36 海へどぼ~ん……orz

 ああ、吹っ飛ばされる勢いには、慣れつつあるのだが。

 ロボットにでも乗っていないこの状況。

 甲板から吹っ飛ばされることを想像すると、……ねぇ。

 《ま、ジョークはこれぐらいにして、んじゃま、増速すっか。最大船速!》

 「!……それなら、な。」 

 そんなシュールな想像も、次に来たエイルの言葉に消えて。

 だろうねと思い、軽く服を叩き、埃を払うようにして、立ち上がった。

 「?!」

 そのタイミングで、増速するか。

 感じる風圧は大きく。

 それも一気に襲い掛かるレベル。

 そのために、立ち上がったのに、また座り込む形に。

 「な?!何だぁ?!」

 明らかに異常な増速だ。およそ、船が出せるスピードじゃない!

 聞きたくもあるが。

 生憎とこちらが向こうに話し掛ける手段を持っていないために。

 どうもできないでいる。 

 《あぁ~。結構な速度出ちまってすまねぇ~。》

 「おぉう!張り切ってんなぁ!エンジンがいい音出してんじゃね?」

 《ま、な~。100ノットは出てっかなぁ。》

 「?!」

 察してくれてありがたく、丁度聞きたいことを話してくれるようだ。

 ヴァルは張り切っているのかと、エイルに言っているようだが。

 途中に耳にした速度に、ぎょっとしてしまった。

 聞いたことない速度だ。速度の単位自体は、もちろん知ってはいるが。

 そうであってもこんな速度は聞いたことがない。

 現行の艦船史上一の速度じゃないか?陸上の特急並み。

 あるいは、俺の世界でいうなら古い新幹線並みじゃないか。

 そのような速度を示すのだから。

 あっという間に、小さい船影は、圧倒的な速度で大きくなる。

 つまりは、接近していく。

 《お~う!出番だぜ?》

 「ひひっ!待ってましたぁ!待ちわびたぜ!待ちわび過ぎて、子どものようにはしゃぐぜぇ!今日は!!」

 「!……気合入ってるなぁ。」 

 そのタイミングで、エイルは合図を送るように言ってきて。

 ヴァルは立ち上がり、ニヤリと笑みを浮かべて。

 今にもはしゃぎそうなほどに身体を弾ませている。

 近付いているのに、呑気な俺は、ぼんやりと呟くしかない。 

 「……みっ!」

 「!」

 そんな折に、甲板に上がる口が開いたなら、トールが姿を現して。

 聞きつけたか。おまけに、ヴァル同様、準備は万端のよう。

 「さぁて!!ド派手に花火、上げますか!」

 揃ったと思うや、ヴァルはトールの姿見て、気合を吐露する言葉を口にして。

 両手にレーセを握り、光の刃を迸らせる。

 「……みっ。」

 トールも、ヴァルを見て頷くなら、レーセ持って、同じように光を迸らせて。

 「……だよな。」

 後は俺だ。

 この流れで、ずっと座りっぱなしだと悪く。

 致し方なく、立ち上がり、また埃を払ってライフル銃を手に取り、構える。 

 「……っ!」

 「!」

 軽く、ヴァルが息を小さく吐く動作をして。皮切りに、俺はじっと前を見据えて。

 「……ハァァッハァァァ!!!」

 やがてヴァルが吠えるなら、いの一番に駆けだした。

 ヴァルは甲板を走り抜けて、大きく跳躍する。

 走り幅跳びよろしく、飛翔しては、海面に到達しそうになる。

 その一点にて、さも、地面を蹴るかのように足を動かすなら、またも跳躍して。

 すぐさま、ヴァルは相手側へと辿り着き、レーセを振るいだす。 

 「……みっ!」

 トールも見て、頷くなら同じように駆けだして、艦首から跳躍。

 同じように海面を蹴り跳ねては、また。

 「……。」

 最後は俺だ。

 あんまりやったことはないが、やるしかないと。

 俺もまた、先の2人と同じように甲板を駆けて。

 走り幅跳びの要領で艦首から跳躍、そのまま海原へと出て行く。

 跳躍の勢い、訓練の賜物か、昔の俺と比べると遥かに向上していて。

 およそ、普通の人間とは思えないレベルの跳躍を見せれただろう。

 そうであっても、勢いは落ち、海面は迫る。

 ここで、ヴァルのように蹴り上げれば、またも跳躍だってできよう。

 「……っ!」

 軽く息を吐いて、海面を蹴るようにした。

 「!……あ。」 

 ……が、こんな時に、肝心なことを忘れていたと思い出す。

 ……あれ、どうやって、やるんだっけ? 

 やり方を知らない俺は、そのままだと海に足から落ちる形に。

 「?!うおぁああああああああ?!」

 情けないかな、叫び声を上げて。

 そのまま海に落ちそうになる。

 なお、その時、つい手にしていたライフル銃は放り出してしまい。 

 「……ぶごほぉぁああ?!」

 当の俺の肉体は、そのまま海面にダイブする。

 「?!おっ?!どこのどいつだぁ?!ライフル銃ゲット!」

 放り出されたライフル銃は、ヴァルが手に取ったらしい。

 上から嬉しそうな声を上げて手にしては、構える音を立てて、発砲をする。

 「うわぁぁぁ?!」

 「ば、化け物ぉぉぉ!!」

 「しまった!!どっかの誰かが落ちたのに気を取られて!!」

 「うしゃしゃしゃしゃ!!あたしらをやりたきゃ!帝国が滅ぶレベルの軍隊引き連れて来いってな!!」

 「「ぐわぁぁぁ!!」」

 「……。」

 軽快な音を立てて乱射して、輸送船の上を暴れて回り。

 乗組員は、悲鳴を上げて逃げ惑う、その様子を。

 俺は海面から顔を上げて見るしかなくて。

 次第に、何をしているのだろうかと、分からなくなってしまう。

 「……!」

 ふと、そんな一瞬の考えが終わるなら、途端に戦闘の音も遠退いて。

 「へへん!一丁上がり!おらぁ!エイル!さっさと曳航して帰るぜ?!ああ、乗組員は適当な船に乗っけて放り出したがな!」

 「?!……終わったのか?!」

 もう終わりとばかりに、ヴァルが勝利の言葉を上げて。

 海面から見ている俺は、驚愕するしかない。

 《あ~はいはい。お仕事速くて助かるわぁ~。早速、あいつらに飯を食わせてやれるから、まったく、いい気分だわぁ~。》

 ヴァルの声はエイルに伝わっているようで。

 エイルは、棒読みに返してくる。

 《まぁ、エイル様としては、もっと面白れぇもん見たからなっ!》

 「あ?!んじゃそりゃ?」

 《分かんねぇか?おめーらよりも後に続くはずだった誰かのことだよ。そっちの方が、10倍面白れぇ!ひひひひっ!》

 「!!……ぬぅぅぅ。」

 ヴァルへの返事は、どうも面白くないからだと。

 なら、もっと面白いことはあるとするなら。

 ヴァルに言ってやることには、俺のこと。

 笑われて言われるものだから、悔しさあれど。

 反撃しようにも、できずにいて、俺は呻くしかない。

 「!!あ、マジだ!うひゃひゃひゃひゃひゃ!!フェンリル!おドジ!」

 「!!……ぬぬぬぅぅぅ。」

 エイルに言われて、ヴァルが輸送船から見下ろすように俺を見たなら。

 大爆笑をしてきた。

 もちろん、俺は悔しさあっても、反撃できずにいて、呻くしかない。

 《っと。このままこいつを漂流させておくのもエイル様は癪だ。笑う程度で済ましといてやらねーとな。傷付いて隅っこでしくしく泣かれても、気持ち悪い。》

 「!……。」 

 まあ、それらは笑い話としてくれるとエイルは言ってくれて。

 それなら、この間抜け話も終わるのだろう。

 「んぁ?放っておいてもいいんじゃね?漂流しても死なねーだろうから。サメだって、モンスターの肉喰いやしねーだろ。」

 「?!」

 他方、終わらせてはくれなさそう。

 ヴァルはニヤニヤと、意地悪そうにしながら言い。

 俺は耳にして、見上げたら、青冷めてしまう。

 《ああ、エイル様嫌な予感がすっぞ?気ぃつけな?》

 「?!敵か?!ええ?!おい!」

 「!!」

 ヴァルの様子を見ていて、エイルは一言掛けてくる。

 まるで、敵が出たかのようで。

 耳にしたヴァルはときめきを露に。

 耳にした俺は、またかと、つい身構えてしまう。

 「?!……。」

 「?!あだぁ?!」

 《ほら見たことか。》

 では、その予感の正体とは? 

 ヴァルへの衝撃と共に現れるのは、トール。思いっきり頭を殴った。

 見ていて痛そうだと思いつつも、エイルの言葉を借りるなら、その通りだと。 

 「!」

 「いつつつ……。ジョークだって。ったく。通じねぇ奴。だって、見捨てたら、こいつ絶対あたしを祟りそうだもん。ほどほどにしねぇと、なぁ……。」

 「……。」

 ヴァルは、痛む頭を押さえつつ、弁明をしてはいる。が、トールはどこ吹く風。

 聞いていなく、別の作業をしている。

 その時に、何と輸送船からクレーンが出てきて。

 備えられている鎖を俺に向かって下ろしてくる。

 「……みっ!」

 「!……ああ、ありがとう。」

 俺の傍まで来たと思うや、トールは顔を出して目配せしてきた。

 俺を助けるために下ろしたと思えて、俺はお礼を言い。

 素直にクレーンへと手を伸ばした。

 魚を釣り上げるような格好で、甲板まで上げられて。

 「?!わっぷ?!」

 クレーンから降ろされるや否や、速攻で水をぶっかけられた。

 海水に浸かった挙句、さらに水までぶっかけられるなんて!

 などと、不満をつい露にしそうになるが。

 まあ、現に、ヴァルはニヤニヤしながら見ているのだから。

 余計にそう思いたくもなる。

 《……しゃーねーだろー。海水は物を錆びさせる。エイル様たちは、海水に浸かろうが塩漬けされようが、へーきだろうが、他の機械はそうとは限らねーかんな。仕方ねーと思うしかねーぜ?》

 「!!……ぬぅ。」

 遠くの、そう、自分たちの船のスピーカーから声がするなら。

 エイルが丁寧に説明してくれた。

 水をぶっかけられたのは、決して、さらにいじめるためではないのだと。

 このまま、何もせずに、自分たちの船に戻ったら。 

 海水が付着して、錆の原因となるからと。

 ……とは、もっともらしく言われるのだが。

 改めてヴァルを見れば、意地悪そうにしていることから。

 エイルの言葉も、詭弁に聞こえて仕方なく、呻くしかない。

 

 洗浄を終えたなら、俺とヴァル、トールはまた母艦に戻ることに。

 強奪したような形の補給艦は。

 そのまま母艦に引きずられる形となり、海路を行く。 

 「ああ、そうだ。」

 「!」

 「フェンリル、風呂に入っとけ!このままじゃ、塩水で体痛むぜ?」 

 そんな中、エイルが言うことには、俺に風呂に入ることを薦めると。

 なぜにと一瞬思ったなら、海水に浸った後だからと、気遣われていると思える。

 「……。」 

 珍しいこともあるのだなと思いつつ、それならと俺は頷くなら。

 母艦の中を一人進んでシャワー室へと向かうことにする。 

 「あ~!その前に。」

 「!」

 ……といったところで、思い出したかのようにエイルが言ってくることには。

 待ったをかけるかのよう。

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