35 修行の果てに

 ……ただ、トールはほとんど喋らないがために。

 いまいち意図を汲み取るのが難しく思えてならない。

 2人して、対峙することになるなら。

 また、レーセを構えて。

 「……?」

 俺は剣道みたいな構え、相変わらずだが。

 トールはまた、独特な構えを取る。

 ヴァルとは違って、どこか弓を引くような。

 あるいは、刺突に近い構えをしている。

 レーセを持つ手を、大きく引き。

 片方の手は、開いてこちらに突き出すような。

 何だろうかと、首を傾げていると。 

 「……みっ。」

 「……!」 

 さも、見本を見せると言わんばかりに頷いてきて。

 多分そう思っていると汲み取るなら応答にこちらも頷きを返した。

 「……?」

 ただ、見本を見せると言っても、向こうから打ち込んでくることはない。

 なら、俺から打ち込むしかないか?

 叩き込むと、気分が悪いためにやりたくはないが、致し方ないか。

 「……っ!」

 俺は、軽く息を吐いたなら、レーセを振り上げ。

 相手の頭に叩き込むような感じで、振り下ろしながら、駆ける。

 トールは、冷静に見つめたなら、レーセを持つ手を回して。

 「!」

 バチンと、弾き返すような動きを取る。

 光の刃同士が当たり、弾かれる。

 トールは、レーセを回しながらまた構えて。

 「……?」

 何事と思いつつも、俺もまた構え直して。

 今度は払うかのようにレーセを振り払うようにするが。

 それも、回しながらトールは弾いてきた。 

 「……?」

 妙すぎる動き。 

 疑問に思え、首を傾げる。

 打ち込む際に感じることだが、隙だと思う点はいくつもありながらも。

 だが、俺が打ち込む時には、その隙が消える。 

 また、レーセが回る時に、光の刃が一瞬壁のようにも思えて。いや、盾か?

 「……。」 

 よく分からないながらも俺は。

 ヴァルとの見様見真似だが、攻撃を素早く連続して行うようにする。例えば、斬ったその瞬間に、素早く突くような、払うような。

 そのような動きをやってみよう。

 下手でも、まあ。

 そうして、連続攻撃をやるなら。

 「!」

 トールはレーセを回しながら払い、それら全て弾いていく。

 「……?」

 なお、弾きはしても、攻撃をあんまり行ってはこない。なぜだろうとつい首を傾げているなら。

 「……!」

 もしかしてと思い付くことがある。

 「……それって、防御用の動き?」

 「……みっ。(こくり)」

 「!……か。」 

 聞くなら、防御用の動きなのかと。どうもそうらしく、トールは頷きで答えた。

 「……みっ。」 

 「!……もしかして、教えてくれるのか?」

 「……みっ!」

 「……分かった。ありがとう。」 

 続いて、教えてくれるらしく。

 トールは、またも頷いてくれる。 

 「……!」

 レーセの刃を仕舞うなら、俺の側に来て。

 光の刃を迸らせて、先ほどのように構える。

 ついで、目配せするなら、やってみてと言わんばかりに。 

 俺は頷くなら、同じように。そう、弓を引くような、刺突のような構えをした。 

 「……みっ。」

 「!」

 そうして、動きを示す。  

 武術で言うなら、型を見せるということか。

 構えから、動きに変わり。

 「……!」

 まるで、その動きは、舞いを思わせるかのよう。

 基本、円を描くかのようで。美しささえ感じて、言葉を失いそうになった。

 「……みっ!」

 「!」

 動きを一通り見せた後、トールは今度は俺がやってみてと促してくる。

 俺は、見せられたならと、頷いて応じて。

 先ほどトールがやったような動きを俺は、拙いながらも始める。 

 粗さが目立ち、およそ、美しくはあるまい。

 そうであっても、続けさせられて。

 また、そこからある意味の修行のごときことが始まった。

 

 俺の精神にある、トラウマと呼べるか、人を殺めたこと、忘れさせるためにか。

 あるいは、一丁前に兵士として使えるようになるためにか。

 そのために、動かされていく。

 トールから教えてもらった動き、トレースしながら。

 時に、組手のように、打ち合って。

 それだけじゃない。

 驚くことに、スフィアの使い方も教わるなら。

 ついでに、俺に向かって、光弾を放出させたりして技を磨かせていく。

 並大抵の動きじゃ、光弾を受け止めきれやしないが……。

 不思議なことに、モンスターであることが幸いして、俺は払いのける。

 スフィアの使い方に関しては、意外と簡単にできるようで。

 軽く宙に放るなどすると、宙に浮き、撫でればその通りに動き。

 円を描くように動かせば、バリアが、フォトンシールドが形成されて。

 スフィアに光を収束させて、突き出せば、光弾を放出させることができる。

 そうして、相手と一緒に、その動きを繰り返す。

 まあ、相手はヴァルとトールの交代しながらだが。

 ……ヴァルは最初、これ幸いとばかりに俺にリベンジするかのように。

 乱戦のごとく、レーセを振るいまくっていたが。

 トールから教わった動きを元に、払いのける。

 見ていて、面白くなっていたか、ヴァルはその剣閃を強めていく。

 こちらは、必死になっていたが、何とか受け流せるようにもなっていはいた。

 

 もちろん、剣の修行だけじゃない。

 ライフル銃の訓練だってある。まあ、狙撃が基本だが。

 こちらは、思ったよりも簡単なよう。

 的に当てるだけではあるが。

 なお、俺の腕は最初、頼りなかったが、上がっていくなら。

 いつの間にか、遠くの小さい物体さえ、撃ち抜くことができるようにもなった。

 近距離での、乱射でも、命中率が高くなり、技術は上がったらしい。

 

 もちろん、銃だけじゃなく、扱う兵器はそれだけじゃない。

 マキナにだって操縦させられる。ああ、シミュレーターらしい。

 なんでも、共和連邦の空母に積まれてあった物を、エイルが流用したらしく。

 まあ、ロボット物のアニメで見たような感じで。

 巨大なロボットを動かしている感じであったが。

 対戦相手は、基本AIであったが、時にはヴァルとトールがまた、相手をする。

 白兵戦だけじゃなく、二人はこちらも上手くあり。

 嫌に叩き込まれることとなる。

 まあ、マキナはマキナでも。

 ロボットだけじゃなく、戦闘機まで訓練させられて。  

 ついでに、エイルからは座学として、戦闘機のあれこれ。

 マキナのあれこれだって、叩き込まれて。

 そうして、兵士として、兵器として仕上がっていく。


 どれぐらいそうしたか分からないが、およそ半年以上は過ぎたか。

 「……。」 

 ある時に、寝そべり空を見上げて、ぼんやりとする。

 いくら、戦闘技術のあれこれを叩き込まれようとも。

 だが、あの欠点だけは、残り続けている。そう、躊躇いだ。

 シミュレーションでもそうであったが、相手を刺そうとすると。

 どうしても躊躇いが残り、ヴァルはその度に、指摘してくる。 

 にもかかわらず、治そうにも治せない。 

 いや、それが人として、正常なのかもしれないな。

 ヴァルは呆れやするが、だが、特段咎めることもない。

 別に、大きく期待しているわけではないから。

 聞けば、後ろから支援してくれればいいだけだと。

 そのために、それなりに動けられれば、十分で。 

 後は、自分たちが何とかすると。

 むしろ、乱戦にしてくれた方が、やりやすいからだと。

 そのために、俺は使われる。

 ……適材適所か、ある意味。

 「……はぁ。」 

 それを知りながら、俺は大きく溜息をつく。

 そんな折に、俺たちは揃って、任務に出掛けることとなる。 

 どうやら、共和連邦の輸送船団を壊滅させるものらしく。

 ついでに、向こうが積んでいる補給物資を奪うということだ。

 そのために、今俺たちはまた、あの空母もどきに乗って、海原に出ていた。

 「なに辛気臭い顔してんだ?ええ?久し振りの戦いだぜ?ここ最近、ずっとお前の相手ばかりしていたんだからなっ!ええ?ちっとは楽しめよ!」

 「?!……ぬぅ。そうは言ってもな……。」

 先ほどの溜息、聞かれていたか。 

 ヴァルが楽しそうに、顔を覗き込んでくる。

 俺は、言われても、ヴァルのように楽しめるはずもない。 

 複雑そうに俺は、言葉を紡ぐばかり。

 《おらぁ!フェンリル、ヴァル!見えてきたぜぇ?さっさと準備しな!》

 「!」

 「!っと、言ってる側からだな!」

 遮るように、甲板のスピーカーから声が漏れる。

 エイルからだ。

 言われるならと俺は身体を上げて、見渡して。

 また、言われるがまま準備として、ライフル銃だって構える。

 ついでに、変わらずバックパックも背負い。

 「……?」

 とは言ってもと、見渡せどなかなか船影を捉えられないでいる。

 首を傾げていたら。

 「へんっ!まだまだだな!あそこさ、あそこ!ほれ!」

 「!……。」

 近くのヴァルは、指差して示す。

 それを辿り、じっと目を凝らすなら。

 「?!……ちっさ?!」

 つい、声を漏らす。

 辿った先に見えたのは、小島に隠れそうなほど小さな、船の形をした影。

 というか、距離的に大分遠い。 

 「……てか、遠い?!……まさかだが、ここから出撃なんて無茶、ないよな?」

 「あ?!何だその冗談?笑えねーぞ?」

 「……その様子なら、安心したよ。」

 「?……まあ、分かったならいいがよ。」

 距離的にあまりにも遠いだろう。まさかと思って聞くが、杞憂に終わった。

 ヴァルは俺の言葉をジョーク扱いしていたが。

 俺は察して、それならと安心する。

 ヴァルは、俺のこんな様子見て、やや戸惑いを露にしてはいるが。

 しかし、久し振りの戦闘に、また心躍る様子に戻る。 

 《んじゃぁ!分かった、つーことで、急速潜航!》

 「あ?!」

 「はっ?!」

 俺とヴァルが分かったならと、エイルは悟り、速度を上げる……べきなのだが。

 この状況において、とんでもないことを口にする。

 一応、座学で学習したりしていて、その単語に聞き覚えはあるが。

 「まさかっ?!このまま海の中に潜るのかぁ?!」

 《うひひひひっ!ビビった?チビった?ジョークだよ!体ほぐそうぜ?》

 「……ぬぅ。」

 ついぎょっとしてしまうものの、続くエイルの言葉に、軽く呻く。

 向こうは、ゲラゲラと笑っているようで、ジョークらしい。 

 「……おいおい。ちっとも面白くねーぞ。第一、潜水艦じゃねーし。まだ、こっから発艦とか言った方がましだぜ?」

 《うっし!んじゃあ、後で魔改造して、甲板にカタパルトを付けてやらぁ。んで、あれだあれ、出撃する時、自分の名前言って、行きまーすって出撃すんの。面白れぇな!流石エイル様たちのギャグ王!》

 「……んまぁ、別に敵に地獄を見せられるなら、あたしゃ別に何だっていいんだがな、まさか本気でするんじゃねーだろうな?ありえそうで笑える。」

 「!……だな。……。」

 ヴァルは、ツッコみをしたが。

 エイルはヴァルの言葉からアイデアを閃いたらしく。 

 参考にしたいという様子さえ見せている。 

 耳にして俺は、頷きつつも想像してみる。 

 例えば、どこかのロボット風に、自分の名前を叫んで、行きますと。

 「……。」

 シュールだし、何とも。

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