13 俺の名は
「……んで、最後はお前だな。」
「!……そうか。」
まだ、自分たちのことを紹介している最中なのだからと。
喧嘩腰のエイルはもう、完全にスルーするつもりで。
スルーしたなら、俺に話を振ると。
この流れなら、最後は俺で締め括りだろうて。
振られたならと、頷いて。
なお、緊張が湧き、落ち着かせるためにも、胸をポンポンと叩いて、前を向く。
意を決して、ヴァルとトールを見据えたなら。
「俺の名は……。」
「フェンリル。」
「あ?!」
名前を告げようと。
……したが、遮るように別の名前を言われて。俺はぎょっとしてしまう。
「いや、あの、俺そんな名前ではないんだが……。」
遮られて、かつ、聞きなれない呼ばれ方にぎょっとしていながらも。
何とか取り繕うように続けていたが。
「ん?まさか、〝ヤマダタロウ〟とか名乗るんじゃねーのよな?」
「?!」
「……よせよせ!せっかく神話とやらにちなんだ名前で呼んでんのに、そんな外れたような名前だとよ、何だか、お前さんが仲間外れみたいじゃんかよ!」
「?!……ええと、どう言えと……。」
それも遮られて。
かつ、言うには、そんな一般的な名前ではないだろうなと。
それだと、自分たちからしたら、仲間外れみたいなものだと。
それだと、何かこう、寂しささえ、表情から見て取れて。
言われたなら俺は、困り、どう言えと、とも。
「だから、フェンリルにしとけよ!」
「……うぅむ。」
困る俺に、ヴァルは重ねるように言い。慣れない呼び名に、困り果ててしまう。
「……あだ名とか付ける前に、まずは本名を知らないといけないだろ?」
「?!」
その呼び名を、素直に受け入れようにも、しっくりこないがために。
そうであっても、あだ名を付けるなら付けるで、もっとらしいものがいいと。
俺は本名を言うことを押し通そうとする。
「大空大和だ。」
押し通して、自分の名前を口にする。
大それた名前の割には、俺はぱっとしなくて。
実際、大したことなく、最終的には投身自殺を図ってしまった。
「……。」
思い返して、俺は気分が沈み込む。
「……あっ?!」
「……なっ?!」
「……みっ?!」
「……?」
俺は気分が沈み込んだが、一方で他の3人は全く別の反応を示した。
先の、ヴァルが言うことには、仲間外れみたいな雰囲気になるとやら。
……そういうものではなく、驚愕のそれ。言葉を失ってもいる。
意外な反応に、沈み込んだ気分は一転して、不可思議に首を傾げることに。
「……俺、何かまずいことでも言ったか?」
驚愕しているのが、俺の名前であるからと気付くなら。
何かまずいことでもあったかと聞いてしまう。
「……ああ、まずいな。」
「……大分、まずい。」
「……みっ。」
「!……。」
らしく、ヴァルとエイルは同じように頷いて。トールも、静かに頷く。
「……俺の名前、まずいのか?」
では、何がまずいのかと思い。
そも、知らないのだ、それがどういうことか。だからで、問う。
「ああ、まあ、知らねーからだな。」
「!」
ヴァルが口を開いてくれるようで。
「お前のその名前、口にしない方がいいぜ、帝国では。」
「!!……それは、どういう意味で?」
開口一番に出たのは、帝国では口にしない方がいいと。
それはまた、どういうことで?つい聞いてしまう。
「はいよっと!そこはこのエイル様が説明しよう!」
「!」
「あ、まあ、適任だわな。」
「へへん!」
その答えはと。
躍り出たのはエイルであり。
ヴァルは、邪魔されたとかで、不快に思うことはなく、むしろ素直に譲った。
エイルは胸を張り。俺の横から進み出ては、部屋の奥。
大きなモニターにまで歩んでいくなら、スイッチを入れた。
ぱっとモニターが明るくなるなら。
すかさず、エイルはポケットから。
スマホのような端末を取り出しては、操作を始めていて。
「!!」
すると、モニターには、ある人物が映し出された。
虎柄の猫耳少年。
その活躍劇の、一部のよう。
その少年は、レーセを持ち、また、片方の腕には、俺が持つ盾と同じ物を持ち。
背には、同じようなバックパック。
そのいで立ちにて、帝国の施設内を駆け回り、相手を圧倒していく。
様子には、どこかで見たような気がしてならないが……。
「……その名前はな、こいつの名前でもあんのさ。」
「!!」
その映像を見せた上で、言うことには、この少年もまた、同じ名前を持つのだと。
耳にして、ぎょっとした。
同姓同名がいるのだとして。それにしても、名前通りじゃないか、その様子は。
比べられているようで、一転、落ち込みそうにもなった。
「こいつはな、〝猫耳勇者〟つって、帝国じゃ恐れられている奴さ。うちらの中でじゃ、時には〝ウィザード〟つって、ビビる奴もいるが。まあ、とにかくだ、そいつの名前が、おめーの言った名前だからな、口にしたら、トラウマ連中はおめーをボコボコにしかねないぜ?」
「!!」
そんな俺を慰めるとかはなく。
むしろ、口にしてはダメなことだと、言ってきた。
「……。」
……実態はよく分からないでいるが、耳にして一定の理解は示そうと頷く。
「……つーことで、〝フェンリル〟と言ってたら?」
「!……か。」
エイルの説明終えたその時に、口出すようにヴァルが言ってくることには。
その、口にした名前を名乗ってはと。
言われると、頷きそうにもなるが、その前にと思考。
大それたことを成していない、俺。
大それたことを成した、猫耳少年、いいや、猫耳勇者。
比べるなら、誰があの名前を持つのに相応しいか。
感じたなら俺は、受け入れるように頷いた。
「……分かった。面倒だと思うなら、そう名乗ろう。……ええと、よろしく。」
頷いた上で、改めてと、挨拶をした。
「!おぅ!!そういうことで、よろしく!!うぇぇぇい!!」
「!」
俺が挨拶したならと、ヴァルは感じたなら歓声を上げて。
先と同じように、意気揚々と盃を掲げてきた。
「あ、まあ、よろしく。」
「……みっ!(こくこく)。」
ヴァルに追従する形で、他の2人も同じく頷き、紹介を終えたようで。
「んじゃぁ、飲み直しますか!!」
「!……。」
からこそ、あの、ばつが悪そうな雰囲気払拭に。
ヴァルはまた言ってくるなら、飲み直すと。
すっかり、元の意気揚々とした雰囲気だ。
「それじゃ、何を用意しよっかね!」
「!」
なら、早速とヴァルは立ち、冷蔵庫まで歩いていく。
「……おぃ、ヴァカリキー。つったって、そこには酒しかねーだろ?今日目を覚ました奴にいきなり飲ますか?」
突っ込みがすかさず入るなら、その冷蔵庫の中には、お酒ぐらいしかないと。
俺を気遣ってか、いきなりそんな物飲ますかとさえあり。
「あ!そっか。……んじゃ〝ミルク〟がいいか。」
「……?」
耳にしては、ヴァルは一旦止まり。
軽く天井を見上げては、考えて呟くなら、まるで賛同するような雰囲気で。
だからでか、身体への負担の少ない物をチョイスもしてくれる。
「まあ、確かに。起き掛けに酒なんて、ヘビーだなぁ。ついでにそいつ、現状赤子みたいなデリケートだとしたら、ねぇ。」
「?!」
続けては赤子のようなものだしと。
「……いや~な予感。」
だとすると、嫌な予感がしてならない。
何を飲まされるやら。
「……生憎と、子どもの飲み物はねーんだわ……。さて、どーすっか、さあて、さあて、ねぇ……。」
「!!」
なおも続けていては、途端、意地悪くニヤリと笑みを浮かべて。
視線をトールに向けていき。
「……みっ?!」
嫌な予感は、向こうもしたか、トールは身体を弾ませて、ぎょっとして。
「……。」
ヴァルは、意地悪そうな笑みのまま。
手にしているジョッキを冷蔵庫の上に置くや。
「!!」
目にも留まらぬ速さで、トールに飛び掛かるなら、背後から取っ組み合い。
トールの身体を抱え上げては、俺に向けて。
挙句、そのトールの胸を鷲掴みにして見せ付けてきた。
「……うみゃぁ?!」
トールは突然なことに、目を丸くしていて。
「……へへへっ!丁度いい〝ミルクタンク〟があるじゃねーか!あたしよかでかいんだし、揉めば出るだろう?」
「!!まさか……!!」
ヴァルが何をするかと思えば。
トールの胸を揉みしだいてやることで。
俺が連想したことは、〝母乳〟だとして、こちらも目を丸くする。
付け加えに、ヴァルに言われて、よく見れば。
同じ服装ながら、胸の膨らみはかなり大きくあり。
また、ヴァルは揉みやすくするために、トールの服の胸元を開かせた。
「……みっ?!みぃぃ?!」
羞恥を感じてか、トールは顔を赤くして。
「!」
俺の方もまた、驚愕一転、顔を赤くして目を逸らそうとしてしまう。
なお、その際に、開けた胸の谷間に、俺と同じような痣を目にでき。
エイルが言ったことが本当であると一瞬分かりやしたが。
見てはいけないという感情が勝り、すぐにそんな思考も飛んでしまう。
「……出ねーぞ、おい。基本、子どもを成せないんだからな。」
その中であっても冷静なエイルは、突っ込みを入れて。
「あ?!嘘ぅ?!ちぃ!面白くねぇ。」
「おめーがされらからって、リベンジしても意味ねーだろ?」
「あ?!ばりてた?」
「バレバレだ!」
ヴァルは、エイルの突っ込みを耳にして、面白くなさそうであり。
他方、やられたことをやり返すつもりでもあったとも。
「!……ああ~。」
一人理解して、頷いてもいた。
エイルに言われて、トールに締め上げられた挙句、辱めよろしく。
胸元を曝け出されたそのためでもあってか。それは、エイルにはバレていたと。
なおも、面白くなさそうな顔になっていた。
「ちぇ~……。」
口をすぼめて、なおのこと不満そうに。
「!」
しかし、そうして力が緩まったその瞬間を、トールは見逃さず。
キリっと、目つきが変わるや、後ろのヴァル目掛けて、肘鉄を与えてきた。
「?!えるぼぅ?!」
その直撃たるや、相当なもので、与えられたヴァルは、変な声を上げて。
痛みに手を放して、トールを開放するなら、腹を押さえて崩れてしまう。
「ありゃりゃ、いい気味。」
捨て台詞に、エイルが言うなら、軽く笑う。
なお、トールは。
「……みっ!みっ!」
「?!」
俺を見るなら、慈愛に満ちた笑みを浮かべて。
揉みしだかれていた胸を、自分から揉んで見せてきた。
その様子見せられて、またぎょっとして、つい緊張に唾を飲み込んでしまう。
まさか、まだ飲ませようとしているのか?!
「……おいトール。おめーも人の話を聞かねーんだな。出ねぇって言ってんだろ?」
「!!……みぅ……。」
「!……ほっ……としていいのか?」
やはり、エイルが突っ込みを入れてくれて。
トールは、胸から手を放して、しょげてしまった。
見ていて、安堵したが、果たして、そうか?と次に疑問を思ってしまう。
「ま、飲みたきゃ、水ぐらいなら用意できるがな。ああ、ここの下の、真水製造機から直接という形になっけどね?」
「!……あ、ああ、ありがとう。自由に飲んでいいなら、後で……。」
突っ込み終えたエイルは、俺に向かって言うことには、何か口にしたいなら。
真水製造機とやらから、直接飲むことになるけどねと言ってくれはする。
……一応、ありがたくその言葉を受け取っておくことにした。
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