18 けんかの後に、お酒を

 「わ~……わ~……。すっごーい。エイルはそんなことができる子なんだね~。」

 「?!……。」

 同じように聞いていたがためへの、感想なのだが。

 どうもその口調には覇気はなく、楽しさもない。

 からして、……貶していると見受けられる。

 俺は、感じて、沈黙するしかない。

 「……さぁさぁさぁ!!もっと褒めるがよいぞ!!」 

 「……。」

 エイルは耳にして、若干その表情に曇りを生じさせてはいるが。

 この時は我慢して。 

 繰り返し、求めてきた。 

 おそらく、こちらも貶されていると感じてはいるが。

 今のところはスルーするつもりのようだ。

 だからで、何だか哀れに思えてならない。 

 「……すっごーい。君はポンコツどチビで、戦闘力皆無な子なんだね~。」

 「?!……。」 

 要望に応えてはいるが。

 途中からヴァルはこれ幸いと悪口を思いっきり挟み込んで。

 同じように称賛……風に言ってきた。

 あからさまな悪口に、俺はもう何も言えない。 

 なお今度はトールも手を叩いてくれるため。

 称賛自体はより増している気はするが。

 「……。」

 その〝称賛〟に満足してか?

 いいや、貶されて苛立ちに、エイルは沈黙して。

 現に、耳にして、猫の耳をプルプルと震わせた挙句、後ろに向けて。 

 猫でいう、怒りを露にする寸前の気がしてならない。 

 「……さっきから聞いてりゃ、ヴァカリキー!!!エイル様をバカにしているのか、貶しているのか、褒め称えているのか、どれだぁぁぁ!!」

 「……やっぱり。」 

 その通りに、エイルは怒りを爆発させて。

 先ほどの求めていた表情一転、激怒に牙を剥き出してきた。

 やっぱりと思うや、頭が痛くなる。

 エイルは、牙剥き出しに、ヴァルを睨み付けてきては、聞くが。

 「最後以外の全部。」

 ヴァルは、ニヤリと笑みを浮かべつつ、淡々と言うなら、そう。

 ……エイルに言われた、バカにしているのと、貶している、その二つらしい。

 察するに、喧嘩寸前……。

 「……。」

 「……。」

 「……?」

 ヴァルの言ったことに、途端、静まるが。

 何事とつい首を傾げるが。

 「じょぉぉぉぉとぉぉぉだぁぁぁぁぁ!!!!ヴァカリキー!!!今からおめーを海に沈めてやんぞ!!!!」

 「げひゃひゃひゃひゃ!!!やってみろ!!!」

 「!!」

 すぐに、暴風のごとく怒りが露となる。さしずめ先のは、嵐の前の静けさか。

 ヴァルは臆することなく、楽し気に笑うだけで。

 結局それは、火に油を注ぐだけであり、エイルは余計に怒る。

 「こんのぉ!!」

 「!」

 挙句、エイルがすることは、レーセを手に、ヴァルを攻撃すること。

 さっと腰に手を伸ばしては、レーセを手にして、表にして。

 光の刃を迸らせえる。  

 「おほっ!いっちょ前に、お子様のくせに、やるってか?」

 ヴァルは見て、嬉しそうにニヤリと笑むなら、こちらもと思うか。

 「!」

 だが、ヴァルはレーセを取り出すことはせずに。

 したことは何と、エイルの頭を押さえることであり。

 結果、エイルは身動きできなくなる。剣先が、ヴァルに届くことがなくなった。

 切っ先は空を切るだけで。

 「あぁ?!てめー!!!!こんのぉ!!!」

 エイルは悔しそうに、ギリギリと歯軋り出しつつ、唸る。 

 「へへぇんだ!お子様にゃぁ、無理だぜ。」

 対してヴァルは、エイルをこけにしているようで、無理だと。

 身長差が災いとなり、おまけに、ヴァルの笑みに浮かぶ余裕には。

 エイルとは実力の差が大きくあるからとして、大したことがないとも。

 圧倒的に、ヴァルが上なのだから、不利でしかない。

 だが……。

 「?!」

 「……なぁんてな!!エイル様をバカにするなよ!!」

 何も、レーセだけがエイルの武器ではないとして。

 今度はエイルがニヤリと笑みを浮かべて。

 何だとも思い、つい目を丸くしていると。

 「!」

 エイルの背中にある、バックパックが蠢いて。

 バックパックが開いて、沢山の兵器が姿を現した。 

 それこそ、色々な形状の武器を。

 レーザー銃や、ライフル、ガトリングガン、レーセ。 

 後は、……パンチングマシンみたいな物まで。

 「……。」

 どうやら、戦闘に際しては、体格差を補うために、色々としていると。 

 ……というのは、先から分かるが。

 そもそも、バックパックの大きさ的に、入りきらないだろう数であって。

 あのバックパック、何だろうかという疑問まで湧いてしまう。

 「おぉう!!上等だぁ!!全部叩き落してやんぜ!!!」

 「……。」

 見たからとして、ヴァルは臆することはない。 

 そちらもレーセを2本手に、構えて、エイルへのそれに、対抗しようとさえして。

 先ほどにあった戦闘を見るに、兵装の多さは不利に思えないようで。

 結果として、睨み合い、今にも互いにやり合う状況になる。

 「!!……。」

 俺は、見ていられなく、かつ、止めたくもあるが。

 止めようと思い、手を出そうにも、先の戦闘が思い起こされて。

 とても俺では手に負えないとも思い、躊躇ってしまう。 

 いがみ合う二人を、止められるのは?

 ……いた。

 「!」

 トールだ。同じように、戦闘能力の高い彼女なら、止められよう。

 「……みっ。」

 こちらも、見ていられないと感じていてか、いがみ合う二人の間に立っては。

 がしっと頭を掴んで、制してしまう。

 「?!あ?!」

 「?!うぇ?!」

 掴まれただけ。

 だが、そこから二人動けないでいる。

 「!!おいおい!!トール!!何やっちゃってんの?!生意気なクソガキを、このあたしがボコボコにしてやろうってんのに!」 

 「やめろトール!!エイル様はバカにされて気が立ってんだ!!そのクソ力をもっと別の所で活かせ!!」 

 口は動くため、罵声よろしくトールに浴びせはするが。

 トールは全く動じていない。 

 「……みぃっ!!」

 「!!」

 「?!あ?!」

 どころか、トールは何か訴えてきているようで。

 鳴き声の威勢が強くあり、明らかにそう訴えてもいる。

 おまけとして、お腹の音を鳴らせば、余計に訴えてきて。

 「……おめーそれは、腹減ったってか?降りる前、海の上でこっそり食ってんの知ってんぞ……。だのにか?」

 「……トールのありゃ、マジだ。別腹ってやつだ。ちぃ……。」

 「!」

 その腹の音は、呼び水に。

 次第にヴァルとエイルを冷静にさせていく。

 あれほど、白熱した状況が、冷めていくのだ。

 「……。」

 「……。」

 その上で、ヴァルとエイルは互いを見ることになる。

 「……ちぃ、興醒めだ。」

 「……ま、おめーとやり合ったら、埒が明かん。」 

 やがては、その矛を収めるか。

 ヴァルは舌打ちしつつ。

 エイルは、納得しながら。

 それぞれの武器を収めていった。納めたなら、トールは手を放して。 

 「……。」

 見ていて、激突のないそれに、平穏を感じてほっとする。 

 「……ま、んときゃ、飲み屋行きだぜ。寂れたひっでー漁港のであっても、憂さ晴らしにもなっか。」 

 「!」 

 そうなったなら、武器を戻したヴァルは、背を伸ばし。

 翻って、憂さ晴らしに何かしようと言い出してくる。

 「ぬぅ。確かに。」

 エイルも同意に。

 武器をバックパックに仕舞い、追従する。

 「……みっ。」 

 トールは、そんな二人を見て、安堵してはついて行った。

 「!」

 俺だけになるなら、置いて行かれまいと3人を追う。

 

 散々な口喧嘩の桟橋渡り、言っている場所へ向かうなら。 

 町に入るらしい。

 「……!」  

 いわゆる漁港の町らしく、入り口は港に面していて。

 「……?」

 そうであっても、町の割には活気がなく、そう、子どもの影形も見受けられない。

 賑わっている様子を感じない、寂れた漁港と言えるか。

 他にも、らしからぬ物はがありそれも、所々、軍用車両を目にすることで。

 そこには違和感がある。 

 一般的な町のはずなのに。

 乗り物の類が、どう見ても一般人が使うような物ではない。

 俺が気付いたのが、つい先ほどである以上。

 異世界はこうだと言われたらそれまでだが。

 「……おほっ!どしたん?フェンリル。」

 「!」 

 前から、声が掛かるなら、俺が何をしていたのか。

 感じてか、ヴァルがこちらを向いて聞いてきた。

 前を向いているにもかかわらず、感じているとは、ヴァルってすごいな。

 あるいは、人とはかけ離れた存在だから、成せると? 

 心底そう思う。

 振り向かれたならと。 

 「……ええと、何だか町という割には、子どももいないし、まして、一般人も見受けられないから、何だかなと。」

 聞く。 

 「ああ、まあそりゃ、そうなるわな。」

 「!」

 俺が感じたことに、共感してか、ヴァルは言い始めてくる。 

 「まがいなりにも、ここは軍事施設だからな。超辺境で、ある意味前線基地のようなものだがな。」

 「!前線基地……。」 

 ここは、前線基地のようなものなのだがと。

 「……とはいっても、ほとんど即席でな。だから、元々漁村だったところを、勝手にあれこれして、とりあえず、軍用に使えるようにした、って感じだがな。」

 「……はぁ。」

 続きには、ヴァルはやや呆れる様子を見せながらも。

 軍事基地とは言え、即席であり、らしくはないと。 

 察しに、相槌を打つ。 

 「まあ、思わぬ効果ってやつがあるらしいがな。」 

 「!」

 呆れから一転、多少それが、思わぬ効果を生んでいると、ヴァルは明るくなって。

 聞き入るなら。 

 「欺瞞ってやつかな。まさかここが、軍事基地とは思えないってね。……と、上の連中は呑気に考えているがな。」 

 「!……そっか。」

 呑気な漁村には、欺瞞効果があるとして。

 なるほどと思うなら、つい納得しそうなものだが。

 ヴァルはしかし、面白くなさそうかどうか、やはり呆れてもいる。 

 「ま、別にいいけどな、あたしは。」

 「……。」

 その呆れは、どうでもいいとして。

 ヴァルは締め括り、また前を向いて先導していく。 

 それならそうとして俺も、頷いてはついて行く。

 やがて俺たちは、いかにもな場所に辿り着く。

 酒瓶を模した看板のある、洒落た建物、そう、酒場だ。

 「……?」

 まだ、飲むには早いか、賑やかな声は店から聞こえてこない。

 こういう所は、酒飲みが来て、ワイワイと騒いでそうな雰囲気なのだが。

 「おぅ、入るぞ?ぼんやりしてんじゃねーぞ。」 

 「!あ、ああ。……にしちゃ、静かだな、この酒場。他の連中が、飲みに来ているとかじゃないのか?」 

 「あ?……こんな時に飲むのは、あたしらぐらいだ。ほとんどの連中は、クソ真面目に仕事してんのさ、無駄だろうにね。」

 「……。」

 そのようにしていたら、ぼんやりしていると思われて、ヴァルが声を掛け。

 つい言うなら俺は、素直に静かだなと。 

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