21 お酒のつまみは敵襲……。

 ぐうの音も出ず、言い返せないや。 

 「ひひひっ!自覚ねーのなら、分からせてやっか!マスター、もう一つショットグラスくれよ!」

 「?!」 

 そも、俺の自覚がないならと、言っても分からないなら。 

 丁度いい証明方法として示すか。

 ……前段階に、ショットグラスを要求して。

 何事と思っていたら。

 ヴァルはマスターを見て、ニヤリと笑う。

 マスターは、耳にして、呆れたように頷くなら。

 仕方なさそうに、ヴァルのと同じような。

 手の中にすっぽり収まるほど小さいグラスを取り出して、渡してきた。

 「!」

 何をするかが分かるなら、ぎょっとした。

 ヴァルは、手渡されたショットグラスを受け取るなら。

 早速と自分が注文した、強そうなお酒をなみなみと注ぎ入れる。

 どうやら、俺に飲ませて確かめさせると。

 「?!うぐっ?!」

 注がれた時からも、強すぎるアルコール臭があり、飲む前からむせそうに。

 「ほれ。」

 「!!」

 そうして、注ぎ終えたなら、手渡してきて。

 その強いお酒が迫るなら、目にまで刺激が来る。

 先ほど、感涙に潤んでいた目であったが。

 今度は強烈なアルコールによって、涙が出てくる。 

 こんな物、飲んだら身体の内側から破壊されそうな、ある意味の恐怖を感じた。

 「……ああ、ちょびっとでもキツイからな。」 

 「!……。」

 迷っていると思われてか、助け舟のようにヴァルは言い出して。

 「軽く口にするだけでいーぜ?それでも強烈だからな。残ったら、あたしが飲むからさねぇ。へへっ。」

 「……それは、フォローか?」

 「そのつもり。」

 「……。」

 続けては、全部飲ませるつもりはないと。

 フォローのつもりらしいのだが。

 何とも言えなくなる。 

 そんなヴァルをジト目で見て、俺はその強烈なお酒を手にして。 

 「……うぐぐっ?!」

 臭いまで来るなら、飲み込むのを躊躇いそうに。

 しかし、頭を振って、躊躇い振り払っては。

 「あ?!マジで?!」

 「んんぅ!!!」

 ショットグラスなみなみの、強いお酒を飲み干した。

 まさかのそれに、ヴァルはぎょっとしているが。 

 俺の方は、口にした中。

 口に強烈な刺激を感じて、涙目から、涙が頬を伝い。

 飲み込んでもなお、激しい刺激が食道に、胃に感じ。

 結果、身体は、さも毒物であるかのように、激しい拒絶さえ示して。

 そうであっても、全てを胃へと送るや。

 「?!」 

 やがて、とんでもない電撃が、頭の中に駆け巡って。

 身体全体に痺れが回って、力が抜けていく。

 そのまま、倒れそうになってしまうが。

 「?!」

 不意に身体は、何事もなかったかのようになる。

 感じていた拒絶も不快も、その頃には消え去っていて。

 そのことは、俺をキョトンとさせてしまった。

 「おぅ、すげー。あれ飲み干しやがった。」

 「……みっ?!」

 エイルは感嘆し、トールは驚き、やがて不安そうな表情となる。

 「……。」

 俺は言われてもなお、キョトンとしたまま。

 やがて、詳しそうなエイルを見て。

 「……どういうこと?気が飛んだかと思ったのに……。」

 聞いた。

 強烈すぎる。

 普通なら、気がどっかに吹っ飛んでしまいそうなものだというのに。

 こうも平気だということは。

 ああ、個人的には、これでこりごりだけどね。あんまり飲みたくないや。

 「ま、それがおめーが化け物であるという証拠の一つだ。アルコールごときじゃ、死ぬこともないってこった。」 

 「?!……そうか。」

 それが、自分が最早、人間などではないという証明であると言われて。

 聞いたなら、寂しいような、違和感があるような、複雑に顔が歪んでしまう。

 「な!ちっとは自覚した?……まあ、あれを一気に飲むなんておもしれーことしやがるからな。今度、〝ショットガン〟でもやっか?」

 「?!……ええと……。」 

 横からは、ヴァルが言ってきては、ニヤリと笑う。

 なお、微かには、冷や冷やしたとも付け加えているが。

 どちらかというと、元気である俺を見て、これから楽しみな様子でもある。

 だからか。

 ついでに、とんでもないことを言ってきて。 

 ショットガン。ああ、猟銃やら散弾銃のことじゃない。

 強いお酒を、ジンジャーエールで割って、ショットグラスに注いだら。

 口を手で押さえて、テーブルにショットグラスを当てて。

 発泡させて、一気に飲むやり方だ。

 あんまり好みじゃない飲み方であり、俺は。 

 「……ほどほどにしとくよ。」

 そう言って、ワンクッション置いておく。

 後にするがてら、口直しに自分の頼んだお酒を飲み込んだ。

 

 しばらく、談笑しながら、飲んでいるなら。

 気付くことは。

 確かにエイルの言う通り、いわゆる酩酊するなどということはなく。

 ほとんどお酒が入っていない感じをで。

 「……。」

 自らの不思議に、つい首を傾げてしまう。 

 「お~ぅ!そりゃ何だ?可愛さアピールってか?よせよせ!むっさい男が首を傾けても可愛らしくねーぜ?うへへへへっ!」

 「?!……そ、そういうつもりは……。……て、ヴァル……。」

 なお、見ていてからかわれる。

 ヴァルが言ってくるのだが、俺はそういうつもりはないとしてヴァルを見たが。

 まるでお酒が入っているかのようなテンションである。 

 だが、顔は赤くなく。まして、酩酊による、言葉の乱れも。

 麻酔作用による、眠そうな瞳でもない。

 それでいてそれは……。

 「……やけにテンション高いけど、酔ってる?それとも、わざと?」

 「……それ聞く?こういう時は、ふりでもいいから、こういうことにしとけよ。」

 「……そ、そう。」

 本当に酔っているのか。

 あるいは、わざとか。聞くと、野暮ったいと言わんばかりに、真顔で言われる。

 ……そういうことにしておこう、そう思う。

 「……フェンリル。そういうの野暮だぜ?そいつに聞くの。そいつは、元からそーいう奴だから。」 

 「……そっか。」

 付け加えは、エイルが横から入れて。

 そういう奴だから、と。

 改めて、頷いて応じる。

 「おうさ!このヴァルキリー様はこうよ!うへへへへっ!!」

 「……絡んできた。」 

 それで済めばいいが、本当に酔っているんじゃないかと思うほど。

 ヴァルはテンション高くあり、これ幸いと絡んでくる始末。

 若干、頭が痛くなりそうだったが。

 「……その様子だと、ここに敵が攻めてきても、大丈夫そうだね。それこそ、大部隊が攻めてきても。」

 言ってやる。

 モンスターであるからと、自ら豪語していたのだから。

 ……合わせているようで、他の人からだと悪く思うが。

 「おうよ!あたしにかかりゃ、戦車だろうが、戦艦だろうが、空母だろうが、まして、空母打撃群だろうが、ぜ~んぶディナーにしてやっぜ!!へへへ!!!」

 「……。」

 その話を言ってしまったことを後悔しそうになる。

 ヴァルは、余計に意気揚々としてしまい。

 俺が言った通りのことを、いいや、俺が想像する以上のことをやりかねない、と。

 頭が痛くなった。

 「……あ~あ。責任取れよ、フェンリル。」

 「……ぬぅ。」

 横から、フォローはなく、むしろ責めるような言葉を、エイルから掛けられた。

 面倒臭そうな声でもあって、どうとも言えなくなり、苦い顔をしてしまう。

 「ひひひっ!フェンリルめ、やっぱおもしれーこと言ってくれらぁ!」

 他方。 

 ヴァルは意気揚々である。

 またも、強い酒をゴクリと喉を鳴らしながら飲み。

 その刺激も相まって、顔は嬉しそうに笑みを浮かべてもいた。

 その最中。

 「?!」

 突然サイレンが、それも店の外から響き渡ってきたのだ。 

 ぎょっとして。

 「ぶふぅおあぁ?!」

 「?!」

 ヴァルは、目を丸くして、折角飲んだお酒を、吹き出す。

 「?!な、何だ?!」

 俺は、驚いたまま、何事と周りを見渡す。

 「!」

 「敵襲だ。」

 マスターは知っていて、静かに言ってくる。

 見れば、マスターの顔は、店に入って来た時の、辛気臭い顔ではなく。

 敵襲とあらばと冷静な面持ちであり、つまりは臨戦態勢といった具合。

 「!!」

 おまけとして、マスターはバーカウンターに一旦身を屈めたなら。

 身体を上げるや、その腕には巨大な重機関銃があった。 

 今から、戦争でも始めようとしていた具合。

 「やれやれ。酒盛り好きが集まる時間だというのに。」

 マスターは呆れながら、続けて。

 「……。」

 見るに、つまりある意味歴戦の戦士のような雰囲気である。

 「……あ~あ!!フェンリル!責任取れよ!!」

 「?!えぇ?!俺が言ったからか?」

 横にいたエイルが、今度は強く言ってくるなら。

 何事とエイルを見れば、責めるような眼差しを向けていて。

 俺は、耐え切れず、弁護に俺のせいかともつい言ってしまった。

 「……本気にすんなよ。ジョークだジョーク。」

 「……そ、そうか。」

 なお、本気にするなとエイルは続けて。

 それならと、俺は頷きやする。 

 「げほっ!!!げほっ!!……ぬぐぐぐぐ……。」

 「!」 

 横のヴァルは、むせていて。

 どうやら、肉体がいかにモンスターであろうとも。

 酒が気管に入ると、こうもむせ返るものらしい。

 「……んのやろ~!!!」

 「!」

 一しきりむせこんだなら、顔を上げ、思いっきりショットグラスを机に叩きつけ。

 口を拭っては、ぎろりと外を睨み付けるように見据える。

 怒っているようだ。口調も荒々しくなり。

 「トォォル!!!エイル!!!フェンリル!!!やっぞ!!仕事だぁ!!人が楽しく飲んでいる時にきたこと、思い知らせてやっぜぇぇ!!!」

 「……あ~あ。責任取れよ、共和連邦。」

 「……みっ!!」

 「!」

 挙句、俺やエイル、トールに言ってくる。

 その口調、やはり荒々しくあり。

 敵が目の前に現れたなら、それこそ食い殺しかねない勢いだ。

 トールは追従するようで、だが、静かに鳴くだけで。

 エイルは、俺に言ったセリフと同じことを、呆れながら敵側に言う。

 そうして、ヴァル含む3人は席を立ち。各々装備を手に携えて。

 俺は、俺も遅れまいとして席を立つが。

 「!……。」

 しかし、持っている物がバックパック、それも中にある盾しかない。

 手渡されたライフル銃は、ない。 

 「……あ、おめーさては置いてきたか?締まんねーなこういう時。」

 「!!……ああ、そうだ。……悪い。もしかして、持っていないとダメだった?」

 こんな時に、全くという空気をエイルは出しながら、呆れに言う。

 悪く思い、謝りながら。

 「……いんにゃ。店に入るのに銃なんぞ持っていたら、それこそ不審人物だし。あと、これでも基地内だからな、ふつー、持ち歩かんわな、歩哨以外。」

 「……それは、擁護でいいのか?」

 「おめー、信頼してねーな、エイル様の話。傷付くぞ。」

 「……ごめんよ。」 

 だが、エイルは、擁護してくれて。

 なお、軽々しいこともあってか、素直に受け入れられないでいる。 

 「まあ、別にいいや。〝こんにちは赤ちゃん〟状態のフェンリルじゃ、無理もねーとして、そこはこのエイル様に任せな!」

 「!」

 それはいいとして、エイルが続けることには、自分に任せておけと。

 言った後、エイルがしたことは、自らの背中に背負っているバックパックであり。

 背中から身体の前に回して。

 そのバックパックの口を開けて、手を突っ込んだらまさぐりだす。

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