7 光るだけじゃない

 「……光るだけじゃねーぜ?」

 「?!」 

 幼女は、だが、これで終わりではない。

 マジックは、続く。予感させるように、笑みを浮かべては。

 スフィアとやらを載せている手を、俺の目の前に持って行くなら。

 「!」

 それを、そっと宙に飛ばすなら、水晶玉は浮遊する。

 投げられた飛行ではない。

 羽のように。

 ふんわりと、重さを感じさせないように浮遊する。

 およそ、水晶玉とは思えない。

 「……な、何で……?」

 その不可思議に、俺はただぽつりと呟くだけで。

 「へへへっ!マジシャンが種を明かすかっつーのっ!」

 幼女は、不思議そうにしている俺に。

 答えとしては、マジシャンが種明かしなんてしないと言うが。

 「……ま、エイル様も知んないんだけど。」 

 「……えぇ~……。」

 そのまま、不思議は不思議のままであればよかったのだが。

 事実、何で飛べるかは幼女本人も分からないとして。

 マジシャンとやらで言うなら、何かこう、ダサい……。

 そんな終わり方に、がっかりと肩を落とす。

 「ま、よく分かんねーが、不思議と宙を飛ばせるってこった。ちなみに、応用すると、スフィアが搭載されている物なら何でも宙に浮かせるし、呼び寄せることもできる、ということもできるのさ。」

 「!……はぁ、またそれはSFな……。」

 ここでもそうだが、よく分からんが。

 宙を浮かせるだけじゃなく、自由自在に動かすこともできると、続けては。

 俺は、聞いて、その様子から想像するなら、どこかのSFを思い出すと呟いた。

 「……で、話戻るが、そんな代物を、エイル様たちは体内に持っていて、で、その素晴らしい力を貰っているから、不死身になれたってこった。」 

 「!……そ、そうなんだ……。……。」

 そのSF的な何とやらは置いておいて、話を幼女は戻すなら。

 とにかく、そんな力を持つ水晶玉を、体内に取り入れて。

 活性化させることによって、不死身になれたと。

 何だか、よく分からないが、頷くしかない。

 「そんで、そんなスフィアを体内に持って、不死身になって暴れて回るのを、みーんなモンスターだって、呼ぶのさ。合点がいくだろ?」

 「……まあ、そんな不死身の存在なら、確かにね。」

 その、スフィアなる物を体内に持ち。

 不死身となった存在が、戦場で暴れて回れば。

 確かにモンスターだと言われても合点は行くと、幼女は言う。

 踏まえて考えれば、確かにと俺は納得する。 

 「ああ。これはちなみにだが、モンスターの証ってやつ、見せてやんよ。」

 「……?」

 余談話を幼女は付け加えるようで。

 何か思い付いたか、ちらりと、固められた灰色の女性を見ては、ニヤリと笑む。

 その上で、また俺を見ると。

 「……おめー。自分の体の傷、気になっだろ?例えば、不思議な痣のようなものがあるみたいに……。」

 「?……!」 

 何を企んでいるか、分からずじまいだったが。

 幼女が言うことは、傷のことについて。

 気になる傷、……と言われると。

 結構ある気がするために、どれだろうか迷いはするが確かに。

 「……んじゃ、どれだか、教えてやる。トール!」

 では、その証とは。

 そのためにまず、縞模様の女性を呼んだ。

 「……みっ!」

 呼ばれたと、小さく返事をして。

 なお、灰色の女性を締め上げるのを、緩めてはいない。

 「……!」

 だからか、灰色の女性は、やけに静かになっている。

 まるでそう、こと切れたかのように。 

 それは、不安にさせる。

 「トール!見せてやれ、ヴァルキリーの胸元をな!」

 一方で、幼女は気にも留めず、むしろ、縞模様の女性をして。

 無理矢理灰色の女性に対し、何かするようで。 

 「……みっ!」

 言われた縞模様の女性は、頷くなら。

 無理矢理羽交い絞めにしている灰色の女性を。

 引きずり上げて、俺の眼前に晒すなら。

 「!!」

 そっと、服の胸部分に手をやるなら、ジッパーを下げて、胸元を晒すように。

 軽く晒される皮膚だが、胸の形が分かるほどだけであり。

 逆に、胸元の部分をはっきりとは見せられる。 

 見せられる俺は、はっきりと見ないよう、できるだけ視線を逸らしたが。

 完全に露ではないことに、少しだけ安心。

 そうであっても、女性の胸を見るのだと、ごくりと唾を飲み込んだ。

 「……はーっ……はーっ……。」

 「!」

 なお、見せられる灰色の女性は、荒い呼吸をしていて、苦悶に目を瞑っている。

 そのことから、……死んではいなさそう。

 幼女が言う通り、締め上げられてはいるが。

 それこそ、死ぬほど。

 そうであっても、呼吸を示すということは、生きている。

 確かに、死にはしていない。

 「……おぅおぅ。見とれてんじゃねーぞ。ほれ、胸元よく見てみ?」

 「!」

 横から、幼女は言ってくるなら。

 まずは、見とれていることへの指摘であり。

 次には、胸元をよく見てい見るといいとして言ってきた。 

 言われた通り、注目するなら。

 その、胸元には丸い痣があった。

 痣。

 ……もしかしてと、思うなら。

 「……。」

 俺は視線を落として、自分の胸元を見る。

 「……!」

 やっぱりだと気付いた。

 もしかしてという、その理由。

 先も気になってはいたが。

 俺にも、灰色の女性のような痣が、あったのだ。

 「おほっ!よく気付いたな。そうそう。そうだよ。おめーにも同じ痣があんだろ?んでそういうのは、このエイル様にも、そこのトールにも付いてんのさ。」 

 「!」

 なお、言われるよりも早く、俺が気付いたことを幼女は褒めて。

 かつ、自分たちにも、同じような痣があると。

 「……そこにな、埋まってんのさ、スフィアが。んで、そっから全身にエネルギーが回されて、エイル様たちは、それこそ無限に動けるような肉体になってますと。」

 「!……は、はぁ。」

 そこにこそ、スフィアが埋められてあると。

 だからこそ、無限に動けると。

 幼女は告げる。

 俺は、まだ実感なく、生返事をしてしまうが、何とか理解に努めた。

 「んでま、おかげでエイル様たちは、食料も少なくて済むし、ケガしても一瞬で治ってしまうってんで、いつも前線に立たされる兵隊さん、いや、兵器となってます、ってことだな!」

 「!……。」

 やがての締め括りには、だからこそ、兵器であるとのことで。

 聞くなら、……何だか気が重くなる。

 転生?したなら、兵器だったとは。

 我ながら、えげつない運命だと思ってしまう。 

 「!……おぃおぃ!堅苦しそうな顔すんなー!ハッピーになろうぜ?ああ、トール?その腕の中のバカ、解放してやれ!」

 「……みっ!」

 「!」 

 俺は、それ程神妙な顔をしていたか。

 幼女は言って、幸せに考えようと、促してもくる。

 その一環になるか。

 灰色の女性を、解放してと、縞模様の女性に言う。 

 縞模様の女性は、小さく頷くなり。

 羽交い絞めにしている灰色の女性を解放してやる。

 ばたりと、俺の側に倒れるなら。

 「……はーっ!……はーっ!!!」

 灰色の女性は、荒い息を吐き。

 だらりと涎を垂らしながら、シーツを握り締めている。 

 様子から、やはり生きているのは分かった。

 「さぁて!ヴァカリキーを開放したことだし、少しはハッピーになれそうかい?まあ、いきなり〝俺たちゃ兵器だ!〟なんて話、信じる方が無理だろーが。そこはまあ、おいおい慣れていけばいい!」

 「!……分かった。」

 堅苦しい話はここまでにしておこうと続けて。

 また、リラックスするみたいに、幼女は軽くおどける。 

 また、実感が湧かないだろうという感覚についても。

 それはおいおい慣れていけばいいとして。

 ……俺としては、どうであれ、納得するしかないと、頷く。

 「……。」

 思考のために、軽く沈黙しているなら。

 「んじゃ、気晴らしに質問ターイム!色々聞きたいことあると思うから。」

 「!」

 ここでちょっと、気分でも変えようと、幼女は話を切り替えて。

 質問でも受け付けるような雰囲気を出す。

 「ほらほらぁ~!おめーもエイル様たちの仲間なんだかんよ!他にも聞きたいこととかあるだろ?例えば、……ええと、じゃあ、これか……。ほら、エイル様や、そこに転がっているヴァカリキーや、トール以外にはいないの~?とか。ここはどこだ~?とか何とかさぁ!」

 「!」

 ただし、質問タイムだとしても、こっちは臆した状態に変わりなく。

 致し方ないかなと、幼女が促すなら。

 他の仲間とか、どうとかだとか。

 「……じゃあ、仲間とか。……兵器だとかいうのなら、他にもいるのか?」

 その提示された中で、俺が示すのは仲間とか。

 兵器だというのなら、他にもいそうなものだと、疑問が湧き。

 「!エイル様たち以外?いな~い。」

 「うぇ?!」

 即答、それも、全く躊躇いなく。

 躊躇いなく言い切ることには、ついぎょっとして。

 「なぁにぎょっとしてんだよ。まあ、そりゃそうだわな。知らねーからな。」 

 「!……あ、ああ。」

 ぎょっとしていたのだが、それもそのはずと、幼女が代弁して。

 知らないから、即答の意味も分からないだろうと、冷静に言われて。

 俺は、確かにと頷きを見せる。 

 「さっき説明したよな?エイル様たちは兵器だって。だがよ、あくまで簡単に言っただけでな、実際はそんな簡単じゃねー。一つのでっかい問題があるのさ。」

 「!」

 俺が、〝知らない〟ということに対し、何か言うようであり。

 それも、大きな問題らしく。

 「単純によー、スフィアを体内に入れりゃ、ハイ完成、というわけじゃねー。実際は、適合しないといけないのさ。適合しないとな、〝暴走〟すんのさ。」

 「!……。」

 その問題とは、スフィアが適合するかどうかの問題であり。

 適合しないと、〝暴走〟するらしいが。

 ……ただ、どんなイメージか、掴めないでいる。

 「……多分想像できてねーだろうな。」

 「!……あ、ああ。」

 「単純に言ったら、体が耐えきれずに破裂しちゃうか、暴れて手を付けられない状態になるとかなんとか。ほら~……。あるだろ?漫画とかにさ。」

 「!」

 それがどういうことか。

 イメージできないようだったがために、説明を続けるなら。

 体が耐え切れずに破裂したりとか。

 あるいは、それこそ暴走の言葉通り、手が付けられなくなるとして。

 もっともらしく、漫画なんかを引き合いに出してくる。

 「……。」

 なら、想像しやすくもある。

 その、例えば手術で、スフィアを体内に埋め込むとして、その後が問題。

 その後、もしかしたら体が破裂したり。 

 あるいは、暴走したりして。

 危険な状態になるという光景、言われれば、想像できる。

 「……!」

 だとすると、というところで、気付くことがある。 

 そうならなかった俺は、もしかして、運がいいのか?

 「……ひょっとして、俺って運がいい?」 

 「お?!いいんじゃね?だって、基本的にほとんど成功しないから。めでてえってもんよなー!」

 「!!……。」 

 呟くなら、幼女はそうだとして。

 また、俺の運の良さとして。

 この、スフィアを埋め込むという手術自体、成功率が遥かに低いらしくと。 

 耳にして、だが、俺は複雑な顔をした。

 脳裏に思うのは、今までの人生であり。

 それ程、運がよかったとは思えないのだが。

 それが、この、人生を終わる際に、自分が知らない世界で目を覚まして。

 挙句、運がいいと告げられるとなると。

 ……皮肉と、複雑に、顔を歪めてしまう。 

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