16 水平線へ狙い撃て!

 《ふぅぅー!やけくそのフェンリル、さいこー!》

 「!!ぐぅぅ!」

 エイルの声が、またまたまたまた来るものの、黄色い声援だ。

 耳障りにも思えて、俺は青筋が立つ。

 「……どこだ。敵のミサイルやら何やら……。」

 《スキャンいたします。完了。現在、対艦ミサイルの装填が確認されました。前方のマキナから、確認いたしました。》

 「!!」

 盾は、応じるように言ってくれる。

 耳にして、先ほどから狙っていたマキナをよく見据えた。

 近く……ではあっても、とてもライフル銃の。

 それも突撃銃では狙い撃てる距離ではない。そうであっても、睨み。

 「!」

 と、マキナの背中から、筒状の物が出てきて。

 また、ハッチのような蓋が開くなら、ミサイルがその姿を現す。 

 今かと、狙っているかのよう。

 《スフィアリンク。弾道を補正いたします。マスターは狙って、相手のミサイルを撃つだけです。》

 「?!えっ?!マジで……?」

 こちらも、狙うようだが。

 盾が何かアドバイスをするらしいのだが。……無茶を言っている気もする。

 狙い撃てだと?

 何度も言っているが、生まれてこの方、銃なんて握ったことはない。

 まして、狙い撃つなんて、なおのこと。 

 「……。」

 悪態をつきたくもなったが、そも下から言われているんだ、やむを得ない。 

 やけくそでもいい、やるしかないと。

 「……!」 

 やるからにはと、狙い澄まして。

 ある一点を見据えた瞬間、俺はその引き金を引いた。

 1発。 

 光弾が直線の軌道を描き、進んでいく。

 その1発は、マキナのミサイル発射口を捉えていて。

 着弾するなら、轟音が響き、閃光が迸り。

 「ガォォォォアァァァ?!」

 マキナは爆発炎上、悲鳴のような声を上げて、崩れていく。

 「!……。」

 静かに見ていて、自分が何をしたのか分からずにいて。

 《へぇ!やるじゃん!!》

 「!」 

 傍ら、エイルが褒めるように言ってくれる。

 「うはぁっはぁ!!狙撃ってか?!ええ?!狙撃銃じゃねーのに、撃ち抜いたってのかよ、おい!ふぅぅぅぅ!」

 「!!……。」

 遠くからも、称賛の声が来て。

 ヴァルからだが、器用なものだ、その場で飛び跳ねながら喋っているか。

 なお、姿は見受けられないでいるが。

 答えられずに、ただ俺は、呆然としていて。

 「!」

 そんな折、誰かに肩を叩かれて。

 振り返れば、それはトールだ。

 いつの間にか、戻ってきていたのか。

 「……みっ!」

 「!……あ、ああ、ありがとう……。」 

 俺が振り返るなら、トールはサムズアップしてきて。

 言葉はなく、単なる鳴き声でしかないが、称賛の意を表明してはいて。

 一応、呆然から気付いたのだから、称賛してくれたのだとして、お礼を言った。

 「あ!!トール!!てめぇもう疲れたってかぁ?!」

 「!……。」

 トールがそうしていたなら、同じように迎撃していたヴァルが声を掛けてきて。

 それこそ、称賛から一転し、叱責するような感じで。

 さらには、ドカンという、派手な音を立てて、甲板に着地さえしてきて。

 どうも、戻ってきたと伺えるが。

 「……ふぃー。まあ、つったって、あたしがほとんど喰っちまったけどな!」 

 「!……ええと、そう……。お、お疲れ……。」

 やはりそうで、その一言は一仕事終えたかのよう。

 言ってきたヴァルに、言葉に迷いながら労いに言葉を掛けた。

 「……。」

 その上で、周りを見たら、本当に一仕事終えていて。 

 うるさいと思っていたヘリの羽音もなく。

 その姿形さえ、空には見受けられない。

 あるとしても、残骸が漂っているだけであり。

 それも次第に、海へと消えていっていた。

 見ていて、またも呆然としてしまう。

 本当に、迎撃し終えたんだ。……どう言えばいいだろうか、迷う。

 およそ、飛ぶに向かない肉体にもかかわらず、ものともせずに飛び跳ねまわり。

 挙句、迎撃して見せる様には、称賛か、驚愕か、どちらを言えばいい。 

 「……。」

 どれも選べず、沈黙するしかない。言葉が浮かばない。 

 「……おぃおぃ。労いの言葉だけかい?こういう時は、軽いジョークでも飛ばせるようにならねーとなぁ、フェンリル。」

 「!!……え、あ、ああ。すまない。」

 などとしていたら、ヴァルが声を掛けてきて。

 呆然としているよりもと、言うならジョークの一つでも飛ばせとな。

 そこの配慮がないがために、俺はすまないと頭を下げる。

 「……というか、本当に全滅させたんだ……。」

 ジョークではないが、気を取り直して言うことは。

 それなりの数を相手取って、生きて帰ってくるなんて、驚きだとして。

 耳にしたヴァルは、大して面白くなさそうな顔をする。

 「……なあ、フェンリル。これはあたしらにとっちゃ、朝飯前なんだぜ?褒めても何も出ないし。まぁ、今日目覚めたばかりのお前さんにゃ、初見かもしれんが、な。んなことより、もっと面白いことでも言えよ!なぁ。」 

 「!……悪い。あんまり、冗談とか苦手で。」

 「……ま、いっけど。」

 これぐらいは当たり前であって、褒められることでも何でもない。

 それよりも、もっと面白いことを言えとまで言われて。

 なお、俺はそもそも、このような状況に、何と答えればいいか分からずにいて。 

 思いつけないで、頭を掻く。

 ヴァルは、あんまり期待していない顔をして、それぐらいにしておくとした。

 「……まあ、あたしの方は、驚きのことならあるぜ?」

 「!」

 反対に、自分からはあるとして、俺の顔を覗き込んできた。

 なぜにと思い、またもぎょっとしてしまう。

 「へへぇ!あたしにゃ、よく一撃噛ませたものだってな!」

 「!」

 初めには、よく分からないが、一撃を与えたと。 

 「あのマキナの獣に、な。それも1発で。んでもって、撃破とか。初陣にしては、よくやるってこった。へへへ。」 

 「!……?」

 繰り返しては、聞くに、褒めているのだろうか?褒めているように。

 笑みまで添えるがいかんせん、よく分からない、首をつい傾げてしまう。

 「……おいおい。もちっと、笑うなり何かしろよ。」

 「!う、悪い。」

 そうしたなら、余計に面白くない顔をされてしまう。 

 悪く思え、謝りはした。

 「……はぁ。真面目な奴。もちっと、コメントが欲しいね。」

 「……わ、悪い。思い付かないんだ。」 

 「別に、お前は悪いことしてねぇんだから、謝る必要なんてねーがな。」 

 「……。」

 面白くない顔は続いて、もう少し、コメントを付けてもいいんじゃないかと。

 結局、付け加えることもできず、謝るばかりでしかないが。

 「……まあ、んじゃ、あたしが指南すっかね。」

 「!」

 代わりに、ヴァルが指南するとまで言って。

 俺は、何を言うか、つい食い入るように見てしまう。

 「お前、1発で仕留めたってんだろ?あれだろ?前の世界では、柔な顔をしておいて、その実遠くから狙撃して仕留める、超1流の凄腕スナイパーだったんじゃね?」

 「?!えっ?!」

 「……そこはもう少し、ツッコもうぜ?」

 指南するにあたり、やったのは俺を見て、冗談みたく言う。

 それこそ、前の世界では、スナイパーだとかも言われる始末。

 なお、言われて何度目か、ぎょっとしてしまう。

言っておくが、ただのサラリーマンだ、殺し屋じゃない。

 しかし、その反応に、あまりにも物足りなさを感じて。

 ヴァルはやや不満そうになった。

 「……ジョークだよジョーク。お前さんの動き見てりゃ、嫌でも分かるわ。そういう時は、も少し、こう、何だ?柔軟にだな?……分かんねー。」 

 「……ええと、俺もよく分からない。すまない。」 

 ちょっとした冗談みたいなものだとヴァルは言いつつ。

 アドバイスも加えようとしてはいたが、今度はヴァルも上手く紡げないでいる。 

 よく分からない俺は、相変わらず首を傾げるばかり。

 こうして、互いが互い、わけ分からず首傾げの中。

 「だぁぁ!やめだやめ。終わったんだし、こういうときゃ、飲み直すか!」

 「!」

 ヴァルが言って、終わらせるようで。

 面倒臭そうに、ボリボリと頭を掻いた。

 こう、互いに致し方なくなってしまったなら、切り替わりにとしてか。 

 「おぅ!エイル!!状況終了だ!このまま、基地に帰るぞ!どーせ、寄る所もないんだしな!」

 「!……?」

 そのために、ヴァルはポケットから小型の通信機を取り出しては。

 エイルに言って。

 《おぉ~!新人君のおかげで、エイル様も無事でよかったぜ。遠泳なんて、ごめんだからな~。んで、大方帰って、飲み直すってやつだろう?分かった。》

 「へへへ!話が速くて嬉しいぜ!んじゃぁ、フェンリルの歓迎会でもすっかね!」

 「!」 

 エイルは、スピーカーから声を上げるなら。 

 嬉しそうな声を上げていて。

 また、予想もしているらしく、ヴァルに合わせて、飲み会の算段もしている。

 ヴァルの予想通りであり、ニヤリと笑みを浮かべていた。

 傍らで聞きつつ、俺は身体を弾ませて。

 見ていたヴァルは、こちらに悪そうな笑みを浮かべてきた。

 「つーわけで、いきなりだが、戻ったら飲み会ってこった。別にいいだろ?」

 「!!……あ、ああ。」 

 伝えてくる。 

 やはり振ってきたかと思うに、曖昧だが、頷くしかない。 

 そもそも、やることがないからで……。 

 「決まり!おい、トール、フェンリル。休んどけ!朝まで飲むぞぉ~!」

 「?!えぇ?!」

 頷くしかないからか、これ幸いとヴァルが続けるなら。 

 どうやら、朝まで飲むようなことを言い。

 またしても、その言葉は俺をぎょっとさせる。 

 「いいだろ~?」

 「!……うぅむ。」 

 重ねるようで、ニヤリとした笑みがまたも向けられるなら、ぐうの音も出ない。

 そうして、従うしかなく。

 戦闘が終わったならと、俺たちはまた、あの船室に戻る。

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