17 港へ

 「!」

 船室に戻ったら、増速したか。

 かなりの速度で艦船は進み。

 どこかこう、島々が船室の窓から見えだして来たら、途端に速度を落としていく。

 何事やら見ていたら。

 「見せてやんよ。行くかい?」 

 「!」

 ヴァルが誘ってきた。

 「……ああ。」 

 誘われるまま、俺はまた、甲板に上がるなら。

 「!」

 陽が傾きつつある中、進む先には港が見える。

 なお、物々しい雰囲気のそれではなく。

 どちらかというと、漁港のような気がしてならないほどで。

 「……。」 

 自分の着ている服や、ヴァルの服を見て、違和感に思う。

 「……あ?どした?もうすぐ陸だぜ?」

 「!……いや、大したことじゃないが……。」

 「んん~?ヴァルキリーさんに言うてみなさい。」 

 疑問に思っていたなら、ヴァルが横から声を掛けてきて。

 なお、大したことじゃないがとしようものなら、促されてしまい。

 ならばと、口を動かすなら。

 「俺たち、軍人だよな?軍人扱い……なんだよな。」 

 「まあ、そうなるな。」

 「向かう先って、漁港?」

 「……そう聞くか。」

 促されるまま、紡ぐ。

 そう、違和感のこと。

 軍人なのだから。

 その、向かう先は少々物々しいものとばかりであることを想像するのだが。

 どう見ても漁港のそれであり。 

 ヴァルは少々ばつが悪そうになり、言いにくいか、口を結びそうになる。

 「!……何だか、言いにくそうだな。聞かなくていいなら、俺は別にいいけど。」

 言いにくそうだと感じると、撤回しようかと思い、俺は続ける。

 「いや、それはいい。別に大したことじゃない。」 

 「!」 

 が、ヴァルは大したことじゃないとして、その先を言おうと。 

 聞き入るなら。 

 「まあ、戦争に負けちまっているってのは、言ったよな?」 

 「!ああ。」

 まずは、戦争のことについてだ。

 共和連邦に敗北したまでは知っている。

 「つーことはあれだ、まともに使える軍港ってやつは、ここらじゃ、もうほとんどないというこった。」

 「!……か。」 

 戦争に負けたとなると。

 ヴァルが言うことには、最早まともにこちらが使える軍港は残っていないと。

 だからでか、あのような粗末な漁港を使わざるを得ないと。

 その説明の最中には、港は近付いて。

 おかげで、様子もよく分かる。

 「!……。」

 漁港と形容するに相応しく、漁船があちこちに見受けられて。

 だが、賑わっている様子というよりは、寂れている。 

 帝国であるなら、敗北であるがための、重い空気を感じてしまう。

 そこに、寂しさを感じ、押し黙ってしまった。

 「おいおい。しけてんな~。」

 「!」 

 横にいたヴァルは、俺が急に押し黙るものだからと、呆れて言ってくる。 

 俺は、顔を上げて、ヴァルを見て。

 ヴァルは、この空気に対して、何とも思っていない様子であり。

 そこには、自信さえあるのかもしれない。 

 やけに感じる自信満々さに、なぜだという疑問も湧く。

 「別に、あたしらがいるから終わっているわけでもねーぜ?」

 「!……それはどういう……。」

 根拠には、自分たちがいるから、完全に終わっているわけでもないと。

 やはり、自信が感じられた。

 俺は疑問を口にするだけで。

 「……はぁぁ。お前はまだ、自覚がねーのか。」

 「?!それはどういう……?!」

 が、そうしたなら、思いっきり呆れられる。

 何でまたと、つい聞いてしまうが。

 「あたしら、何だっけか?」

 「!……ええと……。」

 「可愛い猫耳で、毎日どったんばったん大騒ぎで、東に西に南に北に吠えまくる、素敵な素敵なアニマルガールじゃねーぜ?あたしら、モンスターでっせ?一騎当千どころか、万、億、兆相手にしても、打ち勝てるんでっせ?自覚しろよ。」

 「!!!……ぬぅ。」

 質問に質問で返されてしまい、答えに窮するが。

 代わりに、ヴァルが言ってくれるなら、根拠となる言葉でもあって。 

 自分たちは、可愛らしい猫耳な連中じゃない。モンスターなのだと。

 一騎当千をも超える、化け物なのだと。 

 ニヤリと、ヴァルは自信満々に言ってきた。

 散々、自覚しろよと言われるや、俺ははっとしては、……自信なさに呻くだけで。

 「……まぁ、今日目が覚めたばかりの、赤ちゃんフェンリル君にゃ、いきなり化け物だと呼ばれても、無理か。」

 「!……。」

 ヴァルは、そんな俺に、フォローみたく言ってくれる。

 そも、今日目覚めたばかりなのだから、自覚なんて無理かと。

 言われて、何とも言えない気持ちとなる。 

 「それよりも、さっさと下に降りよーぜ?ああ、到着して、甲板からダイブしたいなら別だが。」

 「!……分かった。」 

 港迫るなら、そろそろと気付いたヴァルは、フォローもそこまでにして。

 上陸の準備か下に降りようと誘ってきた。

 俺は、頷き、追従して、降りていく。

 どうも、接岸しても直接甲板から降りることは難しく。

 ……いや、できるのだろうが。

 本来の搭乗口ではないということか。

 思いつつ、下った。

 

 「!」

 ゴンという、大きな音が響いて、やがて艦船は静かになる。

 どうやら、接岸したらしいか。

 だからか、部屋に一緒にいたヴァルは、背伸びして。

 陸に降りる準備を始める……とはいっても、荷物なんてのはなく。

 同じく、トールも立ち上がり、背伸びして降りる準備をしていた。

 俺も合わせて、伸び、盾の入っているバックパックを背に、立ち上がった。

 「……?」

 残るはエイルだが、エイルの姿はない。 

 どこへ行ったとつい思う。 

 「!お?どした?」

 「!ああ、エイルはどこ行ったんだろうって。」

 「ああ、あいつは艦橋だよ。操艦しなくちゃいけねーからな。ま、終わったら真っ先に上陸していると思うぜ?んで、遅いあたしらを叱る準備して待ってるってな。」

 「……そっか。」 

 ヴァルはすぐに勘付いて、言ってくるなら。

 艦橋に行っていて、今頃先に上陸しているだろうと。

 先の戦闘の際、エイルは確かにいなかったし、艦橋に行っていたとかだったし。 

 なるほどと思う。

 「んじゃ、行こうぜ。」 

 「ああ。」

 ヴァルは、そう言ってから、待たせるのも悪く感じてか、促してくる。 

 俺は頷き、ヴァルとトールに続く。

 

 船室から出て、少し歩いたなら。

 扉が開いているような感じの、明かりが見えていて。

 ヴァルはそこを目指して進み。

 俺もついて行くなら、どうもタラップが降りているようだ。

 また、その先には、コンクリート造りの桟橋があった。

 確かに、上陸であると伺わせるものの。

 「!……。」

 やはり、遠くから見た時の寂しさを。

 ここではっきりと感じて、寂しさに言葉を失いそうになる。  

 「おらぁ!!さっさときやがれ!!ヴァカリキー!!おめーが言ったんだろうが!」 

 「!」 

 「ああん?!チビ猫うっせー!!地面にめり込まして、ただでさえ小さい身長を、余計に縮めてやっぞ!!」 

 「……。」 

 ……だが、そんな寂しさなんて。

 ヴァルとエイルの掛け合いに消されてしまう。 

 先にヴァルが言った通り、エイルは降りていて。

 それで、その桟橋にて、ヴァルを煽るかのように言ってもきた。 

 煽りに乗るように、ヴァルは言い返すなら。

 エイルへのダメージを与えるかのような脅しであり。

 このまま、また喧嘩でもしそうな勢いだ、寂しさなんて、消えてしまう。

 「ああん?!やってみやがれ!!おめー今日の夜中、ちびらせてやらぁ!!」

 「おおん?!やってやるぞぉ!!お前を逆にちびらせてやる!!」

 「!!……。」

 ……寂しさが消えてからすぐに、喧しさに頭が痛くなる。 

 売り言葉に買い言葉、このまま口論で済まさなくなりそうである。

 ヴァルは進み出ては今にも掴み掛らんとしてもいた。

 まずいかと思い、俺とトールも急ぐ。

 急ぎ、タラップを降りて、桟橋に降りたなら。

 ふと振り返り、自分の乗っていた艦船をよく見る。

 「!!……変な船。」 

 見て、つい感想を述べた。

 変だというのは。

 遠くから見たら、空母っぽいが、大きさが違うのはさることながら。

 ヴァルが言っていた艦橋の場所も、艦首付近にあって。

 かつ、甲板のすぐ下にあり、小さい。

 上からの攻撃に際して、防御できそうな様子ではあるが。

 視認性はどうなのだろう?疑問にも思う。

 「……あれ?」

 他にも疑問が。

 そのまま待ちながら、思う。

 タラップを見ても、他の人が降りてくる気配がない。

 いくら小さいとはいえ、漁船などと比べたら大きくある船。

 少人数だけで動かせるわけではないだろうにと、思って。

 他の人がいないかを、探してしまう。

 「……。」

 「……。」

 「?!」

 思いながら、キョロキョロしていたら、視線を感じた。何だろうと見れば。

 エイルとヴァルが、喧嘩をやめて、じっと俺を見つめていたのだ。

 何事と、ぎょっとして身体を弾ませてしまう。 

 「……おめー、なかなか変な奴だな。」

 「?!ぬっ?!……い、いや、変だとは失礼な……。」 

 「んじゃあ、フェンリル君。何見てたんだ?」

 「!ええと……。」

 エイルが口を開くなら、何をやっているのやら、変な奴だとさえ言われて。

 失礼だと思いつつも、フォローにか。

 ヴァルが進み出ることには、何を見ていたのかと聞かれる。

 失礼さに、不満を感じたが、一転、思案しては。

 「他に人がいないな、なんてね。この船、大きいから、他に人が乗っているものとばかり思っていたから。」

 「あ、そう。んじゃあ、そこら辺は、エイルよろしく~。」  

 「へ~い。」

 「!」

 素直に、疑問を口にする。

 耳にしたヴァルは、なら、エイルに頼むとバトンタッチして。

 やり玉に挙がったエイルは受け取り、手を挙げて俺を向いてきた。

 「んじゃあ、興味津々なフェンリル君に、エイル様が懇切丁寧に教えてやっぞ!ほれ、頭下げな~!」 

 「?!えぇ……。」

 ……なお、教えてはくれるが、らしい前口上であり、それは戸惑わせる。

 「……ええと、お、お教えください、エイル様……。」

 「……わぁお、本気でやりやがった。フェンリルの奴。」 

 「……みっ。(こくり)。」 

 「……。」 

 「ふふふ~ん!!エイル様は機嫌がいいぞ!!懇切丁寧に教えてやる!」

 ちらちら見ても、埒が明かないなら。

 言われるがまま俺は、できるだけ丁寧に、頭を下げながら言ってみる。

 なお、端から見ていたヴァルは、呆れてもいる。

 トールは、静かに頷くだけ。

 見て聞いて、快く思っているのは、エイルだ。

 先ほどより、さらに意気揚々としていて機嫌がよさそうだ。

 見ていて、……何とも言えない気持ちになる。

 傍ら、エイルは続けるようで。

 「まあ、簡単さ!あの船、このエイル様一人で動かしてんのさ!武器も航行も何もかもね!補助にマキナを使ってっけど!どうだ!!」

 「!」

 ふんぞり返り、自慢げに言ってきた。

 聞くに、こちらは素直にすごいなと思ってしまう。感嘆に溜息をもらした。

 「さぁさぁさぁ!!エイル様を褒め称えてくれよぉ!!」

 俺の様子に勘付いて。

 意気揚々とした感じは高まり、遂には称賛をも求めて。両手を広げて、待つ。 

 「!」

 気付いて頷いて。

 手を……叩きそうになったが、それは別の誰かがやるようで。見れば、ヴァルだ。

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