第2話 暗芯

 ――ここがカレス王国か。


 集落から幾分か歩いた先にあるものものしい壁。

 これは王国の外壁だ。

 争い事が起きた時のためであろう。

 あと単純に王国内外の区別が容易だからか。


 壁の内側は賑やかな街が広がっているのだろう、音が聞こえてくる。

 その壁の道との接点に、大きな天使の翼を催したような門が。


 門の懐に傭兵がいる。

 ただ通る人は基本そこまで見ていないようだ。


「よし」


 僕は普通に歩みながら門へと近づく。



 ――門を抜けた。


 と安心したのもつかの間


「そこの兄ちゃん!」


(呼ばれた……!?)

 まずい、何か怪しい挙動が僕にあったのだろうか……


「荷物も持ってねぇけど、冒険者志望かい?」


 しまった、ほぼ手ぶらであることを忘れていた。

 地図しか持っていない。

 傭兵に目をつけられてしまっては面倒なことになりかねない。


「そっ、そうなんですよ!」

「――どこから来たんだい?」


 まずい、記憶がないとバレてしまっては保護対象になってしまう。

 それは嫌だ……


 ……そうだ、村だ!


「この国周りの村民です……それほど遠くもないので、心機一転して何も持たずに来ちゃいました! ハハ……」


 さすがに無理があっただろうか、だがアルート村という事にしたら距離的にそう遠くはない。無くはないと思うが……


「そうか! 見かけによらずワイルドな奴だな!」


 ……傭兵さんは頑張れよと励ましの言葉を添え、見送ってくれた。


(危ない……良かった。)


 僕みたいな事を言う村民もいるということだろうか。

 それとも今の会話自体傭兵さんの暇を潰す程度だったのかもしれない。


 しかし、もしもの時も考えスキルも活用した方がいいな。


 緊張がほぐれた頃に気づく。

 多種多様な種族が賑やかに過ごす街だ。

 人間は勿論、爬虫類や獣系の亜人、妖精族やエルフなんかもいる。

 とても活発で治安が良さそうな国。


 僕は辺りの光景に目を向けながらその街並みを歩き進める。

 なんだろうこの高揚感は――

 ――記憶はないが、こういう国があるという常識は知っている。

 しかし、僕の胸は昂る。


 これからここで過ごして行くのか……


「楽しそうだ」


 その喜びは言葉として溢れた。

 そして目の前にいかにもという佇まいで大きな建造物が。


 ――ギルドだ。


 入って正面。

 たくさんの人が並んでいる。

 おそらく受付カウンターか何かだろう。


 僕もその列の後端に添うように立つ。


 周りに目を向けていたら、あっという間に僕が先頭。


「あっ、新しく冒険者志望される方ですね!」


 綺麗な子だ、獣耳がピクピクと動いている。

 隣の、その隣のカウンターも綺麗な子が受付けだ。


 僕は胸の昂りを放出するように、はいと答える


「では、この用紙に必要事項を。名前と、年齢と、役職ですね」


 ――ルーク・フェイカー。

 ――19歳。


「役職というのは?」

「そこは書く人によって様々ですね、狩人や魔法使いなどと得意分野をわかりやすく書く人もいますし、前衛や後衛と大まかに書く人もいます」


 なるほど、補足的な感じか。


「ルークさんは初心者なので、『未定』と書いておけばいいですよ!」


 ――未定、っと。


 書き終えペンを離すと、突然紙が青白く輝き出した。


「おわ!」


 僕は思わず驚きの声を漏らす。


「この用紙は必要事項を記録すると、自動的に冒険者カードへと変わるんです!」


 面白いものもあるものだな。


 そう思いながら、縮んでゆく用紙を見つめる。

 カード程の面積になった後、纏っていた光が音を立てて弾ける


「こちらがルークさんの冒険者カードになります! 無くしても再発行できますが、手数料として2紅鉄貨クダスかかりますので、無くさないようにしてくださいね!」


 20銅貨ダリス分もかかるのか


 金銭的な記憶はあるけど、一応おさらいしておくか。

 忘れていることもあるかもしれない。


 1番価値が低いのが銅貨ダリスだな。15枚程で一日の生活はできた気がするが……

 ……何を食べていたかは思い出せないな。


 次が紅鉄貨クダスか。10銅貨ダリスで1枚の価値だな。

 少し高価な物品がこれくらいの価値だった気がする。


 ……どういう物品があったかは、同じく覚えていない。


 そして紅鉄貨クダス20枚で1枚の価値になるのが、銀貨ゲイス

 銀貨ゲイス10枚で金貨コイス


 こんなところか。


 受付の子からクエストの説明を受け、初心者援助金1紅鉄貨クダスと5銅貨ダリスを貰った。


 今日は宿で休むか。


 後から聞いたところ、あの受付の子はミリアちゃんと言うらしい。

 特に意味は無いが、1番右の受付が人が少ないので、そこに並ぶようにしようと思った僕であった。


















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