虚実のファントム

日ノ下 堕翼

第1話 開世

 何も無い……


 ただ何も無い……

 世界とも、空間とも呼ぶにも呼べぬ、虚無。




 ……ふと、「輝き」が溢れる。


「――あ」


 僕は、目を覚ました。


「――太陽だ」


 空が青々と姿を表す

 目が眩しさに自ずと閉じる。


「ここは……?」


 再び開くと、辺りは、木。


「森……かな?」

「ここはどこだ? 僕は何を……」


 目が覚めた僕は、1つ確かに失っているものがあった――



 ――記憶だ。




 *




「とりあえず自分のステータスを見てみるか」


 どうやら自分の記憶はないが、常識的なことは覚えている。


(ステータスオープン)


 ピィーン


 ……聞き覚えのある音だ。

 ステータス画面が出てくる音。


「さて、僕は誰だったんだろう」


 すぐに表示に目を向ける。

 名前は――


「ルーク・フェイカー」


 年齢: 19歳

 性別: 男

 スキルは――



 ――幻覚操作――



「――幻覚操作……??」


 ここで1つの可能性が生じた。


「幻覚操作ってことは……今の状態が幻覚なんじゃ……?」


 すぐに脳内でこの状態からの解放を念じた。


 ――しかし空気は静まり返る。


「解除! 解放! 終わり!」



 ――耳に入った小鳥のさえずりが、状況を鮮明化する


「――うん、違うね」


 状況を整理しよう。

 僕はどこかも分からない森にいるところで目を覚ました。

 そして自分の記憶はないと。


「やべぇ」


 零れ落ちる言葉にしてもあっけない。


「とりあえずもっと情報は……そうだスキル!」


 スキルの詳細な扱いを見るべく、ステータスに再び目を通す。


 ――幻覚操作――


 詳細: 視覚操作、聴覚操作


 視覚操作、詳細: 周囲の人間の視覚による認識を自由に妨害する

 聴覚操作、詳細: 周囲の人間の聴覚による認識を自由に妨害する


「……結構便利だな」

 スキルの詳細通りであれば、今の僕の状態はスキルによるものではないだろう。

 とりあえず、周辺を探索する事にした。


「お、道か?」

 森を歩いてすぐのところに、道のような線状の空間が見えた。

 出ると、確かにどこかに続いているようだ。


 道をしばらく進むと、集落のような場所にたどり着いた


「木造の建物がー、1、2……6件だな」


「とりあえず人がいるか探して、色々聞くしかないな……」


 とりあえず手前の小さな家を訪ねる


 コンコンと、ノックをして呼びかける

「あのー、すみませーん」


 少しの間の後、木音が近づく。


 ガチャ

「なんでしょうか……?」


 扉を開けたのは30、40くらいの女性。


「すみません……ちょっと道に迷ってしまって……」

「あら、そうなの……とりあえず上がってちょうだい」

 女性は微笑みながら中へ入れてくれた。


「それで…… 迷ってしまったんですって?」


 女性がお茶を運びながら話を始める。


「……はい、村での周辺の見回りをしていたら、道に迷ってしまって……」


 村の見回りというのは架空の設定だ。格好も村人に近しかった。記憶がない以上、自分がどういう存在であったか謎が深い。もし自分が誰かに追われるような人間であれば、状況を明かしてしまうのは危険である。


「良ければ地図を見せて貰えないでしょうか?」


 僕はすぐにそう言って地図を見せてくれるように頼んだ。

 女性は棚に向かい、はいと地図を見せてくれた


「ありがとうございます」


 とりあえず地図を見れた。

 村人という設定なのに、周辺の状況を知らなければ怪しまれる。


「あぁ、ここだったんですか。 僕は東の方のこのアルート村にいたんです」

「そうなのねぇ、少し遠い所まで迷ってしまったのね」


 適当に見つけた村の住人だということにした。

 女性は少々微笑みを浮かべた。


「この地図何枚も余ってるし、良かったら持って行っていいわよ」

「いいんですか!?」


 えぇ、と微笑んだあと、また迷っちゃうしねと軽く続けた。


「……ありがとうございました!」


 僕は諸々の礼を込めて言い、手を振って歩んでゆく


 ――少し騙してしまったのが心苦しくはあるが。

 きっとあの人なら許してくれるだろう。


「さて、向かうか」


 そう、アルート村へ帰る!――というのはもちろん冗談だ。

 向かう先はギルド。

 カレス王国のギルドだ。


 過去というものが何も無い――

 ――未來さえも陽炎のように蠢く中。



 ――僕は歩み出した。



















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