29.敬う相手は俺が自分で決める


「蓮華君!」


休み明けの登校の途中で、後ろから桜乃が走って追いついてきた。


「桜乃ちゃん、おはよう」


「うん、蓮華君おはよう」


桜乃が息を整えている間、立ち止まって桜乃の様子をみる。急いでたみたいだけど何かあったのか?


落ち着いたようなので2人並んで歩き出す。


「あのね、一昨日の事なんだけど、委員会の買い物だったの。2人だと思ってなくて」


「オー、ソウダッタノカ」

知ってるとリアクションに困るな。


「あの人、馴れ馴れしいし何か独りでぶつぶつ喋る時あるし苦手。蓮華君は‥‥何してたの?」


「俺は一人で買い物してて、カフェで買った本読んでたら大前に会ったから買い物に付き合ってたな」


「私も蓮華君とお買い物行きたい!」


「おー、いいぞ。何買うんだ?」


「携帯電話」


やっぱり持ってなかったのか。何となくそんな気はしてた。


「いつ行く?」


「今日でも大丈夫。本人証明も保護者承認も持ってる」


準備バッチリだな。

とりあえず今日はお互いに委員会があるが、終わったら教室に待ち合わせで時間が早ければ買い物に行く約束をした。





放課後になり、委員の仕事に裏庭に向かいつつ何か今日ずっとソワソワしてたサキが話を振ってきた。


「ツキさ、土曜日って何してた?」


「書店に買い物に行ったな」


「その後は?」


「カフェで偶然大前と会って買い物に付き合ってた」


何かこの会話、朝もした気がする。


「そっか‥‥偶然なんだ」


「何で?」


「実は私もお姉ちゃんとショッピングモールにいたんだけど、ツキっぽい人を見かけたんだ」


「何だよ、声かけてくれりゃいいのに」


「そっか!そうだよね!うん、次は声かけるね」


おー、元気になった。サキが元気ないと調子狂うんだよ。




花壇の雑草を抜きながら、ふと桜乃との朝の会話を思い出す。

桜乃は天霧の事を良く思ってないらしい。


今日はこの後ほぼフラグは潰えているものの、ちょっとした顔出しの救済でテニス部の星崎綺羅が桜乃を壁ドンするイベントがある。

本来は王子系の星崎に容姿をベタ褒めされて満更でもない気分になるはずだが‥‥



‥‥もし、桜乃が嫌がっていたら?




「悪いサキ!ちょっと急用!あと任せた!」



とにかく走る。

場所は覚えている。

委員会に向かう途中の図書室手前の階段の踊り場だ。図書室周辺に教室は無いので人通りも少ない。



見つけた!桜乃は星崎に壁ドンされていて‥‥

明らかに怯えている。



「おい!やめろ、桜乃ちゃんが嫌がってる」


俺は壁ドンしている星崎の右手を掴んで桜乃から引き剥がし、強引にこっちを向かせた。


「誰?君」


「1年の葉月だ」


「年下だろ?年上に対する礼儀がなってないね」


「敬う相手は俺が自分で決める。女の子の嫌がる事をするテメェは敬うに値しない」


「へぇ?言うね」


「次に桜乃ちゃんが嫌がる事してみろ?‥‥‥その綺麗な顔面の原型が変わるぞ」


ヘラヘラした態度が気に障ったので、最後は本気で暴力の気配を出した。


「ひっ‥‥‥そ、それよりも桜乃ちゃんっていうんだね?それじゃあ桜乃ちゃん、またね」


喧嘩なんかした事ないだろう星崎は萎縮しながらも桜乃に声をかけて去っていった。


あいつ‥‥つーか何でこんなイライラするんだ?

俺は、本来俺‥葉月蓮華がいない桜乃と攻略対象とのイベントに介入した。

あいつが桜乃の嫌がる事をしたから‥‥



って、そうだ桜乃!何か考えるよりも今は桜乃だ。

桜乃の方を見ると、まだ怯えが残っているのか手が少し震えているのが目に入った。


「大丈夫だったか?」


と声をかけると


「怖かった」


と言って、桜乃は俺の肩に額を乗せた。

俺はなるべく優しい声を心掛けて


「大丈夫だよ、桜乃ちゃん」


と言って頭を撫でた。





5分くらい経っただろうか。桜乃が背中に手を回して抱きついてきた。


「おい、もう大丈夫だろ?」


撫でていた手を止めて桜乃から離れると


「‥‥バレた?」


桜乃は少しだけ口角を上げて悪戯っぽく笑った。


「はぁ‥小学生の頃より甘えん坊が悪化してないか?」


「そうかも」


「とりあえず委員会戻るか。買い物は今度かなー」


「うん。あっ、蓮華君。格好良かった」


そう言って桜乃は図書室へ向かった。





校舎裏に戻ると1人でほとんど噴水まわりの掃除と花壇の手入れを終わらせたサキに普通に怒られた。



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