6.大丈夫、ここにいるよ。


小学校の卒業式まであと少し、そんなある日。


「卒業前にクラスのみんなでどっか行かない?」


クラスの誰かのそんな声を皮切りに教室内は盛り上がりを見せた。


遊園地と水族館で意見が割れていたが、そもそも人数多すぎという事で、いったん教室の真ん中に集まり遊園地に行きたい人は右端へ、水族館に行きたい人は左端へ、いっせーのせで移動する事に


そんな中、桜乃がススっと近づいて小声で話しかけてきた。


「ねえ、蓮華君はどっちに行くの?」


「それ聞いたらズルじゃない?」


「蓮華君と一緒がいいの」


「水族館にしようかな」


「分かった」




「それじゃあ、いっせーの!」






水族館前

水族館組のリーダーとなった俺はどうせバラけるっしょって事で帰りの集合場所だけ決める事にした。


「15時‥夕方の3時にこのイルカの像に集まって下さい。それまではお昼ごはんも含めて自由行動で!では行こうー」


うちのクラスにはイジメられっ子もボッチもいないから、こんな感じで平気なはず


イジメに発展しそうな芽は全部摘んだからね。


一応リーダーだしって事でみんなが水族館に入るのを待つ。

当然のように今日もポニーテールを揺らした桜乃がニコニコ笑顔で隣に並んでいる。


「みんな行ったね。じゃ、私達も行こっ!蓮華君」


「そうだね」




ゆっくり楽しみつつ歩いて、大水槽に着いた時の事

クラスの女の子4人が近付いてきた。

その中の1人から


「あの、葉月君、ちょっといい‥かな?」


「ん?何?何か困りごとかな?」


と話していると他の3人が桜乃の肩を押して


「櫻井さん、私達とあれ見よう!」

「あれ、何のお魚かなー」

「行こう行こう!」

「えっ!?え?え?」


とドナドナされていった。




残った俺はというと


「あの、葉月君、えっと‥その‥」


「うん、焦らないでいいからね」


とてもテンパってるクラスメイトの女の子の相手をしている。

にしてもすげー目が泳いでる。

大水槽にいる魚よりずっと早い。

おとなになるってかなしいことなの‥

おっと、思考が逸れた


「えっと‥あの‥‥えっと‥‥しゃ」


「しゃ?」


「写真!一緒に‥撮って‥‥ください」


「うん、いいよ」


おおう、告白でもされるのかと思ったわ

さて、水族館のスタッフの人は‥いた


「すいません、写真撮って下さい」


スタッフの人は笑顔で了承

2人で並んでピースした写真を撮った




写真も撮り終えて2人で3人の元へ行くと‥って、あれ?


「あれ?桜乃ちゃんは?」


「トイレ行ったまま戻ってこないの」


「迷ったかな?じゃあ俺が探しとくから4人は楽しんで!この後イルカショーとか確かあったよ」


と別れて桜乃を探しに行く事にした。




「はぁ、はぁ、はぁ‥」

探し回る事30分くらいだろうか

ドナドナされた大水槽の所の隅で、桜の花の装飾が付いたポニーテールが体育座りしてるのを見つけた


「やっと見つけた‥って、え?」


顔を上げた桜乃は泣いていた

少し離れたくらいで泣くなよ‥


とりあえず安心できるように、そっと優しく頭を撫でた


「大丈夫だよ、桜乃ちゃん」


「あのね‥」


「うん」


「寂しかったの‥」


「うん」


あと少しで俺いなくなるのに、大丈夫かよ桜乃

泣き止んだけど、ずっと沈んだ顔してるし‥


何かないか、何か

こういう時は物で釣るか?


「はい、立って」


と手を引いて、売店に行ってみる事にした。




「桜乃ちゃん、このぬいぐるみの中だとどれが1番好き?」


「えっ?んー、、これ‥かな?」


「イワトビペンギン‥他に可愛いのあると思うけど」


「この子、蓮華君に似てる」


いや、確かに俺は切れ長というか、つり目がちというか、要は目つきがあまりよろしくないが‥


「カワイイ‥」


まぁ、気に入ってるみたいだしいいか

そのまま手を繋いで会計へ


「はい、プレゼント」


「いいの?」


「こいつの名前は今日から蓮華二号ね。だから、僕がいなくてもあまり寂しがらないように」


桜乃はぬいぐるみを胸にギュッと抱えて


「うん、分かった」


と笑顔で頷いた。






やっと笑ったよこいつ。






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