12 お酒で乾杯!つまみには、自己紹介を
どうやら、食べ物のこととなると、先走る性質らしい。
「あいつが行きゃ、ま、多少のんびりしてもいいわな。のんびり行こうぜ?」
「……そうなんだな。」
多少のんびりできると言われるものの。
しかし、根拠が分からないために、俺は頷くしかない。
そうして、案内されて歩きつつ。
「……。」
やはりちゃんと動く身体に、不思議ささえ思う。
故に、身体をちらちら見たりして、様子を確認したりして。
「?……おぃおぃ。やたらと不思議たがり屋だな!」
「!……あ、悪い。」
そんなことをしていたら、声が掛かる。
謝りつつ。
「……ちゃんと身体動くな、って思ったんだ。可笑しいかな?」
「はぁ?当たり前だろ?何のために、おめーには足が付いてんだってんだ。生まれたての小鹿よりはっきり歩いているぜ?どこが不思議だ?」
「あ、あ、まあ、そう言われるとねぇ。いやさ、どれだけ俺は眠っていたかな、って考えていたらさ、こんな違和感なく動くのが、逆に違和感っていうか、何と言うか。」
「?変な奴。」
言うと、身体が動くのが不思議として。
なお、動くのは当たり前とされた挙句。
不思議さを語る俺には、変な奴とまで言われ。
「……あはは、何だか変だな。」
つい、照れ笑いをした。
「ああ、まあ、おめーの時間間隔がどれほどか知らねーが、一応サイボーグ化されて、動かされていたから、別に動けないわけでもないだろう?」
「……そうなのか?」
「そういうことにしておけよ。面倒だ。」
「……分かった。」
幼女は、面倒臭そうにしながらも、機械とかがあって。
ずっと動かされていたのだから今更、動けないなんてこともないと。
そういうことに、しておこう。
「……変な奴。」
「……。」
一応、理解に頷きやしたが、幼女は俺のことを訂正することなく。
そう呼び続ける。
致し方ないと、思いつつ、幼女の先導には従った。
そうして、縞模様の女性が向かった先へと進むなら。
「!」
船室の扉が横にあり。
灯りも漏れていて。
「……はぁぁ。こりゃぜってー、〝出来上がってる〟。」
「!」
同じく見ていた幼女は、呆れに頭を抱えて。
どうやら、予想できるらしい。
「……?」
当然だが、俺は予想できなくて、首を傾げるしかない。
「へへ。見とけって。」
「……ああ。」
その俺の様子に、つい可笑しくて笑みを浮かべた幼女は。
まあ、見ておけとばかりに、ニヤリと笑うなら、船室の扉に手を掛けた。
開くなら。
「!」
俺がいた部屋よりも広く、……あの医務室みたいな部屋3室分あるか、ほどで。
かつ、横の端には。
大きなベッドが一つと、大きなテレビか、モニターか、壁に埋められている。
反対には、冷蔵庫があり。
作動音を響かせていて。
また、部屋中には飲用アルコールの香り漂っていて。
その発生源は、他ならぬ部屋中央に、適当に広げた酒瓶からで。
もちろん、主は先の灰色の女性。幼女が言った通り、出来上がっているか。
アルコールの影響に、顔こそ赤くなってはいないが、意気揚々とした具合である。
方や、咎めるようにか、羨ましそうにか、睨んでいるのは縞模様の女性だ。
「……。」
見て、幼女の言葉に、確かにと頷いた。
「なっ?」
「ああ。」
重ねるように言う。
それこそ、その通りだと。
もちろん、重ねるように頷く。
「うしゃしゃしゃしゃ!!!気晴らしサイコー!!」
「……。」
傍ら、灰色の女性がそんな声を上げるものだから。
出来上がりは確定、おまけに、面倒臭い状況を予感し、頭が痛くなった。
「あ?!トール!!離せ!!あたしの秘蔵のつまみだぞ!!!」
すっかり酒の席にあって。
縞模様の女性は、灰色の女性の持つ、つまみが気に入ったのか。
取ろうとしている。
争いがちであり、灰色の女性は、諫めるように言っていた。
「!!お!新入りのフェンリル君が来たー!!!うぇぇぇい!!!」
「!!……俺のことか?」
俺は見ていると、灰色の女性は、気付いて。
さも祝うように乾杯と、何かの酒が入れられたジョッキを高々と掲げてきた。
……が、違和感ある名前に、俺のことかとつい思ってしまうが。
それよりもと。
「あ、あの、それよりも。……さっきは悪い、ごめんよ。不本意に、吹っ飛ばしたりしてさ……。」
謝ることで。
さらには、頭を下げて。
「……?」
「……みっ?」
「……あれ?」
……が、キョトンとされてしまう。
何だか、俺が間違っているような気がしてならない。
「あんのことだ?」
「……ええと、あの……。」
だからか、灰色の女性は、何のことかと聞いてくる。言葉に詰まってしまった。
「……だからその、さっき吹っ飛ばしたことで……。」
「……あ~……。あれ?……忘れた。何のことやら。」
「……。」
たどたどしく紡ぐなら、吹っ飛ばしたことだとして。
しかし、当の吹っ飛ばされた相手は、何のことやら、首を傾げるばかり。
そんな様子に先の言葉が無意味だと思えてならない。
「……!」
と、横から誰かから肘で小突かれて。見れば、先の幼女。
「な。」
「?……!……確かに。」
呆れながら、ただそれだけで。
最初は何事と思っていたが。
先の先、着替える前に言われたことを思い出せば、確かにと頷いた。
言われた通り、忘れた様子。
気にしてもいない。
「……つ~かさ~……。んなことよりもよぉ~……。酒飲んでんだから、ここは湿気だらけのしんみり話よか、もっと別の話しよ~ぜ?なぁ……。」
「?!えぇ~……。」
そんなことよりもと、灰色の女性は俺の顔を覗いてくるなら。
もっと別の話をしようとさえ言われる。
翻って……としたいところだか、生憎と俺は困惑に、思考が停止していた。
「おぃおぃ……!何だよ~……。器用じゃね~な?ちょぉぉぉっと考えて、切り替えれば済むじゃね~かよぉ。ほらさ、身の上話とか、色々~……。」
「!……ぬぅぅ。」
その、思考停止に、ポカンとしそうな俺に、灰色の女性は言ってきた。
切り替えてから、どうにかこうにかと。
言われて俺は、……不器用さを指摘されたと、悔しくも思えてならない。
「んな顔するな!……しゃーねーから、このあたし、ヴァルキリー姉さんが何か話してやるからよ!」
「!……。」
そのような顔は、この場には相応しくないとされ。
代わりにと、灰色の女性は自ら買って出るらしく。話を始めようと。
「まあほら、初めましてなら、これだろ?」
「!」
話を始めるにあたり、採択されたのは。
何を言うかと、聞き入るように見据えると。
「あたしは〝ヴァルキリー〟……って、呼ばれてる。ああ、元となった肉体は、獣人の猫の人で、タイプ〝ノルウェージャンフォレストキャット〟。まあ、その、神話からそう名付けられたってな、よろしく!ああ、ヴァルでもいいぜ?」
「!」
自己紹介であり。
灰色の女性こと、ヴァルキリーは言ってきた。
言ったうえで、ヴァルキリーは盃を掲げてきた。
酔っ払いよろしくな、様子である。
「んでんで!こいつ……。」
「!」
続けては、他の人を紹介するらしく。
挙げられたのは、縞模様の女性のよう。なお、大人しく聞いているわけでもなく。
その女性は。
ヴァルキリーこと、ヴァルの手から、つまみを奪おうとさえしていて。
食い意地は張っているとか、まさしく。
「……あたしの食い物奪うなって!!!……ったく。」
「……。」
苛立ち交じりに、ヴァルは悪態つきつつ言っては、手を突き出して、制す。
……ものの、力強いか、相手はそれでもギリギリと詰め寄ってはいる。
「……こいつは、〝トール〟!!……食い意地張ってやがる、超絶食いしん坊で、食い物のこととなると、こうなる奴!!あ、てめぇ!!!……無口なくせに、感情はあって、だな……!!や、やめっ!!!ああ、種類とか?!猫の人で、モデル〝メインクーン〟だとか!!あ、ゴルァ!!……ぬぐぐぐ……とらりた……。まあ、とにかく、こいつはほとんど口を利かない奴だからな、お喋りは期待しない方がいいぜ。はぁぁ。」
「!……分かった。」
紹介を続けるなら。
詳しくといった具合なのだが。
途中途中、縞模様の女性……ヴァルが言うには。
トールとやらは、ヴァルからつまみを奪おうと争っていた。
挙句の果てには、とうとう奪われて、ヴァルはしょげて。
しょげた感じながら、説明だけはして。
付け加えて、無口な人らしく、あんまり喋らないでいると。
そのため、トールとやらのことを詳しく知ることはできないでいた。
ヴァルは溜息をついて、最後はがっかりしている。
「……んで、次はお前の隣にいるそいつ、そのチビ。」
「あ?!誰がチビだ?!」
「!……。」
そうであっても、この流れだ、紹介は続けるとして。
次に紹介されるのは、先ほどこの部屋まで案内してきてくれた、幼女のことだが。
紹介に際して、まず、といった先に挙げられたのは、蔑称のような感じであり。
言われて幼女は怒り露に、今にも掴み掛らんとしていた。
喧嘩する流れじゃないのでは?放置気味にされながらも、傍らそう思う。
「……そのチビだが、エイルってんで。猫の人、モデル〝マンチカン〟だか、何だか、まあ、チビだ。」
「エイル〝様〟だ、ゴルァ!!〝様〟付けろよ、ヴァカリキー!!」
「……。」
……仲は大層よくないようで。
ヴァルは煽るように続けては、幼女をそう呼ぶ、エイルと。
なお、本人はそれだけで呼ばれるのは不服らしく、様付けを要求してきた。
「……んで、そのチビだが……。」
「無視すんなやゴルァ!!!」
「?!えぇ?!」
なお、ヴァルはエイルのことはスルーして。紹介の続きをして。
そのスルーっぷりに目を丸くしてしまう。
エイルの叫びと。
怒りの威嚇空しく響き。
「……侮っちゃいけねぇ。そのチビの頭にゃ、沢山の知識が詰まってんで。色々なことを知っているから、聞きたいことがあるなら、そのチビに聞くといい。ま、こいつも口にしてはいるが、身体は子ども、頭脳は大人ってな?」
「!……分かった。」
「チビチビ言うなー!!!」
「……。」
詳しく言ってくれるが、口は悪く。
けなしこそしていないが。
紹介?された本人は、やっぱり気に食わず、子どものように地団駄を踏み。
見ていて、どうとも言えなくなる。
「ま、チビのことはどーでもいいや。必死になって、牛乳でも飲んでいるだろうが、無駄だろうけどね。」
「うがぁー!!!」
「……。」
そのエイルの必死な様子も、スルーされて。
怒りに、吠えていた。
相変わらず、こちらは何とも言えないでいるが。
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