10.今日から私の中学生活が始‥まらないside三崎若菜


「若菜ー!急がないと遅れるわよー!」


部屋の外からお母さんの声が聞こえる。

私、三崎若菜は焦っていた。

早めにかけた目覚ましを無意識に止めてしまったせいである‥


鏡の前で身嗜みを整える

肩に着くくらいのストレートの黒髪

お父さん譲りの少し垂れ気味な目

お母さん譲りの小ぶりな鼻と口


うん、いつも通り



朝食は抜いて、野菜ジュースを一杯だけ飲みすぐに家を出る。


「行ってきまーす!」


歩く速度を上げながら時間を確認する。

どうにか間に合いそう



車道を挟んだ反対側の歩道に、制服をきた男子が目に入った。

‥不良なのかな?

髪が灰色だ。

あんな髪の毛してる人は小学校にはいなかった。

同じ方向と言う事は同じ中学に入る同級生なのかもしれない。



そう、今日は中学校の入学式


今日から私の中学生活が始‥まらないかもしれない



何故なら件の不良の前を歩いていたお婆さんが転んで足を痛めたようだったから。


きっとあの不良は無視するだろう。



‥そう思っていたんだけど


さっきまでは少し不機嫌な印象があった顔が優しい顔になってお婆さんをおんぶして歩き始めた


私はそれが意外過ぎて思わずこっそり後をつけてしまった。


10分くらい歩いたところで一軒のお家へ着いて玄関先でお婆さんを降ろして何か話している。


と、話が終わったのか出てきた不良が中学校の方へ‥って!


そうだった、入学式だよ!!


私は不良より一足先に駆け出した




‥入学式をやっているであろう体育館の扉が閉まっている

鍵はかかっていないと思うけど‥途中から入るのはハードル高いなぁ‥


校舎の方を向くとこちらは開いている

‥‥ちょっと覗いてみようかな


魔がさした私は靴箱の横にある来客用スリッパを借りて彷徨く事にした。



3階に来たところで


これは‥ピアノの音?


音楽室と書かれたプレートの下の扉から少し顔を覗かせる


と、


私は驚きで固まってしまった


まずは朝日を反射して輝く灰色の髪が目に入った


この、春の陽気のような優しく心地いい空間を作り出してるのはさっきの不良だった


お婆さんを助けた時のように優しい顔をしている


そんな姿に見惚れてしまった



その時、私の胸の真ん中にとても温かい何かがストンっと落ちてきた気がした。


何かに落ちてしまった


でも全然嫌な感じではなく


嬉しいとも、楽しいとも違う気がする


これが何なのかは分からない


でも多分これはとても大切なもの。




曲が終わったので、出てきたらどうしようって焦って私は慌てて音楽室から離れるように駆け出した



何故だか顔がすごく熱かった




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