15 やけっぱちの極み

 《早くしろ!接近されて、対艦ミサイル撃たれたら、たまったもんじゃない。この船はエイル様たちより脆いんだ!!》

 「!」

 おまけとして。

 甲板中に、スピーカーからの音声でエイルが急かすように響かせて。

 耳にしたヴァルは、面白くなさそうな表情をして。

 「分かってるっつーの、んなこと。ちっとは戦争楽しもうぜ~。」 

 文句を言っては、少しは楽しもうとも、言っていた。

 なお、通信とかしていないためにおそらく、声は聞こえていないと思う。

 「……んじゃま、急かされたんで、行きますかね!」

 「!」

 文句言い終えたなら、ヴァルはまた、楽し気な表情になっては。

 身体を伸ばして、ほぐして。

 さらには、軽くその場でジャンプもして。 

 「……?」

 見ていて、一体何を始めようとするのか、疑問に首を傾げる。

 「……よぅし。」

 一息ついたなら。

 「!!」

 ヴァルは、そこから艦首目掛けて走り出す。

 その先は、……海原だ。

 陸地なんて、ほとんどない。

 一体全体、何をする。

 翼なんてないヴァルが、助走付けて飛んでも。

 大空を飛ぶことなんて、どだい無理な話だ。

 狂ったかとさえ思い、俺はぎょっとする。  

 「ハァッ!!!」

 一息吐いて、ヴァルは艦首から、予想通りに飛び立つ。

 なお、その跳躍は、人間のそれを遥かに越えていて。

 飛ぶ鳥にさえ、手が届くレベルであり。 

 しかし、跳躍でしかなく。

 飛行ではない。

 そのまま、飛ぶ勢いがなくなったなら、海原に着水してしまう。

 何をする?

 そのままだと、ずぶ濡れだとして。だが、ヴァルは笑ったままだ。

 「!!えぇ?!」

 どころか、その足が海に触れる寸前に、ヴァルはまた、跳躍をした。

 ここでも驚愕だ。

 つい、声が漏れてしまう。

 ヴァルは鳥ではないくせに、水に触れる寸前かに、跳躍することができるなんて。

 すごすぎる。

 おまけに、その跳躍の高さは高くあり。

 悠々とヘリの高さにまで飛び上がり。

 おまけに、空を蹴り、軌道を変えて、敵対する相手に突っ込んでいく。

 その際、両手にしていたレーセから、光の刃を迸らせて。

 「ハァァァァッハァ!!」

 息を吐きながら、凪ぐなら、何とヘリを横一直線に真っ二つにした。

 爆音を上げて、ヘリは散る。

 「いっちょうあがりぃぃぃぃ!!!!」

 その一瞬をやり遂げて、ヴァルは歓声を上げながら、落下していった。

 「……。」

 見ていて、唖然とする。

 ほんとうに、化け物のようだ。

 「!!……って?!えぇ?!」

 また、追従するか。近くにいたトールもまた。

 ヴァルのように準備運動して、レーセ片手に助走して、跳躍していく。

 忘れていたと思い、情けなくも思っていた傍ら。

 この人もまた、同じようにするか。

 その通りに、助走付けて、艦首から跳躍。

 着水する寸前に、跳躍して。

 ヘリの高度に悠々と到達、また、空を蹴り。

 ヴァルとは反対方向に軌道を変えていく。

 なお、一切叫ぶこともなく。

 トールはいとも簡単に、何の躊躇いもなく墜としていく。 

 「……。」 

 2人が飛び立つのを見て、ちらちら見ながら、つい考え込むなら。

 なるほど、だから真っ平なのかと。

 走ったりするのに、邪魔だから真っ平にしていて。

 かつ、ヴァルやトールがいるから、特段、砲塔なんてのも、いらない。

 そういうことか。

 しかし反対に、俺はどうかとして。  

 続こうとさえ思い。

 そっと、艦首まで走るが。

 「……うげぇ。」

 飛び立つ前に、躊躇してしまう。

 下を覗き込むなら、海面より高くあり。

 また、視線を水平にすれば、どこまでも続く海原に、身がすくんでしまった。

 それがために、躊躇いの声が漏れた。

 《あ~。よせよせ。おめーはまだ無理。無理だから、おめーは適当に鉄砲でもばら撒いておけ!ちっとは、様にはなるだろう。》

 「!!……ええと、あ、うん、分かった。」 

 そんな俺に、助言が来て。

 見ている……わけではないが、勘付いていて。助言をしてくれて。

 スピーカーから、言ってくれた。

 俺は、頷いて、手にしていたライフル銃を構えて。

 「……。……?」

 なお、素人な構え方のため、いささか不安であるが、銃から、覗くように見渡す。

 「!」

 その際、視線の先に。

 いわゆるマキナを見付けたなら、手にしたライフル銃の引き金を引く。

 「?!うわぁ?!」

 途端、光弾が射出されるが。 

 反動が大きくあり、銃身が弾み、暴れてしょうがない。

 合わせて、反動によってバランスを崩して、倒れそうになる。

 そうであっても、不思議と踏ん張れて、その場にあった。

 「……ぬぅぅ。」

 そも、生まれてこの方、銃なんて握ったことのないがために。

 歯痒さに、つい呻き声を漏らした。

 《反動によるバランスを低減するために、意見具申いたします。》

 「!……あそっか、喋れるんだったな。」

 その傍らに、アドバイスがあり。

 背中に背負ったバックパックから声が漏れてきて。

 何事と、最初思ったが、そうかと続くなら。

 そも、背中には、喋る盾が入っているのを思い出して。

 「ああ、ありがとう。……お願いするよ。」 

 《ライフル銃を構えたら、引き金すぐ側のグリップをしっかり握り、また、銃身の後ろの方、ストック部分を、肩に当てます。片方の手で、銃身をしっかり持ち、脇を閉めましたら、基本的な構えは完了です。ある程度、反動を押さえることができます。なお、そうであっても、反動があり、狙いを定めるのが難しいことがありますが、そこは身を屈めることで、低減できます。》

 「!」

 促すようにしたら、盾は具体的なアドバイスをしてくれて。

 その通りに、構え直して。

 先の、狙ったマキナを探して。

 「!」

 見付けたなら、狙い直し、安全装置を外し、引き金を引いた。

 連射が始まり、軽快に、一定間隔で光弾を射出していく。

 なのに、先ほどとは違い、身体は反動によって崩れることはなく。 

 連続して、攻撃ができそうである。

 「!!……って、当たり前……か。」  

 ……なのだが、所詮歩兵用のライフル銃。

 連続攻撃でマキナの巨大な獣への攻撃を行ったが、有効打にはならない。

 光の膜が見え隠れしていて、光弾は阻まれ拡散する。

 そんな!!なんてのを一瞬思ったが、当たり前かと、ふと冷静になる。 

 「!!」

 それは、呑気なものであって、いまするべきことではなく。

 現に、はっとなるなら、空気を切るような音が響くなら、何かかすめて。

 《あ!!ゴルァ!!ヴァカリキー!!!エイル様が狙われてっぞ!!!》

 「!!いでで……。」

 エイルは気付いているようで、警告に、聞こえるよう大音量で叫んできた。

 その大音量に、つい耳に痛みが走り、押さえた。

 「あぁぁぁ?!聞こえねーなーぁぁぁぁ?!あんだってぇぇ?!」

 「?!えぇぇぇ?!」

 遠くから、返答がある。

 どうも、戦闘中にありながら、明らかに聞こえているようで。

 なお、わざとらしく聞いてくるのだが。

 それよりも、聞こえているのかと、驚きだ。

 さっきから見ていたら、どうもとんでもない能力らしいな。 

 《ミサイルだぁぁぁ!!!エイル様を殺す気かぁぁぁ?!》

 「!!!」

 またまた、大音量で返してくることは。 

 ミサイルが接近していると吠えて。

 またのそれに、驚きよりも、耳に激しい痛みを感じてならない。

 「あぁぁん?!別にチビがどうなろうと知ったこっちゃないね~!!」

 「?!えぇ?!」

 痛みに軽く呻いていたが。

 ヴァルからの返答に、またまた驚くことにある。 

 知ったこっちゃないなどと、言い切ったのだ。

 なんとまあ、中の悪いことで。エイルといい、仲良くしている様子はない。 

 《おめーの飯食う所、なくなっぜ?》

 反発に、もしこのまま沈んだら、食事を採る所とかなくなるなどと言う。

 「……うぐっ。」

 「?!……聞こえるんだ。」

 先ほどと比べたら、明らかに喧しくなく。

 にもかかわらず、声は届いていて。

 ヴァルは一転、しょげるような声になる。

 またまたまたまた、よく聞こえるものだと感心もして。

 「だがなぁぁぁ!!!あたしゃ手が離せねー!!!トールも無理だろー!!だったら、そこで適当にライフル銃構えて、ばら撒いている奴に任せろよ!」

 「?!えぇぇぇ?!」

 そこからまた、転じて言うことは、俺のことであり。

 話振られたと、また、今日初めて銃を握った身からしても合わさって。

 驚愕に驚愕が重なることになる。

 とんでもない仕事を、任された!!

 それも、防衛とな……。緊張に、喉を鳴らして。

 《あそ。……てなわけで、フェンリル~!よろしく~!》

 「?!えぇぇぇ?!」

 そんな俺を尻目に、もう決まったとばかりに言うなら。

 エイルはスピーカーから任せると頼んできて。

 ……今日何度目だろうか、驚愕に声を上げるしかない。

 《鳴き声上げんな!ガチの赤子じゃあるまいし!その後に、ママのおっぱい恋しいでちゅなんて恥ずかしい言葉は、聞きたくねーぞー?》

 「はぁ?!」

 勝手に話を進めておきながら、なおも、無責任に付け加えて。

 泣き言さえ、許してくれなさそうだ、不満にとうとう俺も吠える。

 さすがに、今日目覚めたばかりの人間に、あまりにも無茶すぎるだろうと。

 《大丈夫大丈夫!!人によっては、できることとできないことがあるって。……てのを見極めるためにも、ファイトぉー!》

 「?!それは励ましているのか?!」

 《つもり!》

 「?!ぬぅぅぅぅ。」

 泣き言を言いたくなる状況だというのは察されていて。

 エイルは今度は、励ますようなことを言っているのだが。

 いかんせん、素直に受け取れずにいて、唸りつつもつい聞いてしまう。

 どうやら、聞こえているらしく。 

 堂々とエイルは、そのつもりだと言ってきた。

 《……ああ、ちょっとした余談だがよ?》

 「?!こ、今度は何だ?!」 

 《目覚めて早々、〝水泳〟もどうかと思うぜ?このままだと。泳げて、遠泳もできるという自信があるなら別にいいけど。》

 「?!……。」

 付け加えに付け加え、エイルが続けるなら、このままやられてしまったら。

 遠泳を強いられると。 

 どこもかしこも海原の今、効果的に進む船は、ないと困る。

 どうやら、促進に言われているようで。 

 「ちぃ!!くそっ!!!こうなりゃ、やけだ!!!」

 煽りとも受け取れるが、やがて悪態つきつつ俺は、吐き捨てるように言う。

 ほとんど、やけっぱちでもあるか。

 どうにもこうにもできない今、こうするしかないなら、やる。

 昔……そうだな、現世?って言えばいいか。

 その時も、やけっぱちになって、仕事をしたこともある。

 結局はここでも、その仕事を見せろと言われているようなものだ。

 「俺に任せて、沈んだって俺は責任取んねーぞ!!!」

 迷いも振り払って、驚愕も振り払って。

 どうなっても知らない。

 そのやけくそな気分に、構え直してはどこかを睨みつける。

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