8 思ひ出ばればれ
「まあ、あんだ!ハッピーに生きようぜ?」
「!……か。」
幼女は、複雑な俺に掛ける言葉として、幸せに生きようと促すことで。
俺は、まだ残る皮肉に、やはり素直になれないでいるが、微かには頷いた。
「……それと、だ。そろそろこいつが復活するだろうからな……。ほいっと!」
「?!」
もう、これ以上言葉を掛ける必要はないとしてか。
幼女は次に何をするかと思えば、準備だろうか?
ただ、それにしては宙に対して、ただ手をかざしただけだのだが。
何だろうかと、つい注目してしまう。
「!」
と、幼女の手に収まるように、何かが宙を飛び、向かってきている。
注目すれば、金属製の、何やらゴテゴテしたバックパックのようだが。
……もちろん、何が何だか分からないでいて、呆然としてしまう。
幼女は、それを軽々と持ち、白衣の上から背負って向くが。
「?!」
それは、俺にではない。
ベッドの側にて、だらりと力なく倒れ込んでいる灰色の女性であり。
何が怒ろうとしていたのか、先ほどは何が起こったのか。
疑問が次々と沸き起こり、混乱しそうになる。
「あ?このバックパック?いいだろ~?エイル様自慢の、特性バックパックだ!」
「!……じゃなくて、どうやって呼んだんだ?それと、何が始まるんだ?」
「何だよ。バックパックに見とれていたんじゃねーのか。」
俺の視線に気づくなら、自慢げに見せてくるが。
なお、俺が聞きたいのはそれではなく、どうやったのか、何が起こるのかであり。
耳にしたなら、残念そうに肩を落とした。
「さっきも言ったろ?慣れれば、スフィアがある物なら、飛ばすこともできるって。んでこれが、その例だよ!」
「!……そっか。」
俺のさっき聞いたことの、最初の部分はそう言って。
スフィアとやらが搭載されているのだからと。
まあ、なるほどとして。
「んで、次に。エイル様が向いたのは、こいつが復活すっからだよ!このヴァカリキーがな!……見てな?」
「!」
次には、灰色の女性を指して言うなら、復活すると。
合わせて、視線を向けると。
「……っ!」
「!!」
強く、短く息を吐く音が聞こえたなら。
ぎりっと歯軋り一つ、聞こえて。さらには、シーツを力強く握り締めもする。
「えぇええええいいいいいいいるぅううううううう!!!!」
「?!何だこの声?!ひぇぇ?!」
やがて顔を上げたなら。
鬼の形相とは、かくなるものかというほどの、恐ろしい形相をして。
かつ、口を開くなら。
地の底から響いてきそうなほどの、おぞましい声。
口にしたなら、口は大きく開かれ、牙を剥き出しにしたかのよう。獣のそれだ。
その形相に、つい俺は悲鳴を上げてしまった。
灰色の女性は、そうして、体を屈めて。今にも飛び掛からんとして。
「!」
反対に、飛び掛かられる側の幼女は、軽く鼻で息を吐いたなら。
背中のバックパックを起動させては、大量の機械の腕を、そこから出現させた。
その様子には、なかなかハイテクだなと一瞬感心を示すが。
すぐに灰色の女性の気迫に掻き消されてしまう。
「かかって来いよ、ヴァカ!」
「言われなくてもだぁああああ!!!このクソガキ!!」
「!!」
普通、怖気付くはずが、幼女は平気そうにして、逆に煽って。
合わせてか知らないが、灰色の女性は飛び掛かる。
凄まじい激突具合。幼女であれば、すぐに組み伏せられるだろうと。
すぐに感じて、顔を背けるが、組み伏せられるような。
叩きつける音は聞こえず、逆にギリギリと軋む音が響く。
視線を戻せば。
体格差が大きいはずなのに。
幼女は灰色の女性の拳を、機械の腕で受け止めていた。
どうやら、あのバックパックで体格差を補っているということか。
「ぬぅぅぅぅ!!生意気だぞクソガキ!!!あたしに技を決めといてからに、反撃を与えないなんてなぁぁぁ!!!」
「たんめーだ!!ヴァカリキー!!!おめーはそうやって言葉より手を早く出すからな話になんねーんだよ!!!こうでもしなきゃ、静かに話もできねーし、おめーはすぐにエイル様をボコボコにすんだろうが!!!」
「ボコボコにしてわりーかぁ?!おぉ?!あたしを羽交い絞めにさせといて、軽く天国に行ったぞゴルァ!!!!落とし前つけさせろやぁぁ!!!」
「やだねー!!!!」
「……!!な、何でぇ?!」
そうして、手が使えないなら、口で攻撃を互いに始める。
あからさまな喧嘩だ。それも、およそ女性らしからぬ、酷い口調であり。
灰色の女性が酷い形相なのは、相変わらずだが。
幼女も幼女で、対外酷い形相で、見せられたものじゃない。
こんな状況故に、何でまたと、混乱を示す。
いいや、それ以前に、俺は病人のはずで。
にもかかわらず、目の前にしても気にすることなく暴れて回るとは。
迷惑この上ない。
いや、頭に血が上った彼女らに、迷惑だと言っても通じないだろう。
「!……ぬぅ。」
話が通じなさそうな状況に、どうしようかと迷ってしまう。
両方見て、何かきっかけをと探せば、幼女のバックパックに目が行く。
「!」
見ていて思い出したのは、俺のバックパック。
色々と大切な物を入れていたはずのそれは、どこに?
「あ、あの……さ。今更気づいたんだが、俺のバックパックは……?」
相手が今にも暴れんとしている状況にて、俺は何を言うか。
我ながらおかしいが、ただ、このまま何もしないのも悪く。
何より、こう、副次効果として、喧嘩を止められたなら、いいかなとも思った。
「やるかぁぁぁ?!!」
「やってやんよぉぉぉぉぉ!!!」
「なぁぁぁぁぁぁおぉぉぉぉぉ……!!」
「ふしゃぁあああああああああああ!!!!」
「……聞いていませんな、これ……。」
なお、俺の質問は見事にスルーされて。
二人は、思いっきり咆哮してしまう。
怒りの形相はそのままに、さらに咆哮まで加わるなら、つい身を竦ませてしまう。
「……。」
どうしようという状況に、救い求めキョロキョロしてしまうが。
「……?!」
なお、もう一人いたはずなのだが、側にいたもう一人、縞模様の女性がいない。
どこへ?
「……みっ!」
「!!」
そう思っていたら、いつの間にか別方向にいて。
それも、先ほどとは反対方向で、俺に近い場所に。
おまけに、俺の求めている物も携えてもいる。
いつの間にという、その素早さにぎょっとするが。
しかし、俺の欲しい物がその手にあるという状況に。
驚きよりも、安堵が勝ってしまう。
そう、その灰色の女性が手に抱えていたのは。
まさしく俺が崖より飛び降りる時に背負っていたあの時の、バックパックであり。
大切な、想いでの品々が入っているであろう物。
それを、縞模様の女性は、どこからか持ってきて。
俺に渡すように向ける。
「!!……あ、ありがとう。」
「……みっ!」
「……あんまり、喋らないんだ……。」
お礼を言って、受け取るなら。
縞模様の女性は、静かな鳴き声を上げて、にっこりと笑った。
笑ったが、言葉がない。それは今更ながら気付いたことだが。
そこは、その人の特徴だろうか。
何にせよ、大切な物なのだ、持ってきてくれてこちらこそ、嬉しく思う。
「……。」
手に取った際の重量感も、あの時と同じ。
ならば、思い出の品々も、全て、あの身を投げ出した時と同じままに。
思って、俺は手にしたバックパックの口を開き、中身を表に出そうとした。
「!」
手に当たって出したなら、やはりで。
引きずり出して、外に晒すなら。
全て、一つの物品と一緒に出てきて、……しげしげと、懐かしむように見つめる。
見れば元気が出た、俺のお気に入り。
アニメやゲームのポストカード。
かつて、一世を風靡した、ネットブック、確か、有名なメーカー製の物で。
〝NN100〟。
「……?」
その次には、大切なはずの、水晶玉がない気がする。
青い星を反射する、あの水晶玉はいずこ?
そこには首を傾げてしまう。
ただ、お守りのようなそれはさておいて。
他の大切な物はこの手にあるのだから、安心してしまう。
「?!」
……と思ったのは早計だ。
例の、NN100をよくよく見れば、どこか差異がある。
……でかいバッテリーが搭載されている代物だが。
そのバッテリーの部分に違和感が。
……そう、バッテリーの真ん中部分に、水晶玉が埋め込まれているのだが。
どういうこと?
つい、首を傾げてしまう。
「おぉ?!思い出に耽ってますかぁ?!」
「いいねぇ!!大好きだねぇ!!思い出話!!!!」
「?!」
俺と縞模様の女性が戯れているような状況にて。
2人して、ある意味戯れている状態の他の二人は、口々に言ってきて。
興味がこちらに移ったかとも、思いやするが、そうではない。
こちらに言葉を向けただけで、顔は互いを見て、いがみ合っている。
とても、喧嘩を終えたとは言い難い。
そんな状態であっても、こちらに言葉を向けられるとは。
ぎょっとしてしまうものの、器用だとも感心する。
「……まあ、そうだけど。」
言われたことに否定することはなく、俺は頷いた。
「あれだろ~!!!そこの漫画っぽいような、アニメっぽいような奴が描かれた、紙切れ!!あれの中にある、そうだな~、ビストっぽい姿の奴ら?何々~!お前の所でも、そういうの好きな奴いるんだ~!!って!!エイル!!何これ幸いと、力を入れて!!このクソガキがぁ!!」
「?!って、待て!!見たのかあんた!!!」
そのまま、感傷に耽るのも良かったのだが、状況がそうさせてくれない。
感傷に茶々を入れるように、灰色の女性が言ってくるなら。
どうも、俺の思い出の品を見たとしか言いようがない発言をして。
またまた、ぎょっとして、睨み付けるように見てしまう。
加えて、顔が赤くもなった。
……なお、尻目に喧嘩を続けていて、俺なんて眼中にない。
「いでで!!くそっ!!それはそうと……。んで、あれだ!!その獣人みたいな奴ら、つえーのか?!なあ、あたしを喜ばせるぐらいに……!ぬぐぐぐぐ!!!!」
「?!」
そうであっても、俺への会話は忘れない。
器用なことでもあるが、何を聞いているやら、俺はよく分からないでいる。
「いや、知らない……!!その、アニメのキャラクターがどんなに強いかって、まして、あんたらがどんなに強いのか知らないんだ!」
「ちぃぃぃ!!つまんねー!!!んじゃま、エイルの相手しますかね!!」
どちらにしろ、知らない。
片方はアニメや漫画の話で。
片方は、そもそもこいつらの実力とやらを、知らないと。
耳にしたなら、灰色の女性はつまらなさそうな顔を浮かべるが。
こちらに向けやせず、ただひたすら幼女に付き合ってもいた。
「……だがそれ以前に、だ!人のを覗くなんて、何て奴だ!プライバシーの侵害だぞ、このっ!!」
それ以前にと、俺は言いたいことを言う。
プライバシーの侵害だと。
何の躊躇いもなく、人の大切な物を覗くなんて、どう言う神経をしているんだ。
「はんっ!プライバシー?何それおいしーの?」
「……ダメだもう、通じない。」
言いたいことを言ったが、灰色の女性には通じていない。
何食わぬ顔で、ズケズケ言っていた。
その様子には、頭を抱えるしかない。
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