19 酒場にて
なお、ヴァルはこんな時に飲むのは自分たちぐらいだと。
真面目に仕事をしていると言い、そこには、諦めも感じられた。
それは、どう足掻いても、そいつらには無理だろうてと、意見するかのよう。
なお、その心情をはっきり捉えるには、俺にはまだ難しいと。
それよりも、今は飲みに行こうぜと、親指で入り口を指す。
頷くしかなく、俺は素直に従う。
「おーい!やってっかー?ヴァルキリー様のお帰りだぜ?スフィアも沢山積んで帰ってきたぜぇ?」
「?!……何だその挨拶……。」
戸を開けたなら、早速挨拶だが。
ヴァルの変な挨拶に、ついぎょっとしてしまう。
なお、ヴァルはスルーしたために、これ以上追及しまいとして。
致し方なく、中の様子を伺うことにする。
やはり酒場らしい建物で、入り口すぐの先には、バーテーブル。
その向こうには、人が通れる場所を挟んで。
壁に満遍なく酒瓶が、飾られるように置かれている。
匂いも、きついお酒や、甘いお酒、混じったような独特な香りとなっている。
なお、壁自体は、荒々しい木材剥き出しではなく。
整えられたシンプルな壁紙で覆われている。
西部劇なんかのとは、そこは異なるか。
「今準備中……って、ヴァルキリーか。いらっしゃい。」
「!」
そうしている内に、応答があって。
酒場、そうだね、カウンターの向こうから、軍服姿の男の人がぬっと姿を現して。
不機嫌そうな声を最初上げてはいたが。
ヴァルだと気付くや、寂しそうにそっと笑みを浮かべてきた。
「……?」
なぜ寂しそうか、分からずにいて、つい首を傾げる。
「おいおい!しけてんなぁ!ちっとは喜べよ!」
「……はぁ。この状況見て喜べるなら、俺だって喜びたいさ。お前みたいに、世界が束になって掛かっても敵わない、そんな化け物じゃねーんだよ。俺たちゃ、負けちまったんだからな。」
「!」
ヴァルは、そんな寂れた表情だと面白くないとして言うが。
マスター?は、そも、この状況だと素直に喜べるわけがないとして。
それが理由か。
俺たちがいる帝国が、負けてしまったのだからと。
だからで、そんな寂しい笑みだったのか。
「へん。仰る通り、あたしがいりゃ、世界滅ぼしてやっぜ。ああ、エイルに言って、口から火でも吹かせられるようにしてもらおうかな?〝がおー〟ってな!へへへ!!」
「!」
ヴァルはしかし、やめることはなく。ジョークか、軽口叩き、屈託なく笑う。
時に、口を大きく開けて、さも吠えるような形もしては。
「をい待て!おめーの腹に火炎放射器でも付けろってのか?」
一方で、やり玉に挙がったとして、エイルが反応を返してくるなら。
どことなく面倒臭そうな顔をしながら言い返してきた。
「んぉ?ダメ?」
「つまらん。おめーに付けるなら、原子崩壊式爆弾がいいな。そしたら、質量崩壊による凄まじいエネルギーで、消し飛ばすことができるだろうよ、おめーごとな。」
「……えぇ?!」
面倒臭そうなのは、厄介だからかと傍ら思ってもいたが、どうも違う。
ヴァルが聞いたなら、その返答としてエイルがしたのは。
なかなかに物騒なことで。
言い回しが少し特殊なため、はっきりと掴めないでいたが。
よく考えたら、それはいわゆる〝核兵器〟じゃないか?
それにしても、一応同僚だろうに、えげつない選択をする。
火を吹くなんて、つまらないとして。
「お?!それ、つえーのか?」
「……。」
一方物騒なこと言われたであろうヴァルは、動じることはなく。
聞くなら、それがいかに強力なのかの問いで。怒るよりも、興味津々の様子。
俺の方は悲劇含めて、いかなるものか知っているが、ヴァルは……どうなんだ?
「さぁな。エイル様も知らん。化石レベルの兵器だからな。」
「あっそ。……なぁ、それじゃお前もつまらねーじゃんか。」
「……えぇ?!」
エイルはヴァルに言うが。
言い捨てるようなことに、核兵器でさえ、化石とは。
むしろそれが驚きに思えて、本日何度目やら、目を丸くする。
どれだけの文明レベルなのだろうか、後々よく勉強してみたいものだ。
なお、ヴァルはエイルに対してのコメントに。
同じようなものだと突っ込んでいた。
今度はヴァルがつまらなさそうにして。
「んな古代兵器使うぐらいなら、あたしが暴れて回った方が済むじゃんかよ。」
「まあ、歩くジェノサイドウェポンだからなおめーは。」
「最高の褒め言葉だぜ!」
「……。」
つまらなさそうだから、別のことを考えていて。
そも、古代兵器レベルの物を自分に搭載するぐらいなら。
単に暴れた方がいいやと。
エイルは、歩く大量破壊兵器と揶揄するが。
ヴァルにとっては侮蔑ではなく、褒め言葉らしく意気揚々となる。
俺は、……話について行けなくなりそうだ。
「あ、そうだ!希望持たせるに最高の兵器についてだが、……赤ちゃんフェンリル君は何かある?」
「?!えぇ?!いきなり?!」
……などとしていたら。
話がいきなり振られる。ほとんどぼんやりしていたがために、反応が遅れて。
何事と目を丸くしてしまった。
「おいおい!今更話聞いてませんでした~、なんて言うんじゃねーぞ?お前が聞いていることぐらい、分かんだからよぉ。聞いてんなら、何か言わねーと寂しいじゃん?そこにいる、無口のトールじゃあるめーし。」
「!……ぬぅ。」
呆れられるなら、そもそも聞いていただろうとも。反論できず、呻くしかない。
ついでに、トールを上げてくるが、当のトールは、どこ吹く風。
同じように聞いてはいるが。
そも、無口なため、これといったアイデアを述べるとも思えない。
「……。」
話を振られたならと、考え込んでしまう。腕組んで、天井まで見て。
「……じゃあいっそ、ヴァルキリーにテレポート機能でも付ける?」
だからといって、素晴らしいアイデアが思い浮かぶわけでもない。
なら、適当な感じに俺が思い付いたことを言うなら。
いっそのこと、テレポートでも付ければと。
「おっほ!いいね~!!」
「おっほ!!そいつぁ、いいアイデアだ!」
「?!えぇ~……。」
耳にしていたヴァルとエイルは、面白そうにして。
俺の顔を覗き込んでは、称賛してくる。
「あれだな~。一瞬で大陸を移動して、展開できるって、マジでこえ~な!エイル、研究してくれる?」
「ああ、いいな、それ!!へへへ!生れ落ちたばかりの小鹿なフェンリルの割には、なかなかいいこと思い付くじゃねーか。これだったら、研究予算も出てくるだろうし、何よりエイル様たちの欠点も補えるわな!」
「!!……盛り上がってる。」
称賛してから、エイルとヴァルは互いに向き合い、言い合っているなら。
盛り上がりの様相であり。
ここに来るまで、喧嘩腰だったというのに、仲良く盛り上がるとは。
「おぉ!それだったら、皆も希望が持てるな!上の連中も、泣いて笑って踊りまくりそうだぜ!」
「へへへ!!マスター、だろぅ?おう!ちっとは辛気臭い顔から、ましな顔になったんじゃねーか!」
「!」
おまけに、マスターも聞き入っていて。
先ほどまで、不幸な顔であった人だというのに。
俺の一言によって、盛り上がるヴァルとエイルに当てられて。
その顔色に幸が宿ってもいる。
希望を持ったかのよう。だからか、声のトーンも上がっていて。
ヴァルは気付いて、合わせて屈託なく笑う。
「よぅし!ヴァルキリーたち。今日は特別に、今から何か作ってやるよ!何が飲みたいか?」
「おっ!こいつぁ、いいなぁ!」
その意気揚々に、マスターは気が大きくなって。
まるで大盤振る舞いに、料理か何か用意してくれるらしい。
ヴァルは聞いて、だが、悪そうな笑みを浮かべて。
「奢ってくれるってか?!」
付け加えてきた。
「……いや、それは別料金。つーか、どんだけお前はツケてんのか、分かってんのか、本当に。」
「え~……。ぶーぶー!!」
「……。」
この場合、奢ってくれるものだろうとも思っていたようだが。
マスターの回答は違うようで。急に真顔になるなら。
それはそれ、これはこれ、らしい。
ヴァルは一転、ブーイング飛ばし。
俺は、言葉を失う。
というか、ヴァルはマスターから言われていることに。
ツケ払いを散々してきたようであり。なら、奢るのはどうも……と。
「だがよぉ~?たんまりスフィアを持って帰ってきたんだぜ?後であたしらの船に来いよってんだ。ちっとは潤うだろう?」
なお、払う手段はあるとして。
大量のスフィアがあるからと。
「……それ以前に、物がねーぞ、食い物とか。今現在、そちらが問題であるのだが、そこはどうなんだよ。」
だからとしても、マスターはあんまりいい顔にはなっていない。
不足感があって、ヴァルから言われたことに、素直に頷けないでいるようだ。
「ちぇ~。わーぁったよ!あとで、共和の輸送船団をボコボコにして、かっぱらってきてやっからさ!」
しっくりこないために、ヴァルは致し方なくと言ってやる。
「!……まあ、それなら、な。期待はしておくぞ!ほら、席に着きな!」
「へへへ!そうこなくっちゃ!」
「!」
ヴァルが言ったならと、またマスターは希望を持ち。
ならばとして、席に案内して。
ヴァルは気をよくする。
案内されたのは、バーカウンターすぐ。そこに、俺たちは腰掛ける。
「……んで、何にする?」
「!……ええと、なら……。」
席に着くなら、マスターは注文を取ろうとしてくる。
言われるなら、どうしようかとも。
「……。」
思案してしまう。
お酒の注文だろうから、で。何を頼もうかとも。ああ、飲めはする。
強い方だとも思う。
……が、今日目覚めたばかりで、はたして大丈夫かどうか、疑問にも思う。
「んじゃぁ、あたしゃ一番強い酒、ショットで!」
「!」
迷っている内に、ヴァルは進めていて。そちらも強いらしく。
そのためにか、強い酒を強く飲むような飲み方をしてきた。
見かけによらないそれに、つい驚きを露にしてしまうが。
「……。」
考えてみれば、化け物であるという言葉に集約できそうで。
それで、酒豪とか?
「……みっ!」
「……あいよ!トールはミルク割りの奴な。」
「……んるっ!」
「……分かるんだ……。」
傍ら、トールもまた注文しているようであり。
しかし、いつもみたく、ほとんど無口なために、通じないと思っていたのだが。
マスターには通じているらしい。
聞き届けられて、嬉しくトールは喉をゴロゴロ鳴らす。
それにはちょっと驚きだ。
「んじゃ、エイル様は~……。」
「お子様にはオレンジジュースな!へへへっ!」
「?!えぇ~……。」
……なお、エイルについてもまた、何か注文するようだが。
横槍をヴァルが入れて。
それも、子どもが飲むような物をと。言って、からかうように笑う。
「んだとぉ~!!!ヴァカリキー!!!んなこと言ってっと、おめーに燃料用のを飲ませてやっぞおらぁ!!!」
言われてエイルは、当然怒り。
お酒なだけに、火が点いて燃えるように。
買い言葉には、挙句ヴァルの口に燃料用のアルコールを飲ますとさえ言う。
「おほっ!それって、刺激的だな、おい!!」
「……。」
効果は微妙な所。
ヴァルは、面白そうに言っていて、……このままなら、本気で飲みかねないや。
俺もまた、聞いていて、どうしようかと迷いに微妙な顔となった。
「はいはい。エイルちゃんにはオレンジジュースで割ったお酒ね。」
「!ああそうだよ!それで。」
「!……。」
マスターは、喧嘩になりそうなのを流すように、注文を取っていて。
それも、お酒をオレンジジュースで割った物らしい。エイルはそれだと頷く。
俺は意外な顔をしてしまう。
……失礼なことだが、お酒を飲めるようには見えないと、思ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます