9 思い出は小さくコンパクトに

 「……!……あとは、これだけど……。」

 頭を抱えた際に、自分の持っていたパソコンが目に付いて。

 紡ごうとするなら。

 「……これ、このノートパソコン。何だか、俺が持っていた時とは若干……いや、大分違うような気がするんだけど、どういうことだ?誰か、詳しい人説明して?」

 このパソコンの話であり。

 外側はほとんど同じだが、まず目に付いたバッテリーが気になっても。

 灰色の女性が、俺の大切な物品を覗き見しているのなら、これもあるいは。

 「……。」

 喧嘩している二人に言うのは、無駄だろうと思ったが。

 「!」

 しかし、聞いてはくれていて、現に、猫の耳が跳ねていた。

 「!……ああ!元は低スペックだった奴?!」

 「?!ちょ……!!!!」

 口を開いたのは、幼女であり。

 いきなり酷いことを口にしてきた。

 「よせよせ!あんなの。エイル様から見たら、エイル様の矜持に反するわ!んなことより、単に復元するだけじゃ面白くねーから、CPUとやらをハイテクに換えといたし、他記憶装置も、色々といじらせてもらったぜ?小型のスーパーPCだぜ!あ、スフィア搭載で比較的、長期間動かせるぜー!」

 「?!はぁ?!えっ?!なっ?!……まさか……っ!」

 幼女は続けては、詳細に言ってくれるが。

 最初、戸惑いにあたふたしていたが、よくよく考えて。

 やたらと詳しく言っていることから、弄ったのはこいつに違いない。

 確信するなら、軽く苛立ちまで感じる。 

 そもそも自分の矜持だのが合わないからとして、断りなく改造するなんて。

 何て奴らだ失礼にもほどがある。

 「何てことを……っ!大切な思い出だって、入っていたのに!!」

 弄られているなら、データだって。

 そう思うと、苛立ちから、怒りに変わってしまう。

 「あ!データは無事、コピーして、復元してあっから。まあ、何だ。要するに、素敵な思い出は無事ってことで……。ほらさ、大事なのは、思い出だろ……なんつって!」

 「?!……むぅ……。」

 喧嘩中ながらも、幼女は答えてくれるのは、データとかは無事らしく。

 言われると、怒りも多少は収まりはした。

 「……。」

 ただ、多少であって、まだくすぶってもいる。

 事と次第によっては、再燃もしかねない。

 その懸念することは、残る問題。

 お守りみたく、大事にしていた水晶玉だ。

 「……まあ、データを覗いたことに対して、……とやかくも言いたいが。まだ気になることがある。俺のお守りみたいな水晶玉は?」

 「あ?!」

 「あぁ?!水晶玉?!知らねー!」

 「……!」

 データや思い出やらを覗いたことを、咎めたくはあるが。

 それ以前にとして、俺は問うてみるが。 

 2人同時に声が上がるものの、灰色の女性は知らないと言っていて。

 その答えに、喪失感と共に、怒りが湧く。

 「……何だと!!あんたら、さっきから人の思い出覗き見やら、コメントやら何やら、言いたい放題言ってやがってさ!挙句、大切していた物は、失ったとでも言うのか!ふざけているのかよ!!」

 声を荒げて、大切なお守りを失ったことに、つい声を荒げて。

 「ああ?!ふざけているも何も、あたしは元からこうだ!!」

 「エイル様もだぞ!ふざけてない!!後、知らないものは知らない。!……いや。」

 「?!何を……!!……んっ?」

 もちろん気に障る。

 荒げて反発してはいるが、二人はいがみ合ったまま。

 こちらに見向きもしないし、どうも俺のことなんて、ほとんど眼中にない。

 そんな様子に、ますます腹を立てそうだったが。

 幼女がふと、何か該当することがあるようで。

 言葉遮りに、視線を逸らして、天井を見つめる。 

 それは、灰色の女性から見れば、隙になるのだが。

 体や、いわゆる機械のバックパックは別で。

 きちんと相手を見据えて、隙を見せないでいる。

 思考とは別に、動かせているというのか。 

 大したものだが。

 何よりも、気になるのは、その言い切り、言い残し。

 耳を傾けるなら。 

 「……エイル様が知っているのは、〝本物〟と共に消失したということだな。その、もしかしたらだが、おめーのお守りの水晶玉は、スフィア化して、本物と共に、どっか別の所に行った可能性があんぜ?行方不明ってこった。」

 「?!……行方不明?……〝本物〟……?!」

 こちらには向かないまま、冷静に言うことは、いわゆるスフィア化なる現象によって、別の物になって。

 〝本物〟と一緒に行方不明だと。

 しっくりこない。

 俺は、言葉を反芻して、首を傾げて。

 〝本物〟とは、何だ?

 「どういうことだ?〝本物〟って?」

 「あぁ?!分かんねーのか?読んで字のごとく、オリジナル。おめーの持つのは、いわゆる〝レプリカ〟だ!さっき言ったろ!〝復元〟してあったって。つまりは、そういうことだ!」

 「?!」 

 幼女が言うことには、つまりはオリジナルとレプリカ。

 だとするなら、俺が手にしているのは、〝レプリカ〟だと。

 言われて、ぎょっとして。

 「……。」

 すぐに、悲壮を感じてしまう。

 俺の思い出が、……〝複製〟された物だとすると……。本物と同じかもしれない。

 だが本物ではないという突き付けは。 

 いたたまれないほど心に突き刺さろうとしてきた。

 本物か模倣品か、問いにいたたまれない状態にあって、だが、認めたくなくて。

 誰かの、言葉をつい求めてしまう。

 慰めに、誰かの言葉を。

 悲壮に顔を落としたが、上げて見ても、先の二人は喧嘩を続けたまま。

 誰も慰めの言葉をくれやしない。

 いがみ合って、喧嘩口調をひたすら続けて、飽きずになおも。 

 「……はぁ。」 

 誰もいないか、優しい奴は。

 ここまで聞いても、どうも優しそうな人はいないみたいだからね。

 諦めに、溜息も出てしまう。

 「……!」

 と、思ったのだが。

 誰かが俺の頭に手をやって、優しく撫でてくる。 

 そっと顔を上げて、見渡すなら。

 俺の横から、手を出して撫でている、縞模様の女性であった。

 バックパックも持ってきてくれたし。

 加えて、優しさを示してくれる。 

 「……みっ。」

 「……?」

 俺が優しさに、少しだけ気持ちが戻ってきたところで。

 縞模様の女性は手を放して。

 そっと、自分のスーツのポケットに手を入れるなら。

 軽く何かを探して。やがて、見付けたか、そっと握り締めて、取り出し。

 「!!」

 「……みっ!」

 俺に手渡しては、笑顔を添えてきた。

 取り出して、手渡してきた物とは。

 広げて、俺の手に載せ、離して、その姿を俺に晒してきた。 

 スフィアである。

 大きさも、俺が喪失したと思っていた水晶玉と同じ大きさで。

 ただし、質感が違うため、完全に一致とは言えない。

 これを渡す、その意図は、意味は?

 「……?」

 なぜこれを渡すか、よく分からないでいて、つい首を傾げた。

 「!」

 もしかしたなら、慰めに渡したのかもしれない。

 俺は顔を上げると、そっと頷いては。

 「……あ、ありがとう。」

 お礼を言った。

 「……んみっ!」

 その女性は、何も言わず、にっこりと笑みを浮かべるだけで。

 「……。」

 ただ、何も言わないのは、不思議に思うが。

 最初から、ここまでこうとは、何か理由がありそうだが。

 何も言ってくれなさそう。

 問うことは、ここではしないことにして。

 手渡されたスフィアをしげしげと見つめた。

 俺の持っていた、水晶玉と似てはいるが。

 透明度も、非常に高く。

 何よりも、傷がほとんどない。 

 俺の持っていた水晶玉と似てはいても、傷がほとんど見られない。

 そこが、相違点であるか。 

 見つめていたなら。

 「!」

 そっと、縞模様の女性が顔を覗かせてきて。

 どうしたのだろうかと首を傾げる。

 「……!んみっ!」

 「?」  

 俺がずっと見つめていることは。

 何か分からないことがあるのだと思ったか。

 アドバイスとして、両手を合わせたり、開いたりする仕草を見せてきた。

 「……?」

 その仕草、何を示しているのか分からず、首を傾げるが。

 加えて、そのスフィアを指さし。

 そして、さもそこにスフィアがあるように、手の上を指さす。

 もし、スフィアがそこにあるなら、手の平に載せている形に見える。

 その状態で、手を閉じて、開いた。

 「……みっ!」

 小さく鳴いては、さも、やってみてと促してもいるよう。

 「……分かった。」 

 促すなら、やってみるかとして。

 そっと、スフィアを包むように手を閉じた。

 「?!」

 すると、体に大電流が走るような感覚がして。

 飛び退きそうになるが、耐えて、開くなら、眩い光が部屋中に溢れて。

 「?!あ、熱い?!……体も?!」

 さらには、熱を感じ。 

 挙句、自分が自分の体から離れるような不思議な感覚もある。 

 「?!何だ?!」

 肉体から離れた感覚のまま、光の手のようなものが、体から現れては。

 そのスフィアを包むようにして。

 合わせてか、俺の眼前に、大切な物たちが浮遊していく。

 それらが、光に包まれて、溶けて。

 「?!ぐぅ?!な、何で?!何が?!」

 何が起こっているのか、理解できない。 

 ただ、自分の思い出たちが、光に溶けていっているとしか。

 「……?!」

 激しい発光が、収まっていくなら、次第に形を象っていく。

 分厚い、本のような……何か。

 発光もやんでいくなら、……何だろうと形容できない物があった。

 本のような?機械。

 一応、中心にはスフィアだろう、水晶玉があしらわれているが。

 不可思議なのは、勝手に浮遊していること。

 「……?」

 何事と、まず思ってしまう。

 「……!」

 次には、不安にもなる。

 先ほどまで、俺の側にあった、大切な物たちはいずこと?

 「……!うっ?!」

 と、そんな時に、清らかな音色が響くなら、仄かにその〝何か〟は発光して。

 途端、頭に軽い痛みが走り、つい押さえて、顔を歪める。

 《おはようございます。私の名前は〝アイギス〟です。防衛行動を始めます。AWSドライブ。》

 「?!って、な、何がっ?!何をっ?!何で喋って?!」

 その〝何か〟は勝手に喋りだして。

 原理だって、分からないし、何をするのかも分からない。

 勝手に何かしては、何と、自身から、羽を広げるように、透明な板を展開して。

 その板が、自身と同じように発行を始める。 

 「?!あ?!」 

 「?!え?!」

 その光景には、喧嘩をしている2人も、ぎょっとして。

 俺とその機械の何か……。

 確か、自分で〝アイギス〟と名乗っていたな、に注目してしまう。

 喧嘩も、その時はやめていて。

 「?!〝マキナ〟?!どうやって……?!」

 「んなことより、あたしゃ、嫌な予感がするぜ?!」 

 「!」

 その際、俺に背を向ける形になるが。

 気付くことはあって。取っ手……になりそうな出っ張りがあることから。

 確かに盾として使えそうな感じで。

 なお、大きさ的には、守るには心許ないほどの大きさ。

 せいぜい、腕を守るので手一杯だろうな。 

 そんな物であるが、その盾は、……何をするか……。

 《フォトンレーザー、発射。》

 「?!」

 静かに言うなら、軽く煌めきを相手に見せて。

 衝撃と音と共に、……大きなレーザーが照射された。

 「?!あ?!」 

 「?!え?!」

 それも、二人同時、目掛けて。

 「?!あぎゃぁぁ?!」

 「?!うぎゃぁぁ?!」

 「!!」

 なお、衝撃を伴うものらしく。

 結果、喧嘩していた2人は、壁まで吹っ飛ばされてしまう。

 同時に変な叫び声も上げて。

 およそ、人が衝突したらただでは済まないような、派手に大きな音を立てるが。

 《敵性分子は未だ健在。排除します。出力増強。フォトンレーザー、再充填開始。》

 「?!」

 冷淡かな、その盾は。

 相手が完全に倒れていないと、どうやって知ったかは分からないが。

 知ったなら、再び攻撃をするらしく。 

 俺は、まずいなと思ってしまった。 

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