3 検査

 「……お~お~。お騒がしいこって。」

 「……みっ。」

 「!!」

 そんな幼女とやり合っている中、聞き覚えのあるような声で。

 誰かが呟いて、扉を開き入ってくる。

 姿を現したのは、女性……だろうか?まだあどけなさは残るが。

 しかし、幼過ぎるわけでもない年齢の人、が二人。

 そうだね、大学生ぐらいの女性?

 ただ、その二人とも、猫の耳が生えていて。

 一人は、灰色、それでいて長い髪。

 もう一人は、縞模様、同じく長い髪。

 それと、着ている服も不思議な物で。

 体にフィットする黒いウェットスーツみたいな物であった。

 潜水士なんてものじゃなく、どちらかというと、軍用の特殊な物のように思える。

 尻尾もあるか、お尻から二人とも見せて。

 たなびかせて。

 「!!おぉ!目ぇ覚ましたって?!」

 灰色の髪の女性は、俺を見るなり、目を輝かせて、入り口から跳躍して。

 ベッドの横に降り立ち、覗き込んでくる。

 「……みっ!」

 縞模様の女性は、同じように、耳をピンと立たせて、跳躍して。 

 灰色の女性の隣に降り、同じく覗き込んでくる。

 「?!」

 いきなり二人の女性から覗き込まれて、心音が跳ね上がり。顔を赤くする。

 モニターしている心拍数も、跳ね上がる。 

 何でまたと、つい身を退いてしまうが、壁にぶつかり、できない。  

 「……。」

 それでいて、灰色の女性は一転、先ほどの喜びようから、冷静に覗き込む。

 「ふぅん……。へぇ……。」

 視線は、やがて嘗め回すようになり、頷いていたり。

 「噛みついたりしてこねー……。んで、ちゃんと肉体を持っている。おぉ。エイル、どうやら成功したって感じだな!」

 「……?」

 何をしたんだ?

 灰色の女性は、何を言っているか分からないが、懸念がなくなったか。

 そっと笑みを浮かべては、逆方向にいる、博士風の幼女に言う。

 「あー?!そりゃエイル様がやってんだ!弾けて血溜まりにゃしてねーぞ?」

 当たり前だと、幼い体つきながら、胸を張る。  

 「おーおー!!流石エイル様様!最強のマッドサイエンティスト。頭脳は大人、体は超ガキンチョ!!ぱちぱちぱち!」

 言われて、灰色の女性は、意気揚々と称賛を送るが。

 どう聞いても、悪口が大半の酷い物で。

 「おめーは褒めてんのか、けなしてんのか!!」

 当たり前で、幼女は激昂、飛び跳ねながら言葉で噛みついてきた。

 「……。」

 俺は、そんな喧嘩の勢いで、身を退きそうに。

 だが、壁でできない。

 せめて、精神だけ関わらないようにする。

 接触すると、こちらにまでダメージがきそうで仕方ない。

 「……(つんつん)。」

 その二人に、縞模様の女性は、無言ながら指で突いてくる。

 「!」

 視線を、俺にも向けて。

 見られて、まさか俺が関わることになると?!

 変に、緊張して、ごくりと唾を飲み込んでしまう。

 「あ?!あんだ?!」

 「あんですと?!」

 気付いたなら、喧嘩しそうな勢いの幼女と女性は、やられてこっちを向く。

 「あ……。」

 「あ……。」

 見たら、勢いが消えて、そう言えばとポカンとする。

 「「……。」」

 ちょっとだけ沈黙しては、二人とも頭を掻いて。 

 「あ~……。わりぃ。暴れちまった。」 

 「ちぃ。ヴァカリキーめ。色々と検査しようとしてんのに。」

 灰色の女性は、平謝り。

 メガネ幼女は、そんな女性に悪態つく。

 「……ん!わりぃ。」 

 「!」

 醜態を見せたと、メガネ幼女はこちらを向くや、謝ってきて。

 「おめー。目覚めたばっかだからな。わりぃな。こんな騒がしい連中で。まずは、状態を確認させてくれよ。話したいこと、聞きたいこと山ほどあると思うが、な。」

 「!……あ、ああ。」 

 醜態はそこまでとして。

 目覚めたばかりであり、検査が必要と、話を進めてくる。

 言われた通り、聞きたいことはあるが。

 そもそも自分の状態を客観的に把握できないとは、何だかモヤモヤする。

 「じゃあ、感覚をテストすっぞ。まあ、寝ぼけていてもすぐ目を覚ますだろうがな。」

 「……?あ、ああ。」

 早速とメガネ幼女は検査を始めるようで。

 どういうことをするか、分からないが、進めてくれるなら進めてくれと、頷いた。

 「感じたら、言えよ?言わなかったら強くしてやっから。」 

 「!……。」

 始める前にと、何か感じたら合図をくれと。なかったら、……強くするらしいが。

 何はともあれ、感覚を調べるならと、頷いた。 

 「じゃ、足先。」

 「!あ、ああ。」

 最初は足かららしいが。

 「?!」

 何をするかと思えば、金属製の棒を取り出したなら。

 「えいっ。」

 「?!いっでぇ?!」 

 思いっきり、つま先を殴った。

 痛みに叫び、一瞬跳ねてしまう。

 「……よしっ!痛覚はある。」

 「……ま、待て!!痛いじゃないか!!いきなり強いじゃないか!!」

 「あ?!そっか?!撫でたつもりだったんだが。」 

 「……?!」

 幼女は確認してはいたが、痛すぎると俺は訴えたが。

 だが、通じていない。

 本人としては、優しく撫でたつもりらしいが。

 「いやさぁ、寝ぼけていたら、感じねーかもだなとな?まあいっか。」

 「……うぅ。」

 頭を掻きつつ、もしかしたら感覚が鈍いからかもしれないという前提のようで。

 俺が痛みに軽く呻ていいたら、そうかと感じ、頭を掻く。

 「んじゃ、普通に撫でるわ。猫を撫でるようにな。」

 「……そ、そうしてくれ。」

 なら仕方ないなとして、撫でるように動かすと約束する。

 「じゃあ、次に膝とかな?」 

 「!……あ、ああ。」

 撫でるようにするからという約束から、感覚検査の続きに。

 膝を見るとして、シーツをまくる。 

 そうして、金属棒を当てるなら、撫でた。

 「!……うぅぅ。」

 金属の冷たい感触が、膝下から伝わり、身震いした。

 「ま、この反応的には、正常だな。」

 「!……そっか。」

 反応を見ていて、正常だと判断。

 頷いてもいる。

  ならよかったと、少しだけ安堵する。

 「んじゃ次は……。……。」

 「……?」

 「おぅおぅ!色んな反応みたいならよ、〝あそこ〟がいいんじゃねーか?」

 「……?……!!!!!!」

 次はどこかと視線を動かすと、ある一点に停まるが。

 その際、横で聞いていた灰色の女性は耳を立てて、こちらに向くなら。

 ついでに指示もしてくる。

 その〝あそこ〟とは? 

 視線を追えば、股間あたり。

 「い、いや~な予感!!」

 嫌な予感がしてならない。

 咄嗟に手を動かして、そこを庇う。

 「おぉ!!今いい反応したぞ!!!正常じゃねーかおい?!あそこっつったら、オスなら大事な場所じゃねーか!!なら、大丈夫じゃね?!」

 灰色の女性は、デリカシーなく言う。

 「あ、なら大丈夫だな!正常な反応だな。」

 「……。」

 デリカシーなく言われて、俺は顔を赤くして。

 一方、幼女は正常だなと納得をしている。

 「んじゃ次は……。」

 「次はあれだろ?オスの機能が正常かどうか。で、誰があいつと〝やる〟?」

 「……おめーはアホか。」

 次はどうするという段階で、灰色の女性が提案したのは。

 ……言いにくいが男女と何とあれとかであり。

 聞いていて俺は、顔を真っ赤にした。

 幼女は呆れて、突っ込む。

 「……んるっ!」

 そんな中、自分がしたいと縞模様の女性が、鈴を鳴らすような音を響かせ。

 手を挙げてきた。

 「……おめーもアホか。」

 見ていて幼女はまた、呆れて突っ込んで。

 「えー?!いいじゃねぇか?やったら分かんだろ?こいつの甲斐性とか。」

 「……それがエイル様たちに有益ならだが、んなの無駄だろうが。このヴァカ頭。子孫残す意味もないエイル様たちにゃ、最も無意味な機能だぞ!ちっとは頭回せ!」

 「えー?」

 「そのアホ面、滅茶苦茶にしてやる!今直れ!ボッコボコにしてやんよ!!」

 突っ込んだら突っ込んだらで、余計に言葉を被せてくる。 

 煽られるような感じでもあり、耳にして幼女はまた、怒りを露にした。 

 「にししししし!」

 喧嘩を買ったつもりであっても、冗談か何かだろうてと。

 灰色の女性はニヤニヤ笑うばかりだ。

 全く動じてない様子。

 「あーくそ!!気が変わった!!この検査終わり!噛んでもこないし、感覚もあんならまあ大丈夫だろうさ!!」

 「……えぇ~……。」

 暖簾に腕押しのような感じであって、動じないことに、腹を立ててか。

 面倒臭くなってか、とうとう幼女は投げ出した。

 それでいいのか?!不安になる。

 「……大丈夫なのか?!」

 不安は口をついて出て。

 「あー?別にー。問題ねーぞ。それだけ不安が口に出たりするなら、まあ、いいんじゃない?後は、思考とか、記憶とかの検査だな。」 

 「……ううむ。」

 口に出た不安は聞き届けられて。

 幼女はだとしても、問題はないと一蹴。別の検査をしようとしている。

 何とも言えない気持ちになるが、幼女が言うならと引き下がるしかない。 

 「じゃあ次は、認識だな。質問もいくつかするからな?」

 「!あ、ああ。」

 次にとして、幼女は進めて。

 認識らしく。

 分かったと俺は頷きを示す。

 俺の頷きを見たなら。

 「!」

 何を取り出すかと思えば、鏡のようだ。

 幼女の手には余る大きさであって、顔と胸の部分はすぐに映せるほど。

 「じゃ、おめーを映すぜー?くまなく見な?ああ、自分の体見て、うっとりしていてもいいぞー?エイル様は寛大だ!おめーがどんな趣味していようが、バカにゃしねー。」

 「!……何だその言い草……。」

 それで、自己認識を確認するようだったが、言い草が何とも言えない。

 何だか、口が悪く、あんまりいい気がしなくなる。

 そうであっても、映された姿を確認するなら。

 「……。」

 じっと見ていて。

 上半身裸であって、見入るが、惚れ込んだとかではない。

 鏡に映る姿は、まさしく俺である。あの、崖から飛び立つ前の。

 「……?」

 ただ、完全に同じではなく、傷跡が目立つ。

 頭部にも、いくつかあるが。

 上半身の至る所にも、規則正しい穴の痕とか、きっちりとした線の痕とか。

 また、心臓すぐ上の部分には、円形の痣のような物も見受けられて。

 その傷痕以外なら、他ならぬ自分であると伺えるものの。

 その傷痕が、何であるかは分からないでいて、首を傾げた。 

 「お?自分が分からないってか?」 

 「!」

 俺が首を傾げていると。

 自己認識ができていないかと、鏡の横から幼女が顔を出す。

 「……いいや、俺だとは分かる。でも、……何だこの傷痕?自殺未遂して、付いた傷痕じゃないよな?」

 「!……何だ!分かってんのか。で、差異があるってやつか。」

 なお、自分が分からないわけではないと、首を横に振る。

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