6 スフィアって?

 「……は?!え?!」 

 答えは与えられるが、いまいちピンとこない。

 どころか、奇妙にも思える。自らを〝兵器〟、それも帝国の、として。

 それは、矛盾にも思える。

 先ほどの話ならば、帝国は猫耳を生やすような。

 獣人とやらの類を否定しているはずであり。

 何故帝国が、その猫耳幼女やらを使う?

 「へへへっ!その反応、やはり、だな。矛盾している、って顔だな?どうだ?」

 「!……あ、ああ。矛盾しているし、奇妙だ。兵器というのも、妙だし。」

 「ま、簡単に言ったら〝生物兵器〟だな、エイル様たちは。」 

 「……?」

 矛盾は見抜かれていて。

 その通りと俺は頷いて。

 多少根拠を持たせるために、幼女は続けるなら、生物兵器だと述べる。

 が、もちろんピンとこない。

 自らをして、兵器どころか、生物兵器と称するなら、ますます。

 第一、俺が思う生物兵器とは、ウィルスとかを想像するのだが。

 「……まあ、致し方ねーな、そりゃ。」

 「見えないし。体内にウィルスでも持っているのか?」 

 その様子は致し方ないとして、幼女は言い。

 俺は、肯定。

 した上で、体内にウィルスでもいるのかと問う。

 「旧世代過ぎるぞ、それ。制御できない代物を、おいそれと使えるわけねーだろ?んなことすると、敵味方問わず殺すことになる。そうじゃねー。そうじゃねー。」

 「……だとすると……何?」

 「おめーがファンタジー脳を持っているなら、分かりやすい言葉をこのエイル様が選んでやろう。〝モンスター〟だ。おめーがさっき言っただろうが。」 

 「……は、はぁ……。」

 だが、ウィルスを持っているわけでもない。

 ならば何だとしても、しかし幼女が答えるのは、先の〝モンスター〟だとして。

 もちろん、ピンとこない。 

 何度もそうだが、ピンとこない。

 モンスターだと自負しても、いわゆる恐怖を抱く存在には見えない。

 「へへへっ!やっぱり、何度もピンと来てない!予想どーり!んじゃ、根拠を言ってやろう。」

 「!……ああ。」

 「エイル様たちはな、例え火山の中、海中深く、真空中……。」

 ならばと、答えを教えよう。

 幼女は紡いでくる。

 時折、リズムよく、言葉を刻んで。

 「放り出されても死なない。重火器でハチの巣にされようとも、強力な熱戦兵器を使われようとも、生物化学兵器を使われようとも、何をやっても死なねーのさ。それでいて、重火器担いで、歩いて来てみろ?こえーだろ?だから皆、そう呼ぶのさ。」

 「!!……。」

 やがては、所以を告げるなら。

 俺は、はっとして、また、手を顎に当てて、思考に更ける。

 語った恐怖を想像すれば。

 ……どんなことしても死なない様子。

 それは戦地に赴く兵士たちが見たら、恐怖以外の何物でもないだろう。

 それならば、称するのも理解できる。

 「……。」

 なお、3人を見ても、その恐怖を覚えることはないのは残念だが。

 「……だが、本当か?あんたらを見ても、どっちかというと、可愛らしい猫耳娘としか思えないが……?」

 疑問符浮かべながら、俺は言った。

 「ま、そうも思われても仕方ねーな。」

 そこら辺、幼女は分かってもいる。 

 分かって、にぃっと嬉しそうに笑ってきた。

 「かわいーか……。へへへっ!照れるぜ……。」

 「……そ、そう……。」

 俺のコメントに、返しているようだが、やはり嬉しそうに。

 そうかと、それ以上は踏み込まないようにしておく。

 「まあ、その内分かるようになるさ。ここで見せてもいいが、飯をしばらく食えなくなるかもしんねーしな。」

 「……分かった。その内というなら、その時にな。」

 さて、その恐怖を覚える身体能力については、だが、後日ということになる。

 見せてもいいが、どうも気分が悪くなるようなことらしく。

 なら、見るのは別にその時でもいいと俺は頷いた。 

 「じゃ、その秘訣、そのある意味健康体な秘訣、いってみよーか!」 

 「!……ああ。」

 では、その秘訣を説明すると。

 それは、先の、灰色の女性が。 

 普通なら死にかねないほどの組み伏せであっても。

 死なないという根拠に迫るようだ。

 分かったと、俺は頷いて。

 「根拠は、体の中にだな、〝スフィア〟を埋め込んでいるのさ。それを肉体と同調して不死身にしているのさ。」

 「……はぁ。……はっ?!」

 では秘訣はと、述べるなら。 

 〝スフィア〟なる物を体内に持っているからだと。

 つい、なるほどと言いたくもなったが、何だってと途中でぎょっとする。

 〝スフィア〟って、何だ?

 「待った。〝スフィア〟って何だ?」

 まだ続くであろう、話の腰を折るようで悪いが。

 それ以前に、その物体とは何だと聞く。

 「予想どーり。てか、色々知らねーくせに、スフィアだけ知ってやがったら、エイル様驚きだぞ。」

 「……。」

 その質問が来るのは予想通りだと、幼女は言い。

 どうも、遮られて悪いと思っているわけではないようだ。

 「意味は分かるか?」

 「球体か?」

 それが何であるかの前に。

 意味は知っているかと問われる。

 知っている中で、俺の中で該当する言葉は、球体であると。

 「概ね正解だな。だが、ここでの意味は特殊だ。ここでの意味は、ある水晶玉だ。」

 「?水晶玉……。」

 幼女は、意味としては大体あってはいるが、大きな意味は、ある水晶玉だとして。

 水晶玉と聞いて、首を傾げる。

 大層な代物ではないだろうに。 

 第一、そこら辺にあるといった具合に、珍しさはない。

 それを、大それたように言っているのは、奇妙。

 「おめー絶対ただの水晶玉想像しただろ?」

 「!……ああ。……ん?じゃあ、スフィアとは、違う物ってことか……?」

 幼女から指摘される。

 ずばり、そう思っていた。

 その言いようなら、ならスフィアとは違う物ということかと思ってしまう。 

 「おーよ。でなきゃ、ありがたくねー。スフィアってのは、自律振動水晶という物を球体状に加工したものだ。」

 「……自律振動水晶?」

 単なる水晶ではない。

 その正体とは、〝自律振動水晶〟なる物を、球体状にした物だと。

 「……何だそりゃ。全然分からん。」

 俺は反芻するが、全く想像できない。

 クォーツ時計のように、振動するのをまず想像したが、やはり分からない。

 「読んで字のごとくだ。自分で振動すんだよ、外からエネルギーを与えられずに、振動するんだよ。その水晶の中にあるエネルギーで動くってこった。分かった?」

 「!……あ、ああ。……なるほど。……で、それってどういうことだ?原理は?内部は通常の水晶とどう違う?」

 ではスフィアとは、という答えに。

 読んで字のごとく。

 自分で振動する水晶であって、それを球体状に加工した物らしい。

 しかし、では何の原理がと問う。

 外部からエネルギーを与えられず、振動するとは不思議でならない。

 「……へぇー。おめーそういうの気にすんだ。」

 「!!」

 問いへの答えの前に、幼女はにやりと笑み、感心をまず示す。 

 「……気に入りそうだぜ。……っと、話が逸れそうだ。実は原理はだな。」

 「!あ、ああ。」

 気に入りそうであったが、そうなると逸れてしまいそうに。

 そうはなるまいと、幼女は話を戻して。

 原理は何であるかを、紡ごうとするなら。俺は、耳を澄ます。

 「全然分からん。」

 「がくっ!」

 ……その原理とは、分かっていないということだ。

 俺は思わず、倒れそうになる。 

 「まー、そんなに気を落とすなって!別に分からんなら分からんでも、使えるならいいじゃねーか。」 

 「……そういうものか?大丈夫なのか?」

 幼女は、別に原理が分からなくても、使えればいいやというスタンスであり。

 逆にそれは、不安にさせる。

 「いや、大丈夫だぜー?エイル様が知る限りでは。んな、例えば、原子核の分裂を利用するみたいな、原子炉じゃあるめーし。」

 「だとしても、だな……?万が一、暴走とかあったら、大変なことになるとか……あるよな?」

 不安を取り除くつもりで言うが。

 原子炉じゃないのだろうが、そもそも原理不明な物に対して。

 何ら不安を抱かないこの人らは、どこかおかしく思えて。

 まだ、不安はここにある。 

 解消されないまま、俺はまだ続ける。 

 「あー……。そうきちゃうかー……。まあ、人それぞれで、研究者の奴らの中には、不安で不安で仕方ない奴はいたなー。」

 「……ああ。」

 幼女は、俺の不安がる姿を見て、覚えがあるらしくと、多少の理解を示して。

 理解してくれるなら、ありがたいと俺は頷く。

 「……実はなー。これ裏話なんだけどよ?」

 「ああ。」 

 「原理解明までの研究をしようにも、当時は戦争やら何やらで、兵器開発の方に予算が行ってしまっていてな。予算貰えず、研究できないって事態があったんだとよ。まあ、大人の都合ってやつだ!だから今でも、不明。」

 「……なるほど。……大人の、都合……ね。」

 不安解消への効果は薄いが、そもそもの話、原理を解明しようにも。

 研究ができないという事情があって。

 未だになされていないなら、致し方ないとして。

 ただし、その大人の事情という話を、幼女が語るのはいささか滑稽でもあるが。

 表にせず、曖昧に反芻しながら頷いた。

 やむを得ず、そう覚えるしかないようだ。

 「まあ、原理不明で致し方ねーが、実物見せるってんで勘弁してくり!」

 「!……ううむ。分かった。」

 代わりとして、実物を見せてやるとして。

 原理不明にて、不安の解消にはなるかならないか分からないが。

 とりあえず見せて、危険でないということを証明すると。

 腑にはまだ落ちないが、それでならと俺は頷く。

 幼女は、ポケットに手を入れて、軽くまさぐるなら。

 そっと何かを握り締めて出す。 

 「!」

 手を開くなら。

 ……直径20mmほどの水晶玉がそこにはあった。

 「……?」

 だが、見た目からしても、傷も濁りもない。

 単なる透明度の高い水晶玉にしか見えないでいる。

 天然物なら、まあ価値がありそうだが。

 そうであっても、自分で振動して動くとか。

 そんな大それたことを見せつけるものじゃなさそうであって。

 つい首を傾げてしまう。

 「いい顔だな~……。さぁて……。この種も仕掛けもない水晶玉がぁ~……!」

 「!」

 俺がよく分からないとしていたなら、ニヤッと幼女は笑い。

 今から手品でも見せるかのような口上を述べては。

 俺に水晶玉をよく見せて。

 種も仕掛けも、ないと確認させる。

 そうして、水晶玉を包むように手を重ねて。

 「!」

 再び見せた時には、その水晶は光り輝いていた。

 明かりは、光源は他ならぬその水晶から。

 照明の反射光ではない。 

 マジック、それを見せられているかのような、不可思議さに目を丸くする。 

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