2 異世界にて対峙する
その意識が戻ったのは、いつのことだろうか?
微かながら覚えていること、意識が戻るか戻らないか、その狭間の段階では。
感じたのは、煙。
感じたのは、痛み。
感じたのは、悲痛な嘆き。おぼろげで、動くこともできないが。
それらを感じる。
それらの映像を見る。
嘆き。
悲痛。
誰のものだろうか?
その悲痛を上げていたのは、誰だったのだろうか。
よく覚えていないが、虎猫の柄をしている、猫耳少年。
腕には、盾。
およそ、降りかかる攻撃を弾くには、あまりにも心許ない。そんな小ささ。
そうであっても、守るか。光の膜は、彼を包み。
片方の手には、光の剣。
どんな技術で、どんな方法で展開される物であるか。
朧な思考では答えを得られず。
ぼんやりと見るしかない。
その少年が、何故骸のようで、重たいこの自分に、声を掛けるか。
「……。」
しかし、その少年をまるで、包み込むように少女が抱き締めて。
同じく、猫耳の少女。
赤茶色の毛並みに、肩ほどの長さの髪。
猫のしっぽ、その体毛に合わせた、服装。
およそ、俺が暮らしていた世界とは考えられない感じ。
その少年は、抱き締められて、やがて自分を取り戻して。
タイミングを同じくしてか。
やがて誰かと会話を始めて。
色々と聞いて、頷いていたりと。
その会話の中、一人はとても寂しそうであって、嬉しそうであって。
そうであっても、このまま幸せならいいのだが。
《シールドバッシュ、エネルギー充填率80%。残り10分で完了します。コマンド実行がない場合、自動的に起動します。》
「!!」
「「!!!!」」
無機質な音声が、その空気をダメにして。
場は慌てる雰囲気になり。
しかし、冷静にある人は言って、その少年少女を送る。
諦めに似た、悲しそうな溜息を洩らしていて。
《シールドバッシュ展開まで、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1。シールドバッシュ、オービタル。》
《カウンター。……さようなら、猫耳勇者。ここは、私が引き留める。》
嫌なカウントが成されて。
いよいよというところで、誰かは、遠くを見ながら言うような声を漏らして。
……やがて場は、光に溢れて。
衝撃を伴い、何もかも、吹き飛ばしていく。
俺の意識も、きっと……。
「……!」
……いいや、消えなかった。
閃光が通り抜けて、眩しさが消えたなら、煙みたいなむせかえる空気を感じて。
咳き込みそうになったものの、体が動かない、何もできない。
他に、音はなく。
「スフィア狩り~!スフィア狩り~!」
「……みっ!みっ!」
静かだと思ったなら、遠くから人の声を耳にする。
一人は、猫みたいな声だったようだが。
「でっかい〝スフィア〟は残ってるぅ~?残ってるぅ~!!これでしばらく、宴会ばっかり食べほうだ~い!!」
「……みっ!みみっ!!」
近付いてきては、ガラクタを漁るような音を立てて。
乱雑にガラガラ鳴らしては、何かを探していて。
また、嬉しそうにしてもいる。
見付けては、弾んでもいて。
もう一人の、猫みたいな声の人もまた、合わせるように弾んで。
「!!!みっ!みっ!!」
「あ?!〝トール〟?!何か見つけたのか?……おい。死体じゃねーか。あと、そこに転がっているのも、ほとんど死体と変わらんぞ。」
「……(ふるふる)。」
「……スフィアの反応を感じる。こいつからか?んじゃ、死体から剥ぎ取って……。」
「……(ふるふる)。」
「んだと?〝フォトンシールド〟が稼働してやがる?ちぃ……。」
「……(こくこく)。」
「はぁぁ。剥ぎ取りはやめだ。こいつもろとも、持って帰るか。あーあ。ああ、後で〝エイル〟に叱られっぞ、こりゃ。あ、叱られたら、お前のせいだからな!」
「……みっ!」
「おーし!言い出しっぺ!お前持って帰れよ。」
「……みっ!」
どうやら、俺を見付けたらしいが、何やらもう一人と一悶着しているらしく。
嫌でも、耳にしてしまう。
「!」
その後で、俺の体に手を付けたか、誰かが持ち上げて。
軽く、弾む息を立てながら、どこかへ俺を連れて行った。
「……!」
誰かの背中に担がれていてか。
安堵を覚えて俺は、なぜか意識をまた失くしてしまう。
「……?」
ぼんやりとした朧気の意識の中。
「……血圧、正常域。血流、正常域。はぁぁぁぁ。何でエイル様がこんなことを。」
溜息をつく、誰かが何か検査しているか。それにしても、幼い子どもの声で。
何か、パネルとかを叩くような音を立てていて。
「〝ヴァルキリー〟のバカ。あ、いや、ありゃ〝トール〟ってたな。こんなほとんど死体状態の奴持ってきやがって。まあいい。あいつ、してやらねーと、しばらくむくれやがるし。……ったく。ガキかっつーの。」
続けては、不満たらたら。
「……脳波……は多少あるが、意識があるとは思えねー。まるで、抜け殻じゃねーかこれは。しょうがない。脳神経マッピング。活動痕トレース。……上手くいくか、分かんねえけど。やるっきゃないか。」
そうであっても、自分の作業には集中していて。
カタカタと、何かを叩く音を立てては。
「トレース完了。意識リカバリすっぞ。ボルテージ、正常。アンペア、正常。リカバリ開始!」
「?!んんんん?!」
何かを始めたと思えば、急に体中に電流が迸る。
強制的に、神経が働くか、俺は思わぬことに体を弾ませてしまう。
悲鳴を上げそうになったが、何か口元にあるからで、くぐもった声になり。
「?!」
また、その途中で、警告音が鳴り。
「ちぃぃ!!やっぱりこうなるか!こいつ、一回〝死んで〟やがるから!!生きようとしやがらねぇ!!!!バイタルも何もかも、滅茶苦茶だ!!!」
モニターをしていたが、まずい状況らしい。
「……っ!!……っ!!」
俺は、何が何だか分からないでいるが。
体は痙攣をしつつも。だが、ふと安堵もする。
ようやく、死ねるのなら。
このまま、逝くのも……悪くない。
このまま、意識がなくなるなら……。
第一、俺は自殺をしていたのだから。
そう言えば、と。俺は、思い出していて。
長い時間を経た気がするが、ようやく……。
「……しょうがねぇ……。かくなる上は、こいつの体に装備されていたスフィアを直接埋め込むか。へへへ。へへへへへ!!!!!!」
傍ら、そいつはにやりと笑っていて。
不敵にも思えて。
「このエイル様の手で、〝モンスター〟作ってやるか!!」
不敵に笑むなら、作業を開始して。
「?!」
痙攣し過ぎて、よく分からないが、そいつは、徐に俺の胸に、何か金属製の、冷たい物をあてがう。
ずぶりと、肉を開く音が聞こえたなら。
「おっし!!!吸引吸引!!スフィアを胸に挿入!!へへへへ!!さぁて、適合するかせずに、派手に弾けるかぁ!!レッツパーティ!!!!」
俺から出てきた血液に対して、道具を使って吸引をして、その後、その開いた穴に対して、何かを埋め込む。
そうしたなら、不気味に笑い声を上げて。
テンションが上がったような。
「……っ?!……っ?!」
やがて、皮膚を縫い合わせるような感覚がして。
「スフィア同調レベル……正常。このまま一気に行くかぁ?!フロー最大!!パルス最大!!行けっ!!行きやがれっ!!!〝化け物〟になりやがれっ!!ひひひっ!!ひははははははははあはははぁ!!!」
「?!」
挙句、何をしたか。
次第に、体中に電流が走る感覚がして。
体が弾む。
それを見て、施術をする誰かは、狂喜に笑う。
意気揚々となったなら、そいつはまた、操作して。
合わせて、その出力が上がるか。
体を流れる電気は、威力を上げて。
堪らず俺は。
「んんっ!!!んんんぅぅぅぅ!!!」
叫び声を漏らして。
「んんんぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
挙句、遠吠えのような咆哮が上がった。
……それからどうなったか分からない。
意識が飛んでしまう。やはり、命をここで落としたか?
いいや、意識は飛んだが、命が飛んだというわけでもない。今だここにある。
「……?」
ゆっくりと瞼を動かせば、思った通りに動き、眼前に風景を見せる。
最初に入ってきた風景とは、無機質な金属の天井であり。
「……?」
今度は、耳を澄ましてみると。
同じくよく反応する。
音を聞けば、一定リズムで鳴る、電子音。心音のモニター音か。
ならば、ここは病院か?
……病院。なら、俺は、あの崖から自殺したはずなのに、未遂で。
無様に生きることになったか。
病院だと思うなら、嫌に曇った思考が蘇ってくる。
「……。」
視線を動かして何かないか探してみる。
例えば、ナースコールとか。
「……?」
しかし、そのような物は見受けられない。
あるのは、無機質な機械の類と、点滴の器具。
反対方向は、船に備えられるような丸窓ぐらいであって。
何だろうか、違和感があって仕方ない。
ただ、視線を動かすだけでは、せいぜいそれだけ。また、天井を見る羽目に。
「……。」
視覚と聴覚動くなら。
ふとした疑問。身体自体はどうなのだろう。
「……!」
動かせるだろうか、そっと、いつものように身体を動かしてみる。
「!!」
予想通りか、いや、予想以上に身体も動く。
反応をして、俺の脳から出る指示通り、体を起こしてみせた。
そうして身体を起すなら。やはりベッドの上のようで、シーツが被さっていて。
「おほっ!!おぉぉぉぉぉぉ!!!」
「?!」
そうした中、視線の先にて、一人の少女が現れる。
その少女、三毛猫の猫耳を持つ、少女……いや、幼女。
瓶底みたいなメガネをかけて、博士のような白衣を着ている奴。
短い髪であり、それをツインテールにして、より幼い。
俺と視線が合うなり、歓喜に声を上げた。
その声を上げたなら、凄まじい速度で走り寄ってくる。
「おぉぉぉ!!目ぇ覚めた?覚めたか?!おい!」
「!!!あ、ああ。そ、そうだけど……。」
走り寄って、ベッドに寄ったなら俺の顔を覗き込んで。
歓喜を露にしながらも、聞いてくる。
その勢いに、身が退いてしまうが。
生憎、ベッド故に、逃げられるわけもない。
「……おぉぉおぉ。意識もあるようだぁ!!!ただの人間のくせして、適応してるってことかぁ!ひひひひひ!こいつぁ!いい拾いもんだぜぇ!あのバカ猫も、たまにはお宝みたいな奴を拾ってくるってか。」
「……?あ、あの……。」
俺のことは放っておいて。
その幼女は、意気揚々としていて、また、俺の様子を見て、歓喜もしていた。
放っておかれて、何とも言えず、また、状況を掴めないでいる。
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