21.桜乃がデレる


入学4日目だが、朝に柊木と話す選択肢が出るはずの桜乃が話しかけなかったので、昼休みに俺から話しかけてみる事にした。

席後ろだしな


「なあ、柊木」


「え?な、何だ?」


「お前、その髪地毛だよな?」


「あ‥そうなんだよ!よく分かったな!」


「ああ、ムラがないしな。いい色だと思うぞ」


『桜色のキス』やってなかったら分からなかったけどな

すると柊木は


「葉月‥ありがとな。俺も、この母さん譲りの髪色気に入ってるんだよ。だけど、昔からこの髪の事で色々言われてきて‥‥」


と、俺の手を両手で包むように握って感極まったように喋りだす

背中に悪寒が走る

小さくキャーと言うような声が聞こえたので辺りを見渡してみると何人かの女子が頬を赤くしながらこっちをチラチラ見ている。


マズい‥何がマズいのか分からないが、とにかくこのままだとマズいと思った俺は


「お、おう。とりあえずこれから仲良くしてくれ。それじゃあ俺は購買に飯買いに行くから」


と言って教室を抜け出した。




購買でパンを買った俺は、昨日の美化委員の集まりでも手入れ清掃の指定があった校舎裏の噴水まで来ていた。

ベンチに腰を下ろす。

学食や中庭もあるので、ここはあまり人気がないらしく誰も見当たらない‥と思いきや誰かが近づいてきた



「やあやあ葉月君」


「ん?夕日?」


同じクラスの夕日桃。何の用だ?


「隣いい?」


「ああ、どうぞ」


夕日も同じベンチに座って喋りだす


「あのさ、桜乃と幼馴染みなんだよね?何で普通に話しかけないの?」


「あー‥ある程度の経緯はご存知で?」


「うむ、中学から消息を経って、高校でバッタリだよね?それで何か気まずいのかなー?と思ったり」


「いや、入学式で目があったんだけど睨まれてなぁ。その後も目は合うんだが‥やっぱ突然居なくなったの怒ってんのかなーとか考えると微妙に話しかけづらい‥現に向こうからも絡んでこないしな」


「oh‥」


夕日が頭を抱えている

あっ、そうだ


「そういえば犬山も同じ中学なんだよな?さく‥らいと絡んでるのまったく見ないけど」


「あー‥それね、えっと‥ここだけの話なんだけど、海斗は桜乃に一目惚れしてね、一年くらいはずっと桜乃に構ってたんだけど、あまりにも態度が変わらないものだから折れたのだよ」


え?何あいつ折れちゃったのかよ‥


「まっ、それは置いといて葉月君に夕日さんから指令です」


「は?何?」


「今日は放課後美化委員の活動ないよね?図書委員もありません!というわけで、桜乃に一緒に帰ろうって誘って!」


「ふむ」


「んで、帰り道で『桜乃ちゃん』って呼んであげて。すると‥」


「すると?」


「桜乃がデレる」


「マジか」


入学してからメンチしか切られてないけどデレんのか?あいつ


「マジだ」


「んじゃあ、誘ってみるかー」


「よろしくー、あっ!そだ。恋バナ大好きJKの夕日さんに教えて欲しいんだけど、葉月君って彼女いるの?」


「いないから恋バナ大好きJKに提供する話はねーな」


「むふふー、そかそか。それじゃあ桜乃の事、よろしくねー!じゃーねー」


と満足そうに夕日は去っていった





というわけで放課後、桜乃に一緒に帰ろうと誘おうと近づくと、桜乃はやたら姿勢よく微動だにせずにジッと何も置いてない机を見ている。

何してんだ?


「なあ、櫻井」


「ひゃ、ひゃい!」


ん?緊張してんのか?

まさか‥スミレちゃん(13歳)ばりに恐がられてる?


「一緒に帰らねーか?」


「うん!一緒に帰る」


首を縦に5回くらい振っている


「じゃ、行こうぜ」


と言って背を向けながら振り返ると‥

スポ魂漫画の第一話で主人公の隠されたポテンシャルを見抜いたライバルキャラが

『あいつなら、もしかしたら‥』

と言いながらするような右頬だけ上がってる不敵な笑みみたいな表情してるけど、大丈夫だろうか‥




「‥‥」

「‥‥」


クソ気まずい

何だこれ

無言のまま校門を出て歩いている

すると、横目で見て無表情だった桜乃が意を決したようにこっちに顔を向けた


「あ、あのね、蓮華君」


「おう、何だ?櫻井」


「‥‥‥桜乃」


「ん?」


「前みたいに‥‥桜乃ちゃんって呼んで欲しい」



おう、そうだった。夕日からもそう言われてたな



「分かったよ。桜乃ちゃん」


俺がそう言うと桜乃は


片方づつの人差し指を口の横にあてて、グイっと上にあげながら首を横に傾けて


「はい!」


と答えた




‥‥‥‥‥‥は?

え?何これ?いや、可愛いけどさ


‥なるほど、これがデレか

とりあえず気まずい空気は幾分か和らいだな


「蓮華君、髪の色とか雰囲気変わったけど‥向こうで何かあったの?」


「あー‥何かあったと言うか、何も起こさせないためと言うか‥まあ、色々な」


「‥‥髪の毛‥触ってもいい?」


「別にいいけど、整髪料付いてるからベタつくかもよ」


「大丈夫」


と言いながら右手を俺の肩に置いて左手で俺の髪をワサワサする

桜乃も背は低くないが俺の身長が179だから少しだけ背伸びして目の高さが合う

‥‥近いんだが


満足したのか手を離した桜乃は


「蓮華君も、私の頭撫でて‥昔みたいに」


と言うので


「ああ、別にいいぞ」


と、桜乃の頭を撫でた

指に引っかかる事もない手触りのいい黒髪を撫で、風に流された髪がキラキラと輝いている。


って、うわっ!こいつ顔真っ赤じゃねーか

高校生にもなって撫でられるの恥ずかしいなら言わなきゃいいのに


「あのね?言いたい事があったの」


「ん?」


「おかえり、蓮華君」


そういや、起きてる時には言ってないな


「ただいま、桜乃ちゃん」


そう言うと、桜乃が自然と微笑んだ。



そうそう、それだよ自己紹介の時とかに見せるやつ


まあ、怒ってないみたいで良かったわ。




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