君。何なに?」


そんな期待するような目で見ないでくれ。

つーか、呼んだはいいけど話す事何も考えてねーわ。


んー‥‥そうだな


「髪型、もうポニーテールにしないの?」


「え?蓮華君、ポニーテールの方が好き?」


「いや、そーゆー訳ではないけど、桜乃ちゃんはポニーテールって印象が強かったから」


「蓮華君から貰ったの、だいぶ色褪せちゃったから‥‥中学からずっと今の髪型なの。あっ!でも大事に仕舞ってあるんだよ!捨てたりしてないよ」


「おー、それは嬉しいな。どうせなら今日スマホ買いに行くついでに新しいの買ってやろうか?」


「ほんと!?蓮華君が選んで買ってくれるの?」


「おう、いいぞ」


「やったぁ!」


おう、今まで見た中で一番喜んでんな。


そんな中、窓際の方を見てみると柊木が俯いてこっちに戻って来るところだった。


桜乃も


「楽しみにしてるね」


と言って夕日の席の方へ行くからタイミングは良かったが‥‥


とりあえず席に着いた柊木に聞いてみる。


「駄目だったのか?」


「どうしよう‥‥オッケーだった」


オッケーだったんかいっ!


「なあ、葉月。俺はどうすればいいんだ!?」




昼休みに犬山と猿川を交えて相談会を行った結果、映画館でさり気なく手に触れてみて拒否されなければ脈あり?という話になったが


「なぁ柊木、ちょっとチケット見せてくれ」


どう見てもアクション映画なんだが、手に触れるタイミングはあるのか?




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