34 メンタルカウンター
この状況において、ヴァルを知ったる人が来ることは、大いに安心する。
「……!トール!その、ヴァルが……。」
「……みっ。」
「!……ありがとう。」
とりあえず、俺はこの状況を説明しようとするが。
だが、トールは必要ないと首を横に振り、制する。
いつも一緒にいたからか、阿吽の呼吸で分かるみたいだ。
汲み取ってくれて、俺はありがたく思い、そっと安堵に笑み、お礼を言った。
そうして、ヴァルの救いをトールに託して。
トールは、ヴァルに近付くなら。
まずは、そっと優しく、肩を叩いてやる。
「……トール、だろ?んだよ、どうせどっかから見ていたんだろ?んで、嘲笑いにでも来たんか?……あいつ、フェンリルとのやつ、どこから見ていた?」
その優しく叩くだけで、ヴァルは悟ってか、のたうち回る様を途端にやめて。
そっと声を掛けてくる。
疲れ切ったみたいな顔を上げて、トールを仰ぎ見る形となるや。
「……みっ。……〝きらり~んっ!〟。」
「?!」
「?!」
ヴァルの、そっとした問い掛けへの答えに、トールが示したのは。
なんと、俺がしたようなこと。
ヴァルの幼い頃の、記憶にて、ヴァルがやっていた、魔法少女のポーズ。
近くで見ていたからか、よく覚えているみたいで。
だが、トールは、それもキレよく、いいやそれだけじゃない。
とても上手にやってのける。
臆することもない。
驚きたくもなるが、何よりもトールが喋ったことに、余計に驚いてしまう。
……喋れたんだ、失礼ながら思う。
しかし、ヴァルの方も驚きやするが、方向が違う。
ヴァルが驚くのは……。
「ぁぁぁぁあああああああああああ!!!とぉぉぉぉるぅぅぅ!!てめぇ!あたしの傷に塩塗り込んでんのかぁぁぁ?!!!ぐぞぉぉぉぉ!!!」
……トールがそのようなポーズをとったからで。
自分の恥ずかしい感情がまたぶり返しヴァルは吠えるように。
またのたうち回ることに。
「……みっ。」
「!……もしかして、見本?」
「……みっ。」
「……。」
ヴァルのことは置いておいて、トールはこちらに向くなら。
さも見本を示したと頷きをしてくる。
察するなら、俺は聞くと、その通りだと頷きをまたした。
トールの頷き見て、思うことは、何だかずれているということで。
本来慰めに何か言いそうなことだと思うが。
あるいは、長い付き合いのために。
この程度はどうってことはないと思っているかのようだ。
「……まさかと思うけど……。」
このまま沈黙も、悪いと思うなら。
俺は聞くことにする。
「……ヴァルが俺にやったのも、見た?」
と。
ヴァルが、反撃に俺にしたようなポーズやら、セリフやら、聞いていたのかと。
「……みっ。(こくり)」
「!」
どうやら、それも目にしたようだ、小さく鳴いて、はっきりと頷く。
「……こほん。」
「!!」
また、それも披露するみたいで、トールは咳払いしてくる。
望んではいないのだが、……制止聞かなそう。
すっと、また俺を見据えて。今度は、両手を大きく広げて。
「!!」
また、その顔に、とびっきりの可愛らしい笑みを湛えるなら。
「……〝すっごーいっ!君はそんなことができる子なんだね!〟……みっ。」
「?!……なっ?!」
ヴァルが言ったことと同じ言葉を、繰り出す。
だが、全く雰囲気が異なる。
声のトーンも可愛らしく、無理して作っている感はない。
自然と、さも、俺の記憶の中にある、可愛らしいキャラクターそのもののように。
鈴のような声は、また心地もよく、胸の中に熱い物を呼び起こす。
……これは、何だ?
この、込み上げる温かい物は?
「!!」
ああそうだ、これが、感動か……。
胸を打たれ、俺は感激に、気を失いそうになる。
顔も、何だか朗らかな。
この感情は、そうだ!
これが、〝萌え〟という感情だ。
悟りに、このまま天国へ行きそうな感じさえしてしまった。
なお、その感情も……。
「な、何でだよぉ!!!くそぉぉぅ!!!とぉぉるぅぅぅ!!あたしだと、何が足らんんだよぉぉぉ!!!うぉぉぉぉぉ!!!」
「?!……。」
近くのヴァルの、咆哮とも呼べる悔しさの表れに、掻き消されそうに。
どうやら、自分が圧倒されて、余計に悔しいようだ。
嘆きの声が、辺りを包み込んだ。
それから小1時間そうした後、俺の方は落ち着きを取り戻したものの。
ヴァルの方はまだ復活していない。
昼時になったとして、トールが誘うにように合図してきて。
俺は従うものの、ヴァルは復活していないがために。
ついて行くことができないでいた。
やむなくトールと二人で担いで行くこととなり、再び俺たちの住処に戻る。
「おぉ~う!お帰り~!」
「!……ああ、ただいま。」
「……みっ。」
出迎えはしてくれる。
エイルであり、さっきまで退屈していたと、そんな様子であった。
返事をしたが。
俺たちを目にしたエイルは、退屈そうな顔から、疑問の顔に変わる。
「……なぁ、何でヴァカリキーが担がれてんだ?フェンリル、おめーがしごかれていたんじゃねーのか?」
「!……あ、そうなる……よな?ええと、よく分からないんだけど、これが理由になるならいいんだけど……。」
当然、聞いてきた。
エイルに対して返すことには、いや、俺しか返せないだろうから。
言いにくいながら、言葉紡ごうと口を動かした。
「……ぢぐじょぉぉぉ。あたしゃ勝手に心覗かれるわ、反撃しても効果ねーわ、挙句、トールの方が上手だわ……ぢぐじょぉぉぉ!」
「!……あ、ええと、そういうわけなんだ。」
「……。」
代わりに、ヴァル本人が言ってくれたよ。悔しそうに、唇を震わせながら。
俺は、そういうわけだと伝えることにして、耳にしたエイルは、呆れ果てて。
「……ヴァカリキー、おめー、何ミイラ取りがミイラになってんだ?何でおめーがメンタルボコボコにされてんだよ?あぁ?言ってみ?言ってみ?」
「!……。」
だが、それだけで察したわけじゃなく。
詳しく知りたくあるか、俺たちに歩み寄り。
ヴァルを見上げては、突きながら聞いてくる。
メンタルボコボコだろうに、追い打ちを掛けるような感じだ。
「……ぐぞぅ、エイルぅぅぅ。優しくねぇ~。……うぐぐ、フェンリルのメンタル、ボコボコ……じゃ、ねぇや、ちっと治すためになぁ、あたしの過去を見せたく、スフィアを繋げてみたらさぁ、逆に覗かれてぇ~……。」
「?!」
それを察して、悔しそうに唇震わせながら、紡ぐものの。
途中に、あからさまに俺をいじめるようなことを述べてもいた。
ついぎょっとなるものの、現状を見れば、ぎょっとする気持ちも失せる。
これだけボロボロなら、責めようにも責められない。
「あっそ。まあ、んなこったろうと思ったぜ?おめーみたいな、鋼鉄メンタルが、こうも容易くやられんのは、中覗かれた以外ねーからな。へん!慣れねーことすっからだろうが、ほんと。」
「うぅぅ……。」
ヴァルの言葉それだけで、エイルは察知して、余計に呆れ果てる。
何をしたのかも、その様子からは伺えている模様。
ヴァルは、呻きながらだが、それを返事とするようだ。
「……にやり。」
「!!」
……どうやら、察しただけではないようだ。
それが、何かアイデアを呼んだらしく。
一転して、エイルは不敵な笑みを浮かべた。
「どーせ、これ見られたからだろ?〝きらり~んっ!〟ってな!」
「!……。」
そのアイデア、口にするなら。
ヴァルの記憶の中で見た魔法少女の決めポーズもまた伴って。
見たことがあるか。
端から見ていたのだろう。一緒にいたのだから当然か。
「あぁああああああ?!!やめろぉぉぉぉ!!!ぐぞぉぉぉ!!どいつもこいつも、敵ばっかりぃぃぃ!!」
傷に塩を塗り込んだようで、ヴァルは顔を上げて発狂する。
「へんっ!慣れねーことした挙句、エイル様に面白れーネタを提供するからだ。たく、そういうのは、もちっと精神年齢高くなってからするこったな。トールみたいにね。」
「……みっ。」
それ見たことかと、エイルはして、呆れの鼻息を放ち。
また、内容にはトールのことも挙げる。
呼ばれたと、ヴァルを担いでいるトールは、小さく返事した。
「……呼んでねーって。ま、別にどうでもいいけど。」
エイルは見て、ツッコみを入れる。
まあ、として、そも問題でもないと。
「……んぅ~。」
また、トールを見た後に、軽く考えに唸って。
思い付いたか、その眉がピンと跳ねる。
「人換えっか。んときゃ、無駄口多いヴァルよか、ほとんど口のないトールにやらせるかね。」
「!」
「……みっ?!」
どうやら、俺の精神強化とやらに際し。
ヴァルではなく、トールをあてがうということを思い付いたらしい。
エイルの言葉に、トールは嬉しそうに鳴いた。
「……?」
あてがう人を変えることに、なぜだと思えてつい俺は首を傾げて。
「?!おいおい。おめーもなかなかだな、フェンリル。」
「!」
「痛めつけ方を、覚えてきた?エイル様は別に構わねーぞい?まあ、ヴァカリキーを見てたら、そうもなっかね?」
「?!……あ、いや、何だか、な。」
俺の疑問に気付くや、それよりも先に進んだことを言ってきて。
担当変更への疑問、そのままでもいいのではと言いたくもなったが。
それよりも進んだ先のことを言われて、逆に困惑してしまう。
「……何だか、さ、担当していたのを外されて、可哀想……とか?」
そのまま進められるのもまずく、止めてまで言うことは。
担当を外されたなら、ヴァルは可哀想になるのでは?と。
「……いや、おめー。このメンタルボロボロのヴァルに強いるのって、なかなか酷だと思うぜ?あ、別にいいけど?おめーが何かの能力に目覚めて、精神攻撃を多用できるようになったらなったらで、構わねーぜ?兵器として使えるなら。」
「?!……。」
エイルのコメントとしては、繰り返しになるが、そう、酷だとして。
このような状態のヴァルだと、何にもならんだろうと分かり。
そう言われるなら、俺も迂闊かと、反省を示した。
示したが、傍らエイルは続けているようで。
何でも、俺が精神攻撃でも覚えたかと、ニヤニヤしながら。
「……いや、そういうのはない。」
「分かってらぁ。ジョークだジョーク。おめーもちっとは学習しな?」
「……ぬぅ。」
もちろん、俺は否定に首を横に振る。
それに対してエイルは、ジョークだとして。
どうやら、俺がそういうのができるとは思われていないとして。
何とも言えず、軽く唸るばかりだ。
「ま、んなことより、メンタル改善のため、トールと組みな。」
「!」
話は戻して、エイルはトールを見て言うことは。
交代して、トールに俺を組ませると。
「……みっ!」
トールは承諾に頷いて、小さく鳴いた。
「ほいじゃ、ヴァカリキーをエイル様に渡しな。ぐずる赤子にミルクでも飲ませて、安心させてやっから。」
「……みっ!」
「?!わっ?!」
そうして、話がまとまったというところで。
エイルはヴァルを渡すように言ってくる。
トールは、自分の肩からヴァルの身体を離して、投げるように渡す。
釣られて、俺の身体まで持って行かれそうになったが、咄嗟に退けて。
ヴァルはそのまま、エイルにもたれるように倒れ込んでくる。
そのままだと、エイルは潰されかねないが、そこはエイルだ。
そのタイミングで、背中にある自分のバックパックから、沢山の腕を出して。
ヴァルの身体を支えた。
「ほいじゃ、ラウンド2、頑張ってなっ!」
「!……あ、ああ。」
「……みっ。」
追加でバックパックから腕を出したら、ハンカチ片手に振る。
手を振るみたくなもので、応じるように俺は手を振る。
トールもまた、応じて手を振って。
そうして見送られた後、トールと共に、またも精神修行よろしく。
戦いの基礎を学ぶこととなる。
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