28.退屈な休日を過ごしてるところside大前日向


突然ですが、私は少女漫画と‥BLが好きです。


私立の女子中学に通っていたのでリアルの男性に対する免疫が著しく低下してますが、見る分には別です。


中学生活は充実してはいましたが右を見ても左を見ても教師も生徒もみんな女子。そんな女子しかいない中学での娯楽といえば‥そういう事です。


この前なんて葉月君と柊木君が教室で手を取り合っていて思わずキャーなんて声が出てしまいました。


幼馴染みで親友の白井由莉奈ちゃんに腐教していますが堕ちてくれないのが最近の悩みです。


そんな私は本日、ショッピングモールの奥にあるアニメショップへ買い物に来ていましたがピンとくるものが無かったので喫茶店で一休みする事にしました。




‥‥あれ?葉月君?

葉月蓮華君‥‥あっちの意味でも、最近は別の意味でも気になる‥とても優しい人です。高校で私が話せる唯一の男の人でもあります。


でも、どう見ても櫻井さんと三崎さんの2人が葉月君に好意があるのは分かりますし、なんならそれを応援したいとも思います。


私は見てるだけで充分ですから。


‥‥でも、休日に偶然会った時に話くらいはいいですよね?



「あの‥は、葉月君、こんにちわ」


「ん?ああ大前か、こんにちは」


「何してるんですか?」


「見ての通り、退屈な休日を過ごしてるとこだな。大前は?」


「わっ、私は‥その‥私も退屈な休日を過ごしてるところです」


言えません‥‥BL本を漁りに来たなんて、とてもじゃないけど言えません。


「相席してもいいですか?」


「どうぞ」


葉月君が立ち上がって椅子を引いてくれました。

やっぱり優しいです‥休日に葉月君に会えた事が嬉しくて自然と頬がゆるんでしまいます。


「あっ、そうだ。俺がクラスであまり恐がられなくなったのって、大前のおかげだって聞いた。ありがとな」


「ううん、それは葉月君の人柄ですよ」


こういうところ律儀ですよね葉月君は。



‥あれ?何か視線を感じます。


あれは‥櫻井さん?‥‥ってあれ?え!?何で!?

櫻井さんがイケメン眼鏡男子と一緒にいます。

櫻井さんは葉月君が好きなんだと思いましたが‥‥


あっ、葉月君も気付いてしまいました。

櫻井さんのあの目は‥‥何か訳ありですね?櫻井さん的にこの状況は好ましくないと。

ひょっとして、このままだと修羅場に発展でしょうか!?



テーブルに片手ドンからのもう片方の手で櫻井さんを顎クイして

『こいつは俺の女だから』

とか言っちゃう葉月君

見たい‥超見たいです。

でも、ここはグッと堪えて葉月君をここから連れ出さなくては!

櫻井さん!大前日向、頑張りますよ!


「あの、葉月君」


はわ!?内緒話のノリで近づいてしまいましたがががががが近すぎましたッ

えと、えと、えと、えと




ぁ、葉月君耳にホクロがあります




って!現実逃避してる場合じゃありません

連れ出すには‥‥


「お買い物‥‥に‥‥付き合ってください」


「俺と?今から?」


「はぃ‥」


「ま、別に構わんよ」


やりました!連れ出す事は成功しそうです。

でも‥男の人と一緒にお買い物ってこれってまるでデー‥‥


意識したら胸がドキドキしてきました。

違います!これはお買い物です!お買い物、お買い物、お買い物、これからするのはお買い物。


「で、では、行きましょう」



事情は分かりませんが櫻井さん、頑張ってください!




「買い物って何買うんだ?」


‥‥どうしましょう。何も考えてませんでした。

アニメショップは却下。

書店は葉月君が書店の袋を持っているので却下。

雑貨とかファンシーショップあたりは‥‥少し葉月君が浮いちゃいますかね?あり寄りの無しです。

お洋服とかは自然でしょうか?


「お洋服なんですが、大丈夫ですか?」


「ん、了解。洋服買うのに付き合うって、俺も選んだりした方がいいの?」


「はぇ!?え、選んでくれるんですか?」


「俺のセンスで良ければだけど」


「はいっ、お願いします」



お洋服を選んでもらえます!これってすっごくデー‥‥

ってバカぁぁぁあああ!

お、か、い、も、の、お買い物!



「では行きましょう」


恥ずかしさを誤魔化すために早歩き気味にショップへ向かう私なのでした。






「あの、試着したいんですけど」


「はい、こちらにどうぞー」


葉月君に選んでもらった服と自分で手に取ったスカートを試着する為に店員さんに声をかけて、いざ試着です。


すると葉月君と店員さんの話し声が‥



「彼女さんですか?」


「いえ、違いますよ」


彼女!?

そんな、私なんかじゃ葉月君とは全然釣り合いません。

葉月君は学年主席になるくらい頭いいし、あぶない時は守ってくれるし、格好いいし、優しいし

ちんまい私なんかじゃ‥‥考えてて悲しくなってきました。


「いい雰囲気だと思ったけど違うんだ?」


彼女じゃないと分かったら急に馴れ馴れしくなりましたねこの人。

というか会話聞こえてないと思っているのでしょうが、試着室のドアの下側に隙間があるので丸聞こえなのですが。


「あんなに清楚で可愛い子、俺みたいなヤンキーじゃ釣り合いませんよ」


えっ!?か、かわっ、可愛い!?




『可愛いよ、日向』


『そっ、そんな、私なんて‥』


『目、閉じて』


『ぇ‥‥何‥するの?』


『自信が持てるようになる魔法をかけてあげる』


『ぅ‥うん』


そしてそっと目を閉じると葉月君が私の唇に‥‥‥



でへ‥でへへ‥‥


ハッ!トリップしてました。




「そんなヤンキー君に合うかもしれないお手頃なお姉さんがここにいるんだけど、連絡先交換しない?」


「お断りします。女の子と2人で遊んでる時に、他の女性に目移りするのはマナー違反なので」


ちゃんと断ってくれました。

私を優先してくれました。


「うーん、躱し慣れてるね、かなりモテるでしょ?」


「ご想像にお任せします」


いや、モテモテですよその人。


「気が変わったらいつでも声かけてねー」





「お待たせしました、ぁの‥か、可愛いですか?」


もう一度、次は直接可愛いって言って欲しくて、ちょとずるい聞き方しちゃいました。


「おう、可愛いぞ!ふんわりした感じがすげー似合ってる」


はぁ‥‥その台詞でご飯食べれます。


「黄色い服って、初めて合わせてみました」


「俺的に大前って、向日葵ってイメージなんだよな」




向日葵‥‥ちなみに葉月君は向日葵の花言葉、ご存知でしょうか?



あなただけを見つめる



私は‥‥見ているだけで充分です。

櫻井さんや三崎さんに敵うなんて思ってません。



だから今日のこの‥‥デートは、忘れないように大切な思い出にしよう。


そして、出てこようとする私の気持ちと一緒に蓋を閉じよう。




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