20 何を飲む?

 「あれぇ?お子様は大人の飲み物飲んじゃいけねーんだぞぉ?」

 注文が通っているにもかかわらず、ヴァルはなおもからかいに言い続けて。

 「んだとぉ!!ってか、そもそも、おめーとエイル様は、年齢もほとんど変わんねえだろうが!!!」

 「!!……。」

 またも、反発をエイルはして。

 言うことには、そもそもヴァルと年齢はそう変わらないと。

 意外さにまたも、驚いてはいるが。 

 疑問も。

 一体全体、いくつなのだろうか?

 聞こうとしたものの。

 「ああと、そこにいる見掛けない顔の奴、何にする?」

 「!」

 「あ!忘れてた!」

 「おうっと、忘れちまいそうになったぜい!」

 マスターは、またまた喧嘩の様子になる前にとして。

 スルーのためにも俺をやり玉に挙げてきた。

 エイルとヴァルは、忘れていたと思い出し、注目を。

 ……いきなり言われるものだからつい臆してしまうが。

 結果として、喧嘩になりそうなのを防げたのでよかったか。

 「おめー何にする?ミルク?」

 「あ!母乳がいいか?……でもねーぜ?」 

 「?!えぇ……。」

 二人俺に注目するなら、口々に言ってくるものの。

 ……だが、それこそ子どもが飲むような物であり。

 挙句の果てには、乳飲み子が飲むような物まで言われる始末。 

 どう言おう。困惑してしまう。

 「おいおい!んな物置いているわけねーだろうが。あと、どう見たって、普通のサラリーマンみたいな顔してんぞ、そいつ。普通に酒飲めるだろうが。」

 マスターも注目していて、言ってくれるなら。

 一応俺が大人であることを言ってはくれているらしい。 

 それにはほっとしたが。

 「いや、案外そんなのが好きな変態かもしれねーぜ?あたしゃ、こいつのこと知らねぇからさ、もしかしたら、ってな?」

 「?!えぇ?!」

 ……が、フォローなんてものじゃなく、言い被せるようにヴァルが言うなら。

 とても、失礼なことだと思いつつも。 

 もう何度目だか数えるのも億劫で、驚愕を示す。

 「……って、そんなわけないだろ!あんまりだ。普通だ、普通。」

 その驚愕も拭い捨てるように、俺は頭を振って。

 否定を示しては、マスターの言葉にあやかる形になるが、普通であると。 

 「なんだ、そっか。」

 「!……ぬぅ。」

 それについては、ヴァルは、割とあっさりとした返答をして。

 そのあっさりさに、声を引っ込めるように呻いた。

 あんまり、喧嘩しても面白くはなく。

 相手がそう理解したというなら、引き下がるか。

 「ま、んなことより、何飲むってさ?おめーが飲めそうなのある?」

 「!」 

 ヴァルと入れ違いに、エイルが言ってきて。

 注文の催促であり、ヴァルとのことは、それほどにしておけ、とも捉えられる。

 それならと、頷いて。

 壁に置かれている様々なお酒を目にして、何にしようかと思案した。

 「……!」 

 目に付いたのは、琥珀色の液体のある酒瓶たちであり。

 銘柄は、だが、よく分からないでいるが。

 懐かしくも思え。

 また、よくよく見て、かつて飲んだことのあるような銘柄と似た物を見付けた。

 黄色のラベルで、田舎の原風景が描かれてある、お酒。

 ウィスキーの類であったか。

 「……ええと、じゃあ、あのお酒で。」 

 俺は指して。

 「へぇ。あんた、意外な物を飲むね。」

 「!……ああ、まあ、飲み慣れているから……。」

 マスターは、意外そうな顔をして、注文を繰り返してきて。

 俺は、飲み慣れたものだからと頷き返す。 

 「……で、ストレート?ロック?」

 「……炭酸割り。」

 「分かった。それじゃ、早速作るよ。」  

 その次には、ウィスキーの割方を聞かれて。

 俺は、気に入った飲み方を言った。 

 そのオーダーは通じていて、早速とマスターは、酒瓶手に、用意を始めた。

 「へぇ!意外と渋いな、おい。」

 「!……まあ、昔から飲んでいたから。」

 こちらからも、意外そうな顔が飛んできて。 

 ヴァルが言ってくることには、渋いと。

 俺は、慣れ親しんでいるからと答えはして。

 「……ま、てっきりあたしゃ、本当にミルクでも頼むかと思っていたけどね。しかし、んな渋い物頼むってんで、ちっとは見直したぜ?」

 「!……そ、そう?」

 見直されもする。

 それも意外であり、俺は素直に頷けないでいて、やや中途半端だ。

 「……!」

 そうしている中、炭酸水の容器を空ける音が響き。

 炭酸の弾ける音が続くなら、いよいよとばかりに伝えてきた。

 「はいよ!」

 マスターは、作り終えて、それも皆の分も。 

 それぞれにグラスを渡していく。

 「おっ!いいね。」

 ヴァルには、手の中にすっぽり収まるほどの大きさのグラスに。

 お代わり用にか、お酒の入った、やかんか急須みたいな物も添えられている。

 「……!」

 強いアルコール臭がすることから、注文通り、強そうなお酒だ。

 直接覗いていないにもかかわらず、むせそうだ。

 他方。

 俺たちは大きく、長いグラスが渡されていて。

 それぞれに、それぞれな飲み物が入れられている。

 トールには、ベースが何か分からないが、ミルクの白際立つ飲み物。

 エイルは、オレンジジュースの色合い。

 俺の方は、薄い琥珀色であって。

 「……!」

 炭酸立つに伴い、香りもまた立つ。その香りには、トウモロコシの甘味を感じて。

 懐かしさに、つい頬が緩んだ。

 それは、かつて飲んだことのある、バーボンのハイボール、思い出させてくれる!

 家族で、かつての仲間で、飲んだことのある物であったと。 

 挙句それには、つい涙腺まで緩みそうになった。

 「……へいよぉ。何辛気臭くなってんだ?」

 「!」 

 と、感傷に浸っていたら、ヴァルが声を掛けてきて。

 「涙で酒を増そうなんて、らしい考えじゃねーぜ?そういうのは、ハッピーになってやらねーとな!へへへ!」

 「!……。」

 続けるなら、しんみりしたのなんて、似合わないと。

 ニヤニヤとする、自信満々の笑みをも添えて。

 「……そんなの、おめーぐらいだ!」 

 「……みっ!」

 「一理あんな。ヴァルキリー、お前だけだ。どんな状況であっても、笑いながら酒を飲みそうなのは。」

 見ていたマスターや。

 エイル、トールはヴァルに色々と突っ込むように言ってはきた。

 「誉め言葉だぜ!酒なんてやつぁ、ハッピーになって飲まねーとな!お酒の神様に失礼なこった!!!」

 「?!……。」

 そのような突っ込みに対して、ヴァルは笑みを絶やさず。

 むしろ、褒め言葉扱いされていて。挙句、屁理屈まで述べる始末。

 そうなると、どう言えばいいのやら、困惑して。

 「……面倒くせー。そういうことにしとくよ。」

 「にひひひっ!」

 傍ら。

 エイルは、その言い様に、匙を投げてしまう。

 突っ込むのもやめて、お酒を口にしようとして。

 ヴァルは、何も言われなくなったことをいいことに、屈託なく笑っている。 

 「……っと!!笑っていたら忘れちまいそうになる!」

 「!」

 としていたら。

 笑っていたら、忘れそうになりそうだと、思い出したように言ってきた。

 何事と、思いヴァルを見ると。

 ヴァルは自分のショットグラスにお酒を注ぎ入れて。

 「乾杯だ、フェンリル!」

 「!……?」

 そのグラスを突き出してきては、言ってきた。

 乾杯だとして。……だが、察し悪く、何のと思い、首を傾げる。

 「……おいおい!察し悪いな!お前のだよ、あたしらの仲間になったってことで。」

 「!」

 その鈍感っぷりに、呆れて言ってくるなら。

 いわゆる俺を歓迎するためでありと。そこで、ようやく理解した。

 「あ、それもそっか。こんなの、ここ数年やったことないし。久々ってか。」

 「!……みっ!みっ!」

 「!」

 他のメンバーも追従するらしく。 

 エイルも思い出して言って、グラスを口から外し。

 トールは、久し振りということに、顔を上げるなら。

 瞳を輝かせてこちらを見てきた。

 「ほれ、グラス揚げなよ!」

 「!……ああ。」 

 だからで、俺に促してくる。

 言われるまま、俺は手にしていたグラスを持ち、掲げた。 

 「かんぱ~い!」

 ヴァルは言って、グラスを当てるように近付けて。

 「かんぱ~い!」

 「……んるっ!」

 エイルもトールも、同じように言って、グラスを当てにきた。

 「……か、乾杯……。」

 最後は、俺で。

 緊張しながらも、グラスを突き出して、当てた。

 向こうも久し振りなら、俺もまた、久し振りで。

 複雑な感じがして、どう言えばいいのやらと、口が緊張してしまった。

 グラス同士の当たる、甲高い音色が酒場に響き。

 皮切りに、ヴァルやエイル、トールも笑みを浮かべる。

 最後、俺は緊張しながらも、微かに笑みを浮かべた。

 そうして、甲高い音の木霊、余韻残る中、それぞれの飲み物を口にした。

 「……!」

 口にした酒に、やはり懐かしさを感じる。

 ウィスキー独特のスモーキーさは少なく。

 代わりに、トウモロコシの甘味をダイレクトに伝えてくる。

 思った通り、俺の好きなお酒であったと。

 懐かしさが、思い出と共に湧くなら、瞳が潤みそうになってしまった。

 「くっっっはぁぁぁぁ!!!脳にきっくぅぅぅ!!」

 ヴァルは、少ないがために、グラスのお酒を一気に飲み干す。

 飲み干して、爽快を吐息で発して。

 表情は、さも気持ちよさそうでもあった。

 「……。」

 見て、どう感じても、強そうなお酒であると思うなら、苦笑というか。

 複雑さにどう言おうかと迷ってもしまう。

 「……ああ、ヴァカリキーのそれ、気にすんなよ。」

 「!」

 その表情をしていたら、エイルに見られていて。

 エイルは、同じく見ていてか、呆れた様子で、気にするなと言ってきた。

 「ありゃ、重症よ。仕方ねーけど。」  

 「?……はぁ。」

 なぜだかという疑問浮かぶ前に。

 エイルが言ってくれるようであり。 

 「多分、おめー自覚ねーと思うけど。」

 「……?ああ。」 

 言い始めに、俺の自覚のなさを指摘していて。

 「エイル様たちは、アルコールを摂取しても、通常の奴らの100倍強の速度で分解してしまえるのさ。」

 「……。つまり?」

 「エタノール、ガロンレベルでも行けるってこった。」 

 「……。」

 では、その秘訣と呼べるのはとして、エイルが言うことには。

 アルコールを急速に分解する能力があって。 

 簡単に言うなら、普通に飲む分で、ちっとやそっとじゃ、酔うこともないと。

 耳にして、頷き、反芻しては。

 「……まるでモンスターだ。」

 相応しそうな言葉をチョイスして口にする。

 「「……。」」 

 「?!」

 すると、静まり返ってしまう。

 何でと、思うや、慌ててしまった。

 「……おめー、やっぱ自覚ねーのな。エイル様たち、何だっけ?」

 「?……ああ、モンスター、生物兵器……。……あ。」 

 「……へへへっ!すっとぼけてやがる!面白れぇ!!」

 「……ぬぅ。」

 エイルは、白々しい目をしながらコメントするなら、何であるかと。

 エイルたちを思い、最初の説明を思い出しつつ。

 羅列していくなら、モンスターだのなんだのと。 

 言っていて、おかしくなってくる。

 そう、彼女らそう言えば、モンスターだと言っていた。 

 気付いてしまったと思っていたなら、ヴァルが思いっきり笑みを浮かべて。

 軽く小馬鹿にするようにしてきた。

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