諦めなかった。
奈々星
第1話
少年は諦めなかった。
4時間目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った瞬間、少年は教室を飛び出した。
クラスメイトは少年の名を呼んで彼を引き止めようとしたが少年は走り続けることを諦めなかった。
クラスメイトのどよめきを差し押さえて先生が1番大きな声で少年の名を呼ぶ。
それでも少年は一瞥もくれず走り続けた。
先生の絶叫を不思議がり他のクラスからも生徒が溢れてくる。
クラスメイトや先生は未だに少年の名を呼んでいる。
他のクラスから出てきた野次馬たちも少年の行く手を阻もうと廊下を塞いだり少年の制服を掴んでクラスへ引き戻そうとするが、
少年は誰にも捕まらないことを諦めなかった。
どれだけ多くの生徒に制服を捕まれ身動きが取れなくなろうとも、機転を利かせてブレザーを脱いだり、ベルトを振り回して牽制しながら
廊下を駆け抜けた。これで自分の学年の階は
クリア。
次は1つ上の階、中学2年生のいる階だ。
この学校は不便で上の階へ行く為にはその階の廊下を走り抜けて反対側まで行かなければ階段にたどり着けない。
古い校舎なので大昔の人間の杜撰な設計が垣間見える。
クラスメイトも少年を追って少年が登ろうとする階段にやってくる、少年は階段を駆け上がり始めた。1段、いや2段飛ばして軽快に駆け上がっていく。
そして少年は3階の2年生の教室を横切り次の階段を目指す。
いくつかのクラスの給食委員が給食室まで
給食のワゴンを取りに来ていた。
図体のでかいワゴンの間をすり抜け少年はさらに颯爽と人の間を駆け抜ける。
後方が一段と騒がしくなってきた。
クラスメイトや先生が3階にたどり着いて、
少年の姿を捉えたようだ。
彼らが少年の名を呼ぶせいで、2年生も少年の行く手を阻もうと制服を掴んだり、廊下を大人数で塞いだりする。
2年生は何層にも及ぶ壁のようなものを密集することで築き上げ少年を阻もうとした。
少年は持ち前のジャンプ力でまだまだ成長途中の小さな男たちの穴をついて、見事その壁を乗り越えた。
クラスメイトや先生の声に煽られて、
2年生達も少年を追ってくる。
2つ目の階段までたどり着いた。
少年はふたつの学年に追われている。
1クラス30人ほどで一学年5クラスあるから
少年は300の人々に追われている。
学校が傾いてしまう前に、少年は2つ目の階段を駆け上がった。
そして4階、3年生のいる教室、その階でも
給食の準備が繰り広げられている。
先頭を独走する少年と300の生徒と少年の担任。サバンナの水辺を群れで大移動するヌーのように少年率いるその1団は中学三年生の
階を蹂躙していく。
3年生も少年を阻もうとする。いち早くその騒乱を聞きつけた1番奥の教室から机や椅子が廊下へ運び出されてバリケードを張っている。さらに給食のワゴンを少年に向けて転がしてくる。
少年は身軽にかわし、後ろの300の生徒の前線の生徒を再起不能にしていく。
次の壁は2年生の時と同じように密集して人間の壁を築いていた。
少年は再びジャンプして人々の上に乗っかりそのままほふく前進のような動きで壁を越えようとする。しかし3年生は素早く動けないという少年の弱点をつき、少年の下の者が素早くいなくなり少年を地面に落とし本当に身動きを取れなくした。
しかし、少年は諦めなかった。
男子生徒の急所を殴打し、壁に穴を開けて抜けていく。
少年は壁を崩すことを諦めなかった。
事前に積まれていた机と椅子のバリケードを蹴破り少年ついに4階から屋上へと続く階段までたどり着いた、少年を追いかける生徒の数は450まで膨れ上がり少年に襲いかかる。
少年は再び階段を駆け上がる。
そして屋上の扉にたどり着いた時
ある絶望が訪れた。
鍵がかかっているのだ。
しかし少年は諦めなかった。
扉付近で彼らを待ち、後ろから迫り来る450の生徒たちの勢いで鍵のかかった扉を
力ずくで押し破ったのだ。
そして少年は勢いよく屋上に投げ出されるが
すぐに体勢を整え、少年は目的を果たすべく
また走り出した。後ろから溢れる生徒たちの踏み台となって扉を押し破った前線の生徒が悲鳴をあげる。
が、少年の名を呼ぶ450の声にかき消される。
そして少年は目的地へ行く為、その最後の一歩を踏み切った。
後ろの生徒たちはさらに大きな声で少年の名を呼ぶ。
「井上〜!!!!!!」
少年井上は屋上から飛び立った。
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ブロロロロロロロロロ…
大きな風を起こしながら
ヘリコプターが学校の上空に浮かぶ。
このヘリから取られた映像がお昼の情報番組で流れている。
少年井上は諦めなかった。
少年井上は"生きること"を"諦めること"
を諦めなかったのだ。
諦めなかった。 奈々星 @miyamotominesota
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