31 打ち込んで来いっ!

 ヴァルに言われた通りになるが。

 しかし残念ながら、構えようにも俺はどう構えればいいか分からないでいる。 

 「ほぉ~れ。立ちな!あたしが直々に教えてやっからさ。」

 「!……。」 

 そんな状態でも、急かす様にヴァルが言ってきて。  

 致し方なく、立ち。レーセ手に、……ヴァルに向けるように。

 また、構え方が分からなく、ほとんどうろ覚え。

 それも、単にテレビとかで見ただけの剣道の構えをして。

 なお、やったことなんてほとんど分からない。

 打ち込みとやらだって、やり方は知らない、単にそう構えただけ。

 他方ヴァルは、2本のレーセを交差する様に構えていて。

 こちらとは、全く異なる構え方のよう。

 「……へぇ?何だその構え?」

 「!……あ、ええと、剣道……か?」

 「……ケンドー?んだそりゃ?」

 「?!……ええと。」 

 ヴァルは、俺の構え方を見て、聞いてくるが。

 どうやら、剣道は知らないよう。

 言われて、困ったなと思いつつ。

 「……俺の世界にあった、剣の使い方……かな?」

 かいつまんで言うなら、剣の使い方として。

 もちろん、全く詳しくないから、果たして正解かどうか、分からないでいるが。

 「何だ。そんなのあんのか。んで、それってつえーのか?」

 「?!……知らない。」

 「あそ。」

 「……。」 

 その、剣の使い方なることに、興味はあれど。

 中身というよりは、強いかどうかでしかなく。

 残念ながら、俺は全く分からないがために、上手く答えられないでいる。 

 ヴァルは、途端、興味もなくして。一蹴するように言い切っては。

 構えたまま、こちらを睨み、今にも打ち込みそうな感じとなる。 

 「んじゃぁ、メンタル強化訓練始めっか。手始めに、レーセ打ち込んできな。」

 「?!……。」

 その通りにか、始めるとして。

 ヴァルはだが、自分からは向かわず、俺に先手を取らせる。

 迷いあれど、言われるからにはするしかなく。

 やむなく俺は、見よう見まねで剣道のように。

 レーセを頭に掲げ、一歩踏み出す瞬間に振り下ろす。

 「おっせー……。」

 「?!ひぇ?!」

 速度は、言わずもがな速くない、それはいいとしても。

 ヴァルは、ほとんど踏み込むことなく、レーセをただ単に突き出しただけで。

 その切っ先も、俺の眼前にある。このまま踏み込めば、貫かれないかと思うほど。

 状況に、つい軽く悲鳴を上げてしまった。

 「あたしゃ、ケンドーってやつはからっきし知らねーが……。」

 「!」

 「それ、斧みたいに力任せに切るやり方だろ?レーセのこと、もちっと理解した方がいいぜ?んなことしなくても、斬れんだからさ。」

 「?!……あ、そっか。」

 突き出したまま、呆れた風にヴァルが言うことには、指摘で。 

 言われたことに、納得しそう。

 レーセのことをよく知らないがために、ついやってしまったが。

 確かに、振り下ろすような斬り方は、力任せ?いや、力加えて斬りつけるやり方。

 手馴れからのアドバイスにか、そうなると、遅くなると。

 「……メンタル鍛える前に、ちと理解しておいた方がいいか?実演は……ああ、無理だな、適当な物がねぇ。迂闊にぶっ壊すのも悪いなぁ。エイルの物ぶっ壊したら、1カ月ネチネチ言われっだろうし。言葉で理解できるなら、言っとくけどな?」

 「!」

 アドバイスついでに、レーセの特性を語りもする。

 ただ、実際にどれほどの切れ味があるかを確かめようにも、適当な物がない。

 言って理解できるか、よく分からないともして。

 「ま、言ってみっか。」

 物は試しと、ヴァルは言うつもり。

 「お前の頭で理解できっか、分かんねーけど、戦車の装甲、簡単に貫くぐらい、いや、下手すりゃバターみたいに切れるぐらいの切れ味はあっかな。」

 「!……。」

 言うなら、硬い物も簡単に切断できると。

 ヴァルに対して、失礼だなと思うが、それだけで俺は十分に想像できる。

 硬く、普通の歩兵用の兵装じゃ、傷一つ付かない戦車に対して。 

 バターのようになどと言わしめるのだから、威力は言わずもがな。

 言い方からしても、思いっきり振り下ろす必要もないと。

 「!おっ!その様子だと、分かっているようだな!いやはや、良かった!」

 「!……あ、まあ、何となくは。」 

 ヴァルは、俺が思案して、頷いている様子見て、感心を示して。

 その通りと、俺は軽く頷く。

 何となくではあるが、理解できると。 

 「なら、話がはえー。んじゃま、また構えな。今度はあたしが、やってやるから。お前は受け止めな!ああ、軽くやっから、本気で斬り付けやしねぇよ。」 

 「ああ。……あ?!」

 それなら話が速いとして、ヴァルが言うことは。

 ……このまま組手のような立ち合いを続けると。

 それも、今度はヴァルが斬り付けてくると。

 俺は、つい頷くが、翻って待ったを駆けそうになる。

 ぼんやりしていたよ、このまま話が進みそうに。

 改めて言いたくもなる。

 先ほどの話を聞いて、言いたくなったことは、まさかそのレーセ。

 練習用とか、優しい威力の物であるよな?

 「待った。」

 「あ?」

 「俺やヴァルが持っているのって、本物?あ、いや、実戦用?」

 「実戦用だぜ?当たり前だろ?練習用なんて、子どものチャンバラごっこじゃあるまいし。」

 「?!」

 とりあえず、待ったを掛けて。

 俺やヴァルが持っている物は、実戦に使う物かと聞くが。

 返事としてヴァルは、当然のことのように、実戦用だとして。

 しかも、練習用なんて、子どもの玩具と言わしめる。

 耳にして、別のことで青冷めた。

 下手をすると、……俺まで斬れるんじゃ?

 戦車をバターのように斬る代物だ、受け止めるのを間違えたら。

 俺の身体が斬れるなんてことないよな?

 「おいおい!ビビんじゃねーぞ。別に腕斬られても、あたしらダメージほとんどないんだからさ。それよか、そうやって、ビビるのを克服しねーと、兵器として使えないんじゃどうしようもない。」

 「?!」

 ヴァルはメンタル面を指摘してくる。 

 克服しないといけないと、でないと、兵器として使えない。

 ……という視点で、無理強いをしているかのよう。

 俺は、冷や汗が出てきた。 

 「言うよりも、やる方がいいか。んじゃあ、御託はここまでってな!構えな!」 

 「?!ひ、ひぇ?!」

 そんな、俺が悲鳴を上げようとしても、冷や汗をかこうがお構いなしに。

 ヴァルが言うなら、早速とヴァルはまたレーセを交差させて構えて。

 俺は、逃げたくもなるが、……何だか逃げても追い付かれそうな気もして。

 やむを得ず先ほどと同じように構えた。

 「ほぅれ。ああ、ほんのジャブみたいなもんだ、嫌に緊張すんじゃねーぞ?肩慣らし、肩慣らし!」

 「!……。」 

 始める前に、言ってきて。

 そっと、口元に笑みを浮かべるなら、レーセを回すように斬り付けてきた。

 俺は、小さく悲鳴を上げるものの。

 迫る光の刃を何とか自分の光の刃で受け止めた。

 「!!」

 もちろん、その一撃だけで終わるわけじゃない。

 剣閃は素早く、第二弾が来て。

 ああ、……わざとだろう、剣閃の速度は落とされていて俺でも受け止められよう。

 その二撃目も、何とか凌ぐ。

 「うっし!まあ、あたしの隙を見つけて、打ち込んできていいぜ?できるなら。そうして身体に覚え込ませるさ。」 

 「!マジか?!」

 とりあえず、受け止めたのを見ては、ヴァルが次に言うことは。

 俺は受け流しつつも、攻撃を与えろとのことで。

 技術的にも未熟な俺が、いきなりできるのかと思うものの。

 相手はさも、そういうのを待っているかのよう。

 「……ぬぅ。」

 致し方なく、俺は受け流しつつ、打ち込むしかない。 

 やがて、バチバチと、光の刃同士が触れ合う。

 向こうは余裕だろうが、こっちは必死に受け止めつつ。

 言われた通り、隙を伺う。

 「……!」 

 捉えたと一瞬見抜いて、刃を滑らせ掻い潜り、突きを出そうとした。 

 相手の表情は変わらぬまま、必死なんてこともなく。

 多分、そのままやられてももろともしないだろうが。 

 訓練だからで。

 なお、俺の方は、必死に。

 「……!」 

 その必死さが、幻覚を生むか。

 ヴァルとは違う、誰かの表情が思い浮かぶ。そう、誰でもない、普通の兵士の姿。

 幻覚だろうて。見たことなんてない。

 だけれども、こちらのように必死に顔を歪めて、抗おうとする様子さえ見せて。

 その時に、俺はなぜか、切っ先を突き出せないでいる。

 このまま突けば、殺してしまうと。

 そうなると、この人の日常は……?そう思ってか。 

 人を殺めたという、記憶が、そうして腕を鈍らせた。

 「……ん?」

 「……!」

 というタイミングで、光の刃が反転して迫る。

 その際、顔は相変わらずのヴァルの顔に戻っていたが。

 顔を歪めるものの、疑問にであり、不審に思いつつ、ヴァルは光の刃を凪いだ。

 俺は、突き飛ばされそうになるも、何とか受け止めて。 

 「?!わ、わぁ?!」

 格好がつくならよかったが、慣れない動きに、身体はバランスを崩す。

 《フォトンシールド。》

 「!」

 尻餅つきそうな時に、背中の盾が稼働して。

 光の膜が形成されて、事なきを得るが。

 あくまで衝撃がなくなっただけであり、結果俺は、尻餅をついた状態となる。

 瞬間、こちらの眼前にレーセが突き出されて。

 そう、敗北のよう。このまま、貫かれてしまうのではと。

 ただ、眼前で止まるだけで、本気で貫いては来ない。そこは、訓練だからか。 

 ヴァルは、怪訝そうに首を傾げて、俺を見つめてきた。 

 「……おいおい、フェンリル。打ち込んで来いよぉ~……。オスなんだろう?」

 「!……。」

 言葉紡ぐなら、呆れ果てている様子も出して。

 ただ、俺は返事ができないでいて。

 「もしかして、あたしが傷付くのかこえーのか?嫌なのか?……へぇ!あたしに気があるってことかい?ひひひ!」

 「!!……い、いや、そうじゃない……。ただ……。」

 ならと、ヴァルは類推……およそ、邪推の類だが、して言ってくれるが。

 邪推と言った通り、間違っている。

 間違っているが、言ってヴァルは、ニヤニヤとからかうように笑う。

 俺はだが、まずは違うとして。

 ……と思ったところで、強ち間違いじゃないとも思ってしまう。

 確かに、傷付けてしまうかもしれないと思えば、気分も悪くなる。

 「んなこと気にすんな。別にお前の剣があたしに当たろうが、あたしゃ傷付かねぇんだからさ。」

 「……。」

 自分に当ててしまうのが躊躇いならと、ヴァルが言うことは、気にするなと。

 ニヤリとした、妙な笑みは変わらず。そうであっても、俺は素直に頷けない。 

 「……あり?」  

 沈黙に、ヴァルまでも首を傾げる始末。 

 ……そうなると何も分からず、埒が明かないか。

 重苦しく俺は、口を動かして。

 「……ちょっとな、何だか、人を殺めてしまったと思うと、気分が悪くなってな。それで、その、ヴァルに攻撃しようとした時に、幻覚が見えて……。もし、さ。もし、このまま技術を付けたら、楽々殺してしまうとなると、何だか、自分が悪魔のように思えてきそうで、……さ。」

 「……へぇ。」

 と。

 先ほど感じたこと、紡いだ。

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