14.乙女の祈りside三崎若菜


私は自分の部屋で教科書を取り出しながら考える


私の中2デビューから1年、中学3年になった。

ちなみに、左眼に魔を宿したり、

右腕が疼いたりしているわけではない。


自分を変えるならまず見た目からと思ったわけで


『不良 好きなタイプ』

で検索したらギャルだったからなんて事でもない

ないったらない。


でも、少しは進展したのかな?


「苗字呼びをやめよう!」


って言ったら


「まあ別に。若菜、これでいいか?」


なんてサラッと言うもんだから、こっちの心臓がドキドキしてもたなそうだったので、

葉月からとってツキ

三崎からとってサキ

と呼び合うようになった。


進展してる‥よね?


‥言い訳なんてしない、嘘告をしたのは私だ。

だからこそ、私から好きなんて、もう言えないけど‥それなら、好きになってもらうしかない!



よし!

今日も勉強しますかね。

ツキめちゃくちゃ頭いいんだよね‥同じ高校に行けるように頑張らないと。

あ、そもそも志望校聞いて無かった。

男子校志望だったらどうしよう‥‥


なんて事を考えていると


コンコン


私の部屋のドアがノックされた


「はーい、ってお姉ちゃん?どしたの?」


「何かお父さんが大事な話があるんだって」


大事な話‥?何だろう


階段を降りてリビングに入ると、お父さんとお母さんが椅子に座っている。

なんか空気が重い‥


私達も椅子に座るとお父さんが重い口を開いた


「来年の3月から東京に引っ越す事になった‥」




‥‥‥‥え?






毎週水曜日の放課後、小さな音楽会が開かれる。

観客は私だけ。

今日も音楽室の扉を挟んだ廊下の横の壁に背をあずける。


卒業したら東京‥か

同じ高校に入りたくて勉強頑張ったけど、無駄になっちゃったな‥


そんな事を考えていたらピアノの音が聴こえなくなってる事に気付いた。


「よう、サキ」


「っ!!?」


音楽室からツキが出てきた

えっ!?聴いてたのバレた?


「たまに聴きに来てるよな?」


バレてる‥さて、何て答えよう。

こっそり聴いてたからか謎に後ろめたい


「えーっとー‥」


「好きなの?ピアノ」


「えっ!?あー、好きだよ。‥ピアノ」


ビックリしたなぁ、まったく。好きなの?を先に持ってこないでよ。

いや、ピアノも好きですよ?

曲とか全然詳しくないんだけどツキのはね、すごく好きなんだ。


「意外だな。見た目的な意味で」


「むー、ツキこそ!見た目とピアノのギャップがすごいっ!」


「なはは、自覚はあるよ。何かリクエストある?知ってる曲なら弾いてやるよ」


「ホントっ!?じゃあ‥んー、今の私をイメージした曲をお願い」


こんな時に、この曲がいい!って可愛くお願いできたらいいんだけど、残念ながらピアノの曲に詳しくない。

でもね、あなたが決めてって言って悩んでもらうのって女の子は結構嬉しかったりして。


「はぁ?何でもいいより難易度たけぇな」


んー‥とか言いながら目を閉じて考え込んじゃった。

ふふ。悩んでくれてありがとう。


「よし、決めた。来いよ」




まさか、扉を1枚挟んで開かれる小さな音楽会がすぐ近くで聴けるようになるなんて。

東京へ行く私への、神様からのささやかな贈り物かな?



〜♪〜♪〜♪


優しい曲

私の今のイメージってこんな感じなんだ


〜♪〜♪〜♪


ツキといられる時間はもう1年も無い

‥‥‥諦めたくない


〜♪〜♪〜♪


‥‥‥この想いを諦めたくない

中学生の私ではどうにもできないなんて

それは理解してる。それでも‥


〜♪〜♪〜♪


私は‥‥ツキと‥‥一緒にいたい





パチパチパチパチ

「素敵な曲だった!何て曲なの?」


「乙女の祈り。今日ちょっと暗かったろ?何悩んでんのか知らんけど、もし何かを祈ってるんなら叶うといいなってね。選曲そんなに外してないと思うんだけど、どうよ?」


「ぅん、、確かに。外してない。気にしてくれてたんだ。あ、あり‥がと」


‥ずるい‥これはずるい。ずる過ぎる。心臓がバクバクして、胸がキュンキュンして死にそう。

やっぱり私は諦めない!

帰ったら私だけ親戚の家に行けないかお願いしてみよう、そうしよう。



今日の小さな音楽会はここでお開きで、途中まで一緒に帰ってるんだけど、さて何を話そうか。

そうだ!志望校聞かないと


「ツキは高校どこ行くの?」


「あー、それな。実はこっちの高校行かないんだよ」


「へ?」


んん?ちょと遠目の私立とか行くのかな?


「中学入る前まで東京いたって言ったことあったけ?親父の仕事の都合で3年だけこっちに来たってだけで、高校からはまた東京なんだよ」


「え?え?えっ!?えっと、受ける高校!高校の名前教えて!」


えぇぇ!?!?そんな事ってある!?

東京で‥同じ高校‥行けちゃう!?


「お、おう。明瞭学園ってとこなんだが」


「明瞭学園。明瞭学園。明瞭学園。よし、覚えた」


明瞭学園ね。インプット完了。あとは学校の場所と、うちの新居の住所次第かな?

いや、せっかく同じ東京なんだ。

こうなれば一人暮らしも辞さない。


「どしたん?」


「えっとー‥明日教える!期待しないで待ってて!」


「よく分からんが、分かった」


「ここでお別れだね、また明日!」


「だいぶ元気になったみたいだな。おう、また明日な、サキ」




手をブンブン振って見送りつつ、家まで全速力

多分私史上最速だったと思う。


家のドアを開けて


「ただいまー!おかーさーん!!新しいお家の住所教えてー!!」


「えっ!?そんなに嬉しそうにどうしたの!?泣いて嫌がってたのに‥」


「それは忘れて!」


まだ予定だけど新しいお家の住所を教えてもらい、私の部屋のベッドの上で何故か正座をしながらスマホを操作


「明瞭学園‥あった。えっと‥電車で5駅‥30分‥行ける!行けるよっ!」


物理的には行ける。あとは頭の方は‥結構レベル高い高校なのかな?


「えと‥偏差値は‥70?」






「‥70?」






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